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日立がシャトリング量子ビット方式の効果を確認 量子コンピュータ実用化へ光

2023年06月13日13時12分 / 提供:マイナビニュース

日立製作所(日立)は6月12日、シリコン量子コンピュータの実用化をめざし、量子ビットを効率よく制御可能な「シャトリング量子ビット方式」を提案し、その効果を確認したことを発表した。

詳細は、6月15日まで京都で開催中の国際会議「2023 IEEE VLSI Symposium on Technology and Circuits」(VLSIシンポジウム)において、14日の基調講演にて発表される予定。なお今回の研究の一部は、ムーンショット型研究開発事業目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現」の研究開発プロジェクト「大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発」による支援を受けて実施された。

農業分野で注目を集めるニトロゲナーゼ酵素の量子化学計算をはじめ、従来のコンピュータで不可能な超高速の計算を実現するには、100万量子ビット以上の規模の量子コンピュータが必要とされている。このような大規模な量子コンピュータの実現には、集積化された量子ビットを効率的に制御するための技術や、誤り訂正技術の実装が必要となる。

量子コンピュータにはさまざまな方式が存在するが、その中でもシリコン量子コンピュータは、既存の半導体技術を活用することができ、量子ビットの大規模集積化に有利な方式として期待されている。シリコン量子コンピュータでは、シリコン素子中に形成された微細構造の量子ドット中に1個の電子を閉じ込め、そのスピンを量子ビットとして用いる。

なお日立ではこれまで、シリコン量子ビットを格子状に配列させることで集積化を可能にする「2次元シリコン量子ビットアレイ」の研究開発を進めてきたという。従来、量子ビット(電子)は量子ドット中から動かさないのが前提だったが、同社は、アレイ内の電子が移動可能であるという事実に着目し、その原理実験に成功している。さらに、量子状態を維持して移動(シャトリング)させることができれば、量子ビットの演算・読み出しなどの制御に新しい可能性をもたらすとする。そこで同社は今回、この量子ビットをシャトリングさせる制御方法をシャトリング量子ビット方式として提案し、その効果を検証したとのことだ。

量子ビットの場所が固定された従来型のシリコン素子では、すべての量子ビットに対し、演算回路・読み出し回路を接続する必要があった。しかしシャトリング量子ビット方式では、量子ビットをアレイの特定の領域に移動させ、そこで演算・読み出しなどの処理を行うことから、集積化された量子ビットすべてに上述した回路を接続する必要がなくなることが特徴だ。これにより、シリコン素子中の配線・回路が削減され、構造が簡略化されるというメリットを得られるという。

また、従来型のシリコン素子では、隣接する量子ビットの間でクロストークが発生し、量子ビットの性能を低下させてしまうという課題を抱えていた。しかしシャトリング量子ビット方式では、隣接する量子ビットを退避させることで、この低下を抑制することが可能だとする。

これらの効果を取り入れたシミュレータを構築して調べたところ、クロストークの影響が甚大となる大規模な量子演算において、量子ビットを固定した従来型と比べて、シャトリング量子ビット方式が高い量子計算精度(忠実度)を維持できることが確認されたという。さらに、量子ビットを移動させることによって任意の量子ビット間で演算することが可能となり、誤り訂正機能の実装容易化も期待されるとしている。

日立は2023年4月から、量子ビットアレイの制御に適した「量子オペレーティングシステム」の開発に向け、分子科学研究所の大森賢治教授らの研究チームとの共同研究をスタートさせた。同研究チームの冷却原子量子コンピュータとの共通点に着目した量子オペレーティングシステムの共同研究を通じて、量子コンピュータの実用化を加速し、新材料や新薬の開発など、大規模なデータを活用した顧客のイノベーション事業創出に貢献していくとする。

また同社の研究開発チームでは、2024中期経営計画において掲げた破壊的なイノベーション創生について、その中の注力テーマの1つとしてシリコン量子コンピュータの研究開発を今後も進めていくとしている。

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