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運動の学習には運動の実行に至るまでの決断の迷いが脳に反映される、NICTなどが発見

2024年06月13日19時55分 / 提供:マイナビニュース

情報通信研究機構(NICT)などの研究グループは、意思決定や運動制御において、一度意思決定がなされてしまえば、その決定に対する確信度合には依存せずに同じ運動が実行されるとのこれまでの考え方を覆す、脳は決断を迷った末の運動と、迷わずに行う運動を区別し、異なる運動として実行していることを確認したことを発表した。

同成果は、NICT未来ICT研究所 脳情報通信融合研究センター(CiNet)の羽倉信宏 主任研究員(兼 大阪大学大学院生命機能研究科)、同 小笠希将 研究員(研究当時)、同 横井惇 研究員(兼 大阪大学大学院生命機能研究科)、同 平島雅也 研究マネージャー(兼 大阪大学大学院生命機能研究科)、本田技術研究所 先進技術研究所の西垣守道チーフエンジニア、Institute of Neuroscience, Chinese Academy of Sciencesの岡澤剛起チームリーダーら共同研究グループによるもの。詳細は、英国科学誌「Nature Human Behaviour」オンライン版に6月11日付で掲載された。

何らかの行動を行う際、確信をもってその行動をした場合であっても、確信が持てない状態のままその行動をした場合であっても、行動そのものは見かけ上は同じ運動であるため、これまでの研究では、脳からは同じ動作に関する指令が出されていると考えられてきた。これは、従来の意思決定や運動制御の理論では、一度意思決定がなされてしまえば、その決定の確信度合には依存せずに同じ運動が実行されると考えられてきたことを意味する。

今回の研究はそうした従来の考えを覆すもので、2つの実験から導き出されたという。1つ目は、被験者がロボットハンドルを握り、装置の前に座った状態で画面上に表示される多数の点が全体的に右に動いているのか、左に動いているのかを判断した結果と同じ方向にハンドルを動かすというもの。ただし、ハンドルは動かす際に素直に動かしたい方向に向かわせない邪魔な力がかかる仕組みが取り入れられ、その力に対抗してまっすぐハンドルを動かす学習が行われた。また、被験者は、提示される点の動きが簡単に判断できるグループ(迷いなしグループ:同期率100%)と、簡単には判断できないグループ(迷いありグループ:同期率3%)の2つのグループに分けられた形で実施された。

結果としてはどちらのグループも同じ程度、邪魔する力に対抗して運動ができるようになったものの、迷いなしで運動を学んだグループが、迷いのある状況に置かれると、うまく邪魔する力に対抗できないことが確認された一方、迷いありで運動を学んだグループは、迷いのない状況に置かれると、うまく邪魔する力に対抗できないことが確認されたという。これは、運動が事前の「迷い」とセットで学ばれているため、運動を学んだ時の迷いが異なれば、違う運動になってしまうことを意味すると研究グループでは説明する。

2つ目の実験も、被験者にロボットハンドルを握って装置の前に座ってもらい、表示された多数の点の動きを判断し、それと同じ方向にロボットハンドを動かす点は同じだが、迷いなく判断できる動きを表示(同期率100%)した場合は、反時計回り方向の邪魔する力が掛かり、迷わせる動きを表示(同期率3%)した場合は、時計回り方向の邪魔する力が掛かるように変更して行われた。この結果、被験者は、迷いのない判断の後の運動と迷いのある判断の後の運動の2つを同時に学習することができることが示され、これを受けて研究グループでは、運動する前の迷いは、その後の運動を別々のものとして「タグ付け」しているといえると説明する。

今回の結果について研究グループでは、「決断に至る過程」とその後の「運動」は脳の中ではセットで学習・記憶されていることが示されたことから、脳は、むしろ迷いを受け入れ、迷いに応じた運動を作り出すことで、パフォーマンス低下を防いでいることを意味するとしており、これは現実場面で安定したパフォーマンスを発揮するためには、ただ単に目的の運動を達成するための練習に注力するのではなく、事前の意思決定状況とセットで運動を学習する必要があることを示唆するものであり、例えば空のゴールにうまく蹴る練習をいくらしても、迷いを生む「ゴールキーパーがいる状況下」では、同じところに同じように蹴れるとは限らないことを意味しており、今後のスポーツなどにおける新たな指導方法につながることが期待されるとコメントしている。

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