2023年12月20日06時00分 / 提供:マイナビニュース
●『オモウマい店』『ハイパーハードボイルドグルメリポート』スタッフが参加
ビデオカメラを渡された街の人が“ディレクター”となって、自分の親に「聞きたいけど聞けない」疑問を取材する中京テレビ・日本テレビ系ドキュメントバラエティ特番『オトナのための こどもディレクター ~カメラを向けたらはじめて聞けた』(20日23:59~)。テレビのスタッフでは絶対に撮ることのできない家族だけの空間を映し出し、過去2回の放送は今年の日本民間放送連盟賞でテレビエンターテインメント部門優秀賞を受賞するなど高い評価を得て、今回初めて全国ネットで放送される。
この番組の企画・演出は、『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』で“鈴子ママ”や“エキサイトスーパータナカ”などを担当する中京テレビの北山流川ディレクター。今回のスタジオ収録ではシソンヌの長谷川忍が涙を見せる場面もあったが、なぜ一般の人が撮影したVTRが心を揺さぶるのか。制作の舞台裏や見どころなどを聞いた――。
○スタッフがいない空間を突き詰める
この番組の構成に入っている放送作家の安齋友朗氏(『めちゃ×2イケてるッ!』など)と打ち合わせをする中で、最初に生まれた企画は、子どもが親の職場を体験する“こどもインターン”というものだった。だが、子どもが親を撮るほうが面白いのではないかと思い立ち、『こどもディレクター』の形に。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』で知られる元テレビ東京・上出遼平氏が監修として参加し、親に対して「聞きたいけど聞けない」疑問を聞いていくという番組の柱が定まった。
ビデオカメラを渡してしまうというアイデアは、北山Dが企画した『オカンからの荷物です。』という番組から。親から子どもに届けられる“仕送り”にスポットを当てた番組だが、「大家族を取材したときに、娘さんがお父さんに“うちらきょうだいって生まれたときはみんな顔一緒じゃない?”と聞いたら、すごくいい表情で“全然違うよ”と答えたんです。この質問って、赤の他人である自分が聞くと失礼だから絶対できないじゃないですか。そのとき、娘さんにディレクターとして負けたという感覚があって、ここに自分がいないほうがいいなと思ったんです」と、近い関係だからこそ切り込める強みを痛感した。
『オモウマい店』でも、カメラを置きっぱなしにして撮影することで、インタビューでは聞き出せない本音や日常が切り取れる経験があったことから、「上出遼平さんとも会話を重ね、スタッフがいない空間というのを突き詰めていこうという話になって、もうカメラを完全に預けて、後日回収するという形になりました」と、番組の大きな特色が決まった。
○「不完全」も番組の面白さに
機材に慣れない一般の人に撮影を託すのは、録画ボタンを押していなかったり、画角に違和感があったり、肝心な質問をし忘れたりというリスクもあるが、「40クリップも撮ってくれる人もいれば、1クリップで親に質問だけして終わる人もいるんですけど、そういう撮る方の個性があふれる部分やある意味で不完全なことも、この番組の面白さになれば」と捉えている。
実際に素材をチェックすると、「本当に個性が出てるので、めちゃくちゃ面白いんです。カメラがあることで、普段だったら本当に聞けないことが聞けるというのが、想像を超えていました」と驚いたそう。さらに、「親御さんが日常とは違うテンションで出てくるのかと思ったんですけど、寝転がりながらしゃべったり、パジャマだったり、お風呂上がりの画もあって、普段の親子の光景があると思ったら、取材者と取材対象者の空気になるときもあって、不思議な感覚でした」という。
渡すのは、テレビ業界で“デジ”と呼ばれる業務用の手持ちカメラ。近年はスマートフォンで動画撮影する人も多く、放送画質にも耐えられるため、それで撮影を依頼したほうがミスのリスクも低減されてよいのでは…と考えてしまう。だが、「普段持っているスマホだと、ただの日常になってしまう。でも、デジを渡すと“引き受けたからには、ちゃんと撮ろう”という責務を持って、親に対して質問をしてくれるんです。役割があるからこそ普段なら聞けないことを聞けるというきっかけにもなっていればいいなと思います」と、機材によって“ディレクター”としての自覚を意識付ける効果があるようだ。
また、「スマホで撮ってると画面を見てしまうけど、デジだと相手の顔を見て話すことができるし、置いて撮ることもできるので、ちゃんと向き合うことができる」というメリットも。日常になりすぎず、程よい緊張感で聞きたいことが聞ける絶妙なサイズ感であることは、『オモウマい店』の取材でも折り紙付きだった。
●ナレーションが一切入らない理由
ナレーションが一切入らないのも、この番組の特徴。そこには、「皆さんが撮ってきたVTRに“と、そこで…”とか、“3日後…”とか声を入れてしまうと、僕ら制作者が作った話に感じられて、没入感がなくなっていくのではないかと思ったんです」という狙いがある。ナレーションを入れないとシーンの切り替えがしづらく、時間尺が伸びてしまうが、「それよりも、こどもディレクターと親だけの空気感を、斎藤工さんたちと覗いてみるという構図を守りたかったんです」と判断した。
とはいえ、一般の人が撮影した映像素材をナレーションなしでつなぐのは、ディレクターの腕の見せ所。その編集で意識するのは、こどもディレクター本人の思いに沿ったVTRにすることだ。
「カメラを返してもらうときに、“やってみてどうでしたか?”と、気持ちの変化や本人の感情をしっかり聞いて、それに沿った編集にするという意識を、ディレクター陣で統一しています。何時間もカメラを回してくれたので、意にそぐわない形にはしたくない。その人の追体験をしていくVTRにしています。ディレクターには『オモウマい店』のスタッフもいますし、『ハイパーハードボイルドグルメリポート』をやっていた方もいて、みんな人と向き合ってきた人たちなので、そこはとても丁寧にやっていただいています」
一般の人に撮影してもらった素材を見て、逆に学ぶことも「めちゃくちゃあります」という。
「人が撮れていなくても、その現場の緊張感は伝わるということを改めて感じました。誰も映っていない机の画に、お母さんが“あんたもそろそろ50歳になるんでしょ?”と言ったら、息子さんが“そうだよ、もうおっさんだよ。信じられないよね”と答えるだけの会話があったんですけど、画としては何も撮れてなくても、その場の空気がすごく伝わってきたんです。
それと、テレビって完成された物語を求めて、事前に構成をイメージしてそれに当てていくように撮っていきがちなんですけど、皆さんの撮ってきた映像は“入口”と“出口”が全然違うことがあるんです。従来のテレビだったら、最初に聞きたかったことを補完したくなるんですけど、結論がずれてもいいんだと思って、そこは上出さんとも話して、編集で順番を入れ替えてきれいな構成にするのではなく、リアルでいこう決めました」
○身をもって“こどもディレクター”を体験「不思議な充足感」
北山D自身も親に対して「聞きたいけど聞けない」疑問があったが、それは第1弾の放送で実現した。内容は、13年前に離婚した両親に、別れる前の食卓のことについて聞きたいというものだった。
自らのプライベートをさらす上、母親に聞きながら思わず涙する姿も放送されたが、実際に自分が“こどもディレクター”になってみたことで、「こんなに緊張するんだとか、これは撮りにくいよなあとか、難しさを知りました。大人になってはじめて親と向き合うということの照れや、答えを聞いた時の不思議な充足感もあって、この機会じゃなかったら聞かずに終わってたなぁ」と、身をもって体験することができた。
それを踏まえて、作っていたVTRを見直し、修正を加えることも。
「親のもとに向かう道中が一番緊張するのでその部分を3秒伸ばしたり、黙ってしまうノイズだけの空間は普段なら切ってしまうところなんですが、この間が大事なんだと思って残したりして、もっとリアルに寄せていきました。そして何より、こどもディレクターの方が見終わった後に取材をして良かったと思っていただけるように、愛があふれるように描きたいと、本当に細かいところですが直しましたね」
また、この企画が成立したことに、テレビというメディアへの信頼感を改めて感じたという。
「あそこまで自分のプライベートを撮ってくれて、こちらに編集を任せて、放送させてもらえるということに、テレビがまだ信頼されているんだというのをすごく感じました。そこは、他のメディアにない部分だと思うので、テレビマンとしても一人の人間としても、人とまっすぐ真摯(しんし)に向き合う姿勢を、これからも突き詰めていかなければと思いました」
●一番うれしかった反響「親と会話する時間が増えました」
第1弾・2弾の放送は、前述の通り日本民間放送連盟賞でテレビエンターテインメント部門優秀賞を受賞し、日本テレビ系列14局に番組販売が成立。
そうした実績に加え、「何よりうれしかったのは、こどもディレクターの皆さんに放送後に話を聞くと、“親と会話する時間が増えました”と皆さん言ってくれるんです。また、ディレクターの米山(敦也)が、全然会っていなかったお母さんを名古屋に連れてきたという話を聞いて、こどもディレクターをやってくれた人の変化だけでなく、視聴者の方がこの番組を見て、家族に何か聞いてわだかまりが解けるようなことが、僕たちの見えないところであるのかなと思ったときに、この番組をやって良かったなと思いました」と手応えを語る。
放送後、北山Dの母親のもとに多くの連絡が寄せられたそうだが、そこにあのエキサイトスーパータナカの社長が果物を送ってくれたのだそう。「僕に直接送らず、母の家に送るので、僕が取りに行って母に会うことになるじゃないですか。その機会を作ることを計算してくれているんです」という粋なはからいで、「社長さんの優しさを改めて知りました」と感謝する。
また、鈴子ママには「番組を観たい!」と言われて一緒に鑑賞すると、「見ている途中で、鈴子さんが“るーちゃん(北山D)も出てるんでしょ。こんな番組作る人間は、自分も親に聞きたいことがあるに決まってんだよ!”と言ったんです」とのこと。第1弾のスタジオ収録の本番前には、MCの斎藤工からも「流川さんが親御さんに聞きたいことがあるんですよね?」と、見透かされていたそうだ。
○シソンヌ長谷川が涙…“あなただけの番組”に
第3弾となる今回は、小学生時代から高校時代まで反抗期がひどかった女性が、母親に当時どう思っていたのかを聞こうと取材を試みるも、本題を切り出せず3日も経過してしまうVTRが登場。彼女を代表例に、「皆さんの一歩踏み出す瞬間が見ることができた気がするので、何か物事に対して躊躇(ちゅうちょ)している人に、勇気を与えてくれるのではないかと思います」と見どころを語る。
またスタジオ収録では、シソンヌ・長谷川忍が、VTRの親子の物語と自分自身を重ね、自らの両親に思いを馳せて涙する場面があったが、「斎藤工さんもおっしゃっていたのですが、こどもディレクターの撮ってきた映像が“不完全”だから、自分の経験で補完して見る作品になっているんですよね。だからこそ、家庭環境が違えば全然違う物語に見えて、見終わった後の感情の矛先が自分になるので、人によって表情が変わっていく。そういう面で“あなただけの番組”になっているのではないかと思います」と分析。
それだけに、「もしかしたら、思い出したくない過去を思い出すこともあるかもしれません。それでも見て良かったと思ってもらうべく、読後感の良い番組になるようにしっかりと作っています」と力を込める。
そこで大きな役割を果たすのが、映像制作も手がける視点でもVTRの感想を語る斎藤工。北山Dは「僕のVTRも斎藤さんに温かい言葉をかけてもらって、自分もやって良かったと思えたので、斎藤さんがこどもディレクター全員を見守ってくださることが、この番組にとって本当に大事だなと思います」と感謝した。
●北山流川1994年生まれ、愛知県出身。立教大学卒業後、17年に中京テレビ放送入社。『PS純金』を経て、特番『ウマい!安い!おもしろい!全日本びっくり仰店グランプリ』でディレクターデビュー。レギュラーでは『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』を担当し、『こどもディレクター』のほか、『オレの一行』『仕事の武器は恋の武器』『遠距離宅配バラエティ オカンからの荷物です。』といった単発番組も手がける。