2024年08月07日07時02分 / 提供:マイナビニュース
●神宮球場の一角で大声援が響くフォトスポットを体験
7月23日・24日、日本プロ野球の12球団が主催となって球界を盛り上げる、年に1度の祭典「マイナビオールスターゲーム2024」が開催された。普段はライバルとして戦う球団の選手たちも、そして各球団を応援するファンたちも、この時だけは敵味方関係なく一丸となって野球を楽しむ。23日の第1戦はエスコンフィールドHOKKAIDOで、24日の第2戦は明治神宮野球場で行われ、両日ともに多くのファンが駆け付ける中で、大熱狂の2試合が繰り広げられた。
第2戦を間近に控える24日の夕方ごろ、神宮球場には前夜の盛り上がりも後押しして早くから多くのファンが集結。そんな中、まだ試合が始まっていないにもかかわらず大きな声援が響く一角があった。
そこにあったのは、HYTEKが博報堂アイ・スタジオと共に手掛けた新体験装置「Yell Selfie(エールセルフィ―)」。オールスターゲームのフォトスポットとして設置されたこの装置は、“声援”を可視化して思い出として形に残すというもの。来場者の声を集めるYell Selfieには、どういった仕掛けや工夫が施されているのか。多くのファンが体験した神宮球場での様子と共に見ていこう。
○“来場者のエールを可視化する”新体験のフォトスポット
Yell Selfieのコンセプトは“来場者のエールを可視化し、その様子を思い出に残す新体験装置”。利用者の声がシャッターを切る引き金となるため、一般的なフォトスポットとは違った写真を撮影できる点が大きな特徴だ。
利用者は撮影に向けて、まず声を出す練習も兼ねて「スタート!」と発声。その声が装置上部のメガホンに届いたら、いよいよ撮影開始だ。数秒後に開始されるカウントダウンに合わせて、視線の先に書かれたキーワード「マイナビオールスター最高!」というキーワードを思いっきり叫ぶと、その声がシャッターの合図となって写真が撮影される。
シャッターが切られるのは、キーワードを叫ぶ中で最も音量が大きかった瞬間。その様子を切り取った写真は、手のひらサイズのフォトカードとなって手元に届けられた。
またブース内には、Yell Selfieで撮影された来場者たちの声援の様子が動画で見られるサイネージも設置。多くの人が体験すればするほど、みんなのエールが溜まっていくのである。ちなみに撮影時の動画は、フォトカードにプリントされているQRコードからダウンロードすることも可能。日常ではなかなか見られない“叫んでいる瞬間”は、写真だけでなく映像でも記録できる。
○楽しい瞬間を切り取るために施されたさまざまな工夫とは
Yell Selfieの開発を主導したHYTEKの道堂本丸氏によると、体験者が声を出しやすい環境を整えるために、モチーフとなるメガホンを上に向けて設置したとのこと。また上から広く視野を確保したカメラで撮影することで、“みんなで映る”ための工夫も施しているという。
さらに、カメラにどう映っているのかを確認する手段がほとんど無いこともこだわりの1つ。メガホンにはカメラレンズと共に小さなモニターがあるが、“カメラの視野角に入っているかどうか”を確認できる程度で、表情や髪形を細かく確認できるほどの大きさではない。その狙いとして道堂氏は、「Yell Selfieでの体験においては、美しく映ることよりも、楽しんでいるときの表情などを素直に見て楽しめることが重要」とし、映り方を気にせずに楽しめる設計を意識的に行ったとする。
実際にYell Selfieを体験した来場者たちは次々とエールを響かせ、試合が楽しみで待ちきれない人は周囲一帯に大声援を響き渡らせていた。さらに、その声を耳にしてYell Selfieの体験に向かう人も多く、気付けばブースには行列が伸びるほどとなっていた。
●Yell Selfieを開発したHYTEKの狙いは
○非言語コンテンツで新たなコンテンツを創り出すHYTEK
Yell Selfieを開発したHYTEKは、エンターテインメントやカルチャーに対して非言語のコンテンツやテクノロジーを活用することで、新たなコンテンツを生み出すことを目指し、主に企画やプロデュース、ディレクションを担っている。
HYTEKの事業が始動したのは、2020年4月。まさにコロナ禍が始まったころだ。当時はイベントがことごとく中止になり、それどころか外出すらまともにできない状態に陥った。エンタメ業界がかなり暗い雰囲気に包まれる中で、道堂氏は「業界に対して何か我々にできる事はないか」と模索を始めたとする。
そして2021年にまず形になったのが、コロナ禍で求められた“検温”に楽しさをプラスした「Thermo Selfie(サーモセルフィ―)」だった。この装置では、それまで無機質で面倒な時間となっていた検温作業の際に、カメラに向けられた顔の写真を撮影。その場で印刷されたフォトカードを入場パスにするなどのさまざまな仕掛けによって、検温に楽しみをもたらし、笑顔で入場してもらうという新たな体験が創出された。
その後コロナ感染拡大も落ち着き、検温自体がそれほど求められなくなってきた中で、Thermo Selfieのコア技術を応用する形で新たなアイデアを形にできないかと、イベントシーズンである夏に向けて検討を開始したHYTEK。そして、徐々に声出しOKのイベントが増えている中でも“拍手”が大きく、なかなか声援が出にくくなっているイベント会場の状況に着目し、「声を出していいことを改めて伝えたり、声を出す練習として使えたりする新しい体験が無いかな」と考え、Yell Selfieというアイデアにたどり着いたとする。
道堂氏は「Thermo Selfieは事務的な検温を楽しくする、いわば“マイナスをプラスに”というものだったが、Yell Selfieはイベントをさらに盛り上げるもの、言うなれば“エンタメのプラスをもっとプラスに”するために開発している」とし、「ライブやスポーツ会場などで声を届けることを重要視していて、声援を可視化して“エールを届けている”ことを体感できるよう工夫を重ねている」と語った。
なお、Yell Selfieはこれまで音楽フェスなどで設置した実績はあったものの、スポーツイベントへの設置は今回のマイナビオールスターゲームが初めてとのこと。多くの野球ファンが撮影を体験したとのことで、道堂氏は「野球やスポーツの持つ“応援”という熱量がYell Selfieと組み合わさり、体験者だけなく、それを見ている人からも自然と拍手や声援が湧き起こり、やはり相性がいいんだなと感じた」と語った。
○「ノンバーバルコンテンツ」を創り続ける
HYTEKでは、日本が持つさまざまなテクノロジーを、コンテンツの力を通じて発信することを目指し開発を進めており、特に国籍や年代を問わずに楽しめる“非言語”のコンテンツを重視しているという。発声という直感的な動作にアプローチしたYell Selfieはその際たる例であり、これからも便利さよりも楽しさにつながるものを創り出していきたいとする。
またすでに、この夏以降に行われるさまざまなイベントでのYell Selfie設置に向けて話し合いが進められているとのことで、今後はスポーツや音楽に限らず、“エール”が力を発揮するさまざまな場面に結び付けて、取り組みを広げていきたいとしている。
それまで当たり前のように人々を支えていた声援は、コロナ禍によって一気に失われてしまった。しかしその声が徐々に戻ってくるにつれて、やはりその大きなエネルギーは不可欠なものになっている。マイナビオールスターゲーム2024 第2戦で設置されたYell Selfieは、たくさんのエールを受けてシャッターを切り、思い出の瞬間を収め続けた。
そして試合中には神宮球場全体に大きな声援が響きわたり、躍動する選手たちを後押し。史上最長の試合時間となり、得点や安打数などがオールスターゲーム史上最多を記録するなど、まさに記録づくめのお祭り騒ぎとなった一戦の裏では、ファンの声出し準備を手助けしたYell Selfieが一役買っていたのかもしれない。