2025年02月26日18時00分 / 提供:マイナビニュース
UGREENがクラウドファンディングサイトで販売を開始したNASキット「NASync DXP」シリーズが、クラウドファンディング開始からわずか1時間17分で1億円の支援金額を突破するなど、異例ともいえるヒットを記録しました。“知る人ぞ知る”存在だったはずのNASキットが、なぜここまで爆発的な人気を集めたのでしょうか? ヒットの背景や要因をメーカーや関係者に取材しました。
クラウドファンディング開始とともに注文が殺到
UGREENのNASync DXPは、同社が日本で初めて販売するNASキット。手持ちのHDDを組み込むことで、NAS(ネットワークHDD)が簡単に構築できます。デジカメの写真や動画などの大量のデータをまとめてバックアップできるだけでなく、RAIDを利用すれば一部のハードディスクが故障してもデータを復元できるなど、重要なデータを確実に保存できる点が特徴。さらに、家庭内のさまざまな機器からアクセスできるだけでなく、外からでもインターネット経由でデータを参照できるなど、USB接続の外付けHDDにはないメリットも備えています。
NASync DXPは、2024年3月下旬にまず米国とドイツでクラウドファンディングを実施し、13,000人以上から支援購入を獲得。この成功を受け、日本でも2025年2月14日にクラウドファンディングを開始することを決定しました。日本では、2ベイの「NASync DXP2800」、4ベイの「NASync DXP4800 Plus」、6ベイの「NASync DXP6800 Pro」の3製品をラインナップします(海外では8ベイタイプも存在)。
クラウドファンディング開始に先立つ1月15日に発表会を実施し、多くのメディアで取り上げられました。合わせて、興味を持った人に対してメルマガの登録を促し、ダイレクトメールを送付するなど、多くのクラウドファンディングと同様のプロモーションを実施したといいます。
異変が起こったのは、クラウドファンディングが始まった2月14日。開始時刻の10時とともに購入希望者が殺到し、開始からわずか1時間17分で支援金額が1億円を突破。同時に、GREENFUNDINGのサイトがアクセス過多により不安定になり、表示や購入処理が進まなくなる事態が発生しました。
X(旧Twitter)などのSNSでは「Webサイトが落ちた?」「購入できない」といった声が上がり、話題となりました。サイトがほぼ正常に戻った13時半前には支援金額が2億円に到達し、開始から1日経たない翌朝には3億円を突破。1億円の支援金額の達成時間としては、GREENFUNDING史上最速だったそうです。
GREENFUNDINGの担当者によると、Webサーバーがダウンしたわけではなく、多くのアクセスが集中したためサーバーに負荷がかかり、アクセスしにくい状況になり不安定な状態が続いたとのこと。これまで、日本国内のクラウドファンディングにおいて最速で1億円の支援金額を獲得したプロジェクトは、達成まで3日ほどを要したことを考えると、今回のNASync DXPは時間での単純比較だと70倍を超えるアクセスが集中した計算となり、短時間に多くのアクセスが殺到したことがうかがえます。サイトが不安定にはなったものの、完全に購入できなくなったわけではなく、ライブチケットの購入サイトのように運よく処理が進んだ人から購入できたそうです。
“知る人ぞ知る存在”であったNASキットがここまで爆発的な人気を集めるとは誰も予想しておらず、UGREENの担当者自身も想定外だったと話します。注文殺到を受け、製造や流通の体制を見直さざるを得ない状況になったほどだといいます。
発表会からクラファン開始の1カ月間で徐々に話題が盛り上がる
想定外のヒットとなったNASync DXPですが、UGREENの担当者は1月15日の発表会以降、製品に対する関心が徐々に高まってきたことを感じていたと語ります。
1月15日の発表会から2月14日のクラウドファンディング開始までは1カ月ほどあり、発表会を実施するタイミングが早いのでは?という声が挙がったものの、UGREENとしてはクラウドファンディング開始までの期間にSNSなどで話題が盛り上がることを狙ったとのこと。発表会の様子が各種メディアで報道されると、SNSには「性能を考えると安い」「使ってみたい」といった声が寄せられ、メルマガやLINEの登録者数は4万人を突破。反響は大きく、プロモーションの狙いは当たったと感じたそうです。
現在までの売れ筋は、2ベイのNASync DXP2800が一番人気で約50%、4ベイのNASync DXP4800 Plusが約40%、6ベイのNASync DXP6800 Proが10%ほど。米国では、RAID5/6に対応した4ベイのNASync DXP4800 Plusが一番人気でしたが、日本ではスマホに保存した写真や動画データをカジュアルにバックアップしたいと考える人が多かったようです。
UGREENは、日本では充電器やモバイルバッテリーのメーカーとして認知度が高まっているものの、NASキットの投入は正直なところ筆者も含めて意外に感じる人も多かった様子。しかし、UGREENはスマホやPCで多くのデータを扱う時代になったことを踏まえ、早くからNASの可能性に着目。5年前からNASの開発を進めていたといいます。
今回のNASync DXPは、パソコンやネットワークに詳しくない一般層をターゲットにした製品だといいます。スマホを家族全員で持つ時代になり、スマホで写真や動画を日常的に撮影する人が増え、データの管理やバックアップ、クラウドサービスの費用に悩む人が増加。そこでUGREENは、NASキット未経験の入門者でも手軽かつ低コストで使える製品としてNASync DXPを企画したそう。スマホでセットアップできる点や、ドライバーなどの工具なしでハードディスクを取り付けられる設計も、入門者向けの工夫の一つです。
機能面では、AIを活用した写真アルバム機能や検索機能を充実させたと語ります。NASync DXPはAI処理をクラウドに依存せず、オンデバイスで処理する設計となっており、プライバシー面に配慮した点が注目できます。
課題のアプリ不足、サードパーティに門戸を開く方針
支援購入者からの声を見ると、スマホの写真や動画データを保存するために有料のクラウドストレージを利用している人が、NASync DXPを使えば月々のサブスク料金なしで大容量のストレージを利用できる点を高く評価しています。これはUGREENの狙い通りといえるでしょう。
また、NASやNASキットの利用経験がある人からは、高性能のインテル製CPUと大容量メモリーを搭載している点が注目されています。さらに、ベイ数が多い割にコンパクトにまとまっている点や、放熱性の高い金属外装と大口径の吸気ファンによる安定駆動が見込める点も注目されていました。
一方で、ひと足早く製品を試用して気になった点もあります。UGREENは小型軽量設計のUSB充電器で定評がありますが、付属のACアダプターは他社製でかなり大きいのが残念に感じました。UGREENの担当者によると、十分な電力を安定して供給できる点や安全性を重視した結果、信頼性の高い他社製のACアダプターを採用したとのこと。この点については、今後改良する予定があるそうです。
また、専用アプリの少なさや機能の乏しさも気になりました。UGREENの担当者によると、アプリのラインナップを充実させるとともに、サードパーティ製アプリの導入も前向きに検討しているとのこと。振り返ってみると、iPhoneもApp Storeをサードパーティに開放してから爆発的にアプリの数が増え、人気に拍車がかかりました。今後、アプリのラインナップが増えることが期待できます。
NASync DXPは、ハードディスクを用意すればパソコンがなくてもスマホだけでセットアップや日々の活用ができるなど、スマホ時代に適したNASキットだと感じました。これまでのNASキットにつきものの「ハードウェアやネットワークの知識がないと使いこなせない」という欠点はありません。UGREENの担当者も、クラウドサービスの費用が高いと悩むファミリー層や、チームでファイル共有が必要なビジネスパーソンに使ってもらいたいと語っています。大事なデータの管理やコストに悩む多くのユーザーにとって、新たなバックアップの選択肢となりそうです。