2024年10月17日06時00分 / 提供:マイナビニュース
●「モラハラ」と形容するのをためらうリアルな描写
女優の松本若菜が主演するフジテレビ系ドラマ『わたしの宝物』(毎週木曜22:00~)が、17日にスタート。典型とも思える物語運びも、衝撃なラストで大きくひっくり返す、とんでもなく“怖ろしい”作品に仕上がっている。
○夫以外の男性の子を産み育てる「托卵」
本作は、夫のいない平日昼間に不倫をしてしまう主婦の物語『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(14年)や、配偶者とのセックスレスを赤裸々に描いた『あなたがしてくれなくても』(23年)の三竿玲子プロデューサーが手がける、“夫婦間タブードラマ”の3作目。今回は夫以外の子どもを夫の子と偽り産み育てる「托卵(たくらん)」というセンセーショナルなテーマが展開される。
主人公の神崎美羽(松本若菜)は、外面だけは良いが家庭内では乱暴な言葉も放つ夫の宏樹(田中圭)と冷めきった夫婦生活を送っている孤独な専業主婦。それを打開しようと、子どもが欲しいと夫に相談するが、受け入れてもらえずにいた。
そんな折、中学時代の幼なじみ・冬月稜(深澤辰哉)と偶然再会し、しばらくすると日本を離れてしまうという彼と、つかの間の幸福を味わうのだが…という物語が描かれる。
○“代償”を、第1話の中で描く衝撃
このあらすじを見ると、いわゆる“不倫ドラマ”の典型ともいえる。それは、“満たされない主婦”が、ある時“道ならぬ恋”に落ち、それによって“最悪のすれ違い”が起きる…というものだ。今作もその典型と同じく、前半では美羽が夫から受ける“仕打ち”が、モラハラという言葉で簡単に形容していいのかためらうほど、つらくリアルな描写が待ち受けている。
そこに現れるのが、今でも色あせない青春時代の幼なじみで、それはまるで彼女を救う王子様との出会いのような、おとぎ話的な展開を見せる。そして、その現実と非現実が交錯することで、“最悪のすれ違い”が起きてしまう…のだが、この作品が“典型”に決して収まらなかったのは、それらが衝撃的なラストへと美しいほどに集約され、今まで見たことのない“怖ろしさ”が表現できていたからだ。
従来の“不倫ドラマ”であれば、主人公の満たされなさも、道ならぬ恋も、数話にわたってじっくり描いていくだろう。しかし今作は性急とも思えるほどに、第1話に全てが詰め込まれている。そのため、リアルな夫との描写はそこまで描くのかと思うほどつらく、それとは対照的な幼なじみとの道ならぬ恋は、どこか浮いているような甘美なもので、この作品が見せたいものは何か?なかなかつかめない。しかし、それらの描写は“あえて”であり、ラストに待ち受ける“怖ろしさ”を導かせるための構成なのだ。
そしてその“怖ろしさ”は、道ならぬ恋をしてしまった“代償”とも言い換えられる。本来であれば連続ドラマのクライマックスに待ち受けているであろうその“代償”を、第1話の中で描いてしまうということも衝撃的だ。それは第1話における“インパクト”を与えることに成功しているのはもちろんなのだが、第1話からその“代償”を見せることで、ここから10話近くの長い物語において、“この作品が見せたいものは何か?”を明確にするとともに、その“覚悟”まで感じらさせることにも成功しているのだ。
●“いい人”を完全に封印した田中圭
この難しいテーマを成立させるのに、3人の主要キャラクターの好演も欠かせない。
松本若菜は、前クールの『西園寺さんは家事をしない』(TBS)でも見せた快活さが随所に発揮され、重苦しさで支配されがちな空気感の中にちょっとした希望を与えてくれる。一方で、彼女の奥底にある“芯の強さ”が今作では違った方向に根差すことで、ともすれば“そんなことができるはずがない”という物語に、説得力をもたらしている。
夫役を演じる田中圭は、本来の良さであろう“いい人”を完全に封印している。女性から見ても男性から見ても誰にとっても“ひどい男”を見事に演じているのだが、それが田中であるからこそ、これから先のストーリーで、なぜそんな男になってしまったのか、深読みさせてしまう奥行きがある。
主人公と偶然に出会い道ならぬ恋に落ちてしまう幼なじみを演じる深澤辰哉も魅力的で、相反するであろう、一瞬で恋に落ちてしまう王子様的要素と、人たらし的要素、どちらも兼ね備えた絶妙なキャラクターを見事に演じている。
“詰め込まれた”第1話で見どころは満載なのだが、まだまだ序章。“怖ろしさ”のその先に何が待ち受けているのか。3か月の長旅をずっと見守りたくなってしまう初回だ。
「テレビ視聴しつ」室長・大石庸平 おおいしようへい テレビの“視聴質”を独自に調査している「テレビ視聴しつ」(株式会社eight)の室長。雑誌やウェブなどにコラムを展開している。特にテレビドラマの脚本家や監督、音楽など、制作スタッフに着目したレポートを執筆しており、独自のマニアックな視点で、スタッフへのインタビューも行っている。 この著者の記事一覧はこちら