2024年08月09日13時38分 / 提供:マイナビニュース
●配信再生数は視聴率と同じくらい気にするように
全日本テレビ番組製作社連盟が主催する「ATP賞」の40周年を記念した「若手クリエイターズフォーラム」が8日、都内のホテルで行われ、ドラマ、ドキュメンタリー、バラエティでそれぞれ活躍する若手制作者たちが、配信や海外展開といったテレビの現状や、コロナ禍を経ての変化などについて語り合った。
○『ふてほど』で初プロデューサー、『音が出たら負け』が海外賞
登壇したのは、18年にTBSスパークルに入社し、『中学生日記』『私の家政夫ナギサさん』などの助監督を経て、『不適切にもほどがある!』でプロデューサーデビューした天宮沙恵子氏。来年冬には、自身初のオリジナル企画でチーフプロデューサーを担当予定だ。
14年にテムジンに入社した柳田香帆氏は、伝統工芸・多文化共生・地方移住など日本各地を舞台にしたドキュメンタリーを中心に制作し、『いいいじゅー!!』(NHK)などのレギュラー番組の立ち上げも担当。『渡辺直美のナオミーツ』(NHK)で、第57回ギャラクシー賞奨励賞を共同受賞した。
11年に日テレ アックスオンに入社した野中翔太氏は、挑戦者たちが無音のエリアへ潜入し、音を出さずに難関ゲームのクリアを目指すゲームバラエティ番組『音が出たら負け』(英題『Mute it!』)が国内外で評価され、「ContentAsia Awards 2020」のテレビフォーマット(バラエティ)部門最優秀賞を受賞。
14年にNHKエンタープライズに入社した丸山梓氏は、海外からのドキュメンタリー購入業務などを経て、『ようこそ認知症世界へ』『ウィッシュツリー』など、NHKワールド向けの取材やノンフィクションの番組開発を担当。今年、『ミラドール 絶景を聴く』でフランス「Sunny Side of the Doc」に選出された。
○チーム戦で作るコンテンツの強さ
配信コンテンツの台頭で曲がり角を迎えていると言われているテレビだが、柳田氏は「役割はより明確になった」と実感。「“この種類のメダカの飼い方”をテレビでは流せないですが、“みんなが知らないこんな社会問題が今ある”ということを、大きなメディアとして出せる。それに、YouTubeは一人で撮って編集して出す強さ・速さがあると思いますが、情報の正確性や、誰かを傷つけていないか、など大人数で議論しながら作るので、チーム戦で作るコンテンツとしての役割は(ネットに)取られてないのかなと思います」と見ている。
野中氏は、制作会社の立場として「テレビ以外の出しどころがめちゃくちゃ増えて、しかも世界との距離が近づいたので、“テレビ離れ”と言われる中でも、“僕たちは頑張ります”という現場の雰囲気があります」とした上で、「結局サブスク系のコンテンツを作ってるのはテレビの人たちなので、テレビで培ったノウハウがそっちに行ってるし、もしかしたらそのノウハウがテレビに返ってくるかもしれないので、世間が言うほど(テレビと配信)で二分化される必要ってあったんだっけ?と思いながら働いています」と、ありがちな論調に対して懐疑的に語った。
“二分化”を否定する象徴的なツールが、見逃し配信を行うTVerやNHKプラスだ。野中氏は「視聴率が落ちているといいますが、単純計算はできないですけど、視聴率とTVer再生数などを合わせると、意外と見てくれているなという感じで受け止められています。作ってる人たちはTVerとかがあることによって、“本放送ダメだったけど、再生頑張ろうね”ということもあるので、モチベーションにもなっています」と紹介。さらに、「若手はTVer専用の別コンテンツをディレクターとして作れることもあるので、僕らにとって総じて悪いことはないです」と前向きに捉える。
天宮氏は「もはや視聴率と同じぐらい、配信がどれぐらい見られるというのを、制作陣は気にしていると思ってます。『不適切にもほどがある!』では、3話ぐらいでTVerとNetflixの配信がガン!っと回ったんです。口コミとかSNS上で面白そうと思ってくれた若い方とかがすごく見てくれたというのが数字として表れていて、そうすると結果的に4話以降の視聴率が上がるということも実際にあったので、(配信と放送を)全然切り離して考えていないですね」と明かした。
●“おうち時間”が映像と出会う機会に
コロナ禍は、制作者をめぐる環境も大きく変えた出来事だった。野中氏は「『音が出たら負け』は、コロナ禍じゃなかったら通ってないって言われました。1人で静かにやってるんで、飛沫しないというのが通った理由の一つだったので。当時は局内とかで“番組ではなく、コーナー企画だ”と言われたんですけど、時代とマッチングしたというのがありました」と打ち明ける。
天宮氏は「やっぱり“おうち時間”があったことで、日本を含め世界の人たちが家で映像作品を楽しむという機会がすごく増えたと思います。韓国ドラマが盛り上がっていったのも“おうち時間”がきっかけだったような気もするんですけど、そういうふうに世界にこんなに面白い作品があるんだと皆さんが気付ける機会にもなったと思います。そこで、改めて映像って面白いなと思った機会になったと思うので、今だからこそ“頑張って面白いものを作らなきゃな”、“日本の作品も負けないぞっていうのを届けなきゃな”と実感した期間でもあったと思います」と回想。
柳田氏は「自分が働き始めてから一番ぐらいのとんでもないことが世界的に起きて、“今の東京を撮らねば”という不思議な使命感がありました。渋谷のスクランブル交差点に誰もいなくなって全ての広告がなくなって、その中で頑張っている人たちのドキュメンタリーを当時作ったんですけど、今自分がこの世界の状況になったときにこの仕事にたまたま就いたんだから、“やんなきゃ”と思ったんです」と突き動かされた。
丸山氏は「みんな圧倒的に暇な時間があって、連続でいろんなエピソードを見る習慣が増えたことで、ドキュメンタリーでは特にシリーズ化しようという流れが本当に強くなりました。今までは1つの事件とか、珍しい人をキャラクターにしたドキュメンタリーを作ろうとなったら、1時間とか90分で1本で作って、『NHKスペシャル』でかけるとか、映画祭に応募しようということだったと思うのですが、一つの出来事も2話・3話・4話と作っていくとドラマを見ているかのような気持ちで楽しくシリーズを見られるということになって、これはストリーミングとおうち時間の掛け算で出てきた新しいことなんじゃないかなと思います」と変化を捉えた。
○日韓でのお金のかけ方の違い
コロナ禍による“おうち時間”も背景に、サブスク系の動画配信サービスが大きく成長したことに伴い、番組の海外進出も伸びており、「世界との距離が縮まった」と実感する4人。
『不適切にもほどがある!』は、Netflixで190カ国に配信され、韓国でもリメイクの引き合いがあるというが、天宮氏は「最初は国内の皆さんに楽しんでもらえる作品をということで考えていたんです」と明かす。そして、「国内ヒットとグローバルヒットは、作品の系統や趣向が異なるものだと思うので、世界の人のために作った作品が、必ずしも日本でウケるものとは限らないということもあります。なので、どちらの視点も持ちながら、“今回はまずは日本の人に楽しんでもらおう”とか“今回は世界的なヒットを狙おう”とか、作品によって手法を変えながら作っていくことになるのかなと思います」と解釈。
野中氏は「『はじめてのおつかい』がめちゃくちゃ海外で売れているのは、自分たちの日常だと思っていたものが、海外から見ると“子どもを一人で歩かせるなんて日本人は頭がおかしい”ということから、“うちの国じゃ見られないから見たい”になっているんですよね。だから、逆に狙いに行くと外すこともあって、『音が出たら負け』も狙ってないのに海外で売れたんですけど、“これは海外に売れてる”っていう邪念が出てきたら日本での放送が終わって3年半くらい凍結されて、8月19日にまた放送させてもらうことになりました(笑)」と実体験を語った。
この海外展開で、日本の一歩も二歩も先を進むのが、韓国。野中氏は「韓国の有名なドラマの会社の人と話していたら、日本はお金があると、爆破するか、海外(ロケ)に行くか、ギャラの高い人を集めるかからダメだと直接言われました(笑)。韓国は、本にお金をかけるというんです。脚本家に何千万円払って何人も用意するそうで、それくらい考え方が違ってるんだなと思いました。それに韓国はスタジオ主導なので、テレビ局に対して制作会社が“買うか?”という立場で、優位性が日本と逆。制作側が川上にいるので、テレビ局に対して“これだけいいもの作ったから買うだろう”ってなれるんですけど、日本はテレビ局から“この予算でやれるか?”なので、韓国まであと何年かかるんだろうという感じですね」と衝撃を受けたそうだ。
古くは『冬のソナタ』など、韓国ドラマを買い付けてきたNHKエンタープライズに所属する丸山氏は「韓国ドラマが流行り始めた頃は“日本の人も見てくれるんだ”という驚きがあったわけですが、『イカゲーム』とかアジアの人が主人公のアジアの作品を、いろんな国の人が同時に見てトレンドが起きるというのは、コロナの頃にたくさん見て、すごいなと思いましたね」という。
そんな中で、TBSは今年5月、「Studio Dragon」などを持つ韓国のCJ ENMと、地上波ドラマ・劇場映画を共同制作することを発表。天宮氏は「かなり密に、それぞれの制作過程の違いなどを共有したり、ディスカッションしたり、それぞれの撮影現場に見学に行くというのも両方でやって、お互いの良いところを生かして一緒に作品を作っていきましょうという動きが活発です」と報告した。
●意識する「エンドロール」と「インプット」
自身が嫉妬した番組を聞かれると、天宮氏は「私は“この原作をこんな面白く実写化するのか。やりたかったなあ”とか結構嫉妬するほうなんですが、最近ではNHKさんの『パーセント』というドラマですね。実際に障害を持った方々に、ドラマの中で役者さんとして演じてもらうという作品なんですが、これを作った方が、面識はないんですが、大学の同期だったんです。意義があって考えさせられて、かつ面白いという素敵な作品だったので、自分もこういうドラマを作れるように、さらに頑張らなきゃなと鼓舞させられました」と回答。
また、エンドロールを「ものすごく見ます。止めちゃいます」といい、「すごくヒントになるんです。音楽や演出がカッコいいなと思ったら、どんな人に頼んでるんだろうと調べて。クリエイターはインプットの時間もすごく大事だと思うので、日本国内のみならず、各国の作品から日々勉強するのが大事だなと思います」と強調する。
このインプットの時間として、柳田氏は「うちの会社(テムジン)では、週1くらいで社員みんなが会社に集まって、缶ビールとか飲みながら番組を見る会というのをやってるんです。同僚の番組や最近話題になった番組を見てから、あーだこーだ1~2時間しゃべるというのがあって、そこで同僚に“なんであのインタビューはああいう聞き方したの?”とか“どうやって撮ったんですか?”と、喧々諤々(けんけんがくがく)やってます」と、独特の取り組みを紹介した。
○「好きな気持ち」が最も大切な仕事
最後に、会場に集まった若いクリエイターや学生へのアドバイスを求められると、野中氏は「僕は自分が作っているバラエティを“作品”とは思ってなくて、“話題になってこい”と送り出している感じがあるんです。それはテレビもネットもサブスクも関係なく、ムーブメントを起こすという目的にコンテンツを作ることは、結構大切かなと思ってやっています。視聴率より先のものを見ていくと、突発的な発想とか面白いことを思いついたり、気づいたりするのかなと思って生きてるので、それが参考になれば」とコメント。
天宮氏は「我々は結構視聴率どうこうとか気にしなくちゃいけなかったり、テレビの未来はどうだみたいなことを言われて、頭を抱える日々かなと思ってるんですけど、根底に自分が面白いと思うものを作り続けていけば、それが皆さんに届くんじゃないかと信じてやっていきたいと思うので、一緒に切磋琢磨してこれからもやっていきたいなと思います」。
丸山氏は「社会人を10年やっていて、いろんな人を見て思うのは、好きな気持ちとか好奇心とか熱意とかに勝てるものはないなと、すごく実感しています。スキルがあることも大事かもしれないけど、それよりもやりたい気持ちのほうが大事だったりして。私たちはエッセンシャルワーカーではなく、何かを作らなくても基本的に誰も死なないような仕事なので、作らないことはいくらでもできると思うんですけども、そこでやっぱり最後に残るのは“作りたい意思”というところが強いと思うんです。そういう気持ちを大事にしていただけたらと思いますし、そのために仕事以外でも楽しいと思ったことに頑張ってみるといいのかなと思います」。
そして柳田氏は「テレビ業界って資格もいらないし、“テレビ業界に向いてる人”って結構広くて、むしろほぼ全ての人が当てはまる広い世界なんじゃないかと思っています。おしゃべりな人もいればそうじゃない人もいますし、アクティブな人もいればインドアな人もいるし、皆さんの個性がそのまま生かせる場所だと思うんです。ADとか新人時代に“あの子大丈夫かな?”って思っていたような子がディレクターとしてとても大成することもありますし、逆にスーパーADだった人がディレクターになって壁にぶつかることもありますし、皆さん自分の好きなもの・楽しいと思ったことを伸ばしていけば、どんな方でもなれる職業の一つかなと思います」と呼びかけた。