2023年12月18日15時43分 / 提供:マイナビニュース
●Sandra / CineBench
製品紹介だけで性能評価を行う前に既に出荷が開始されてしまっているRyzen Threadripper 7000シリーズであるが、遅ればせながらその性能をお届けしたいと思う。
○評価環境
機材そのものは以前の記事そのままである。ちなみにASUSのPro WS TRX50-SAGE WIFI、UEFI Setup画面が古のAMIのBIOS Setup画面(Photo01)を髣髴させるものであった。勿論今さらBIOSというわけではなくUEFIベースなのだが、なんでこの画面なのだろう?
それはさておき、Ryzen Threadripper 7980X/7970Xともに、きちんとWindowsからは認識された(Photo02~05)。
テスト環境は表1の通り。今回は対抗馬はRyzen 9 7950Xのみとした。まぁ比較対象としては手頃だろう。ちなみにRyzen 9 7950Xにも同じように32GB DIMMを用意したのだが、1 DIMM/chでないと動作しなかったため、今回Ryzen 9 7950Xはメモリ容量は64GBであり、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xの128GBと差が出ている事に注意されたい。ちなみにどちらの環境もUEFI SetupのOverclock設定からMemory SpeedをDDR5-5200に設定した「だけ」(EXPO/XMPに基づく設定は行わず、電圧も定格の1.1Vのまま)だが、Ryzen 9 7950XではCL40、Ryzen Threadripper 7970X/7980XではCL42に設定された。
ちなみにグラフ中の表記は
7950X:Ryzen 9 7950X
7970X :Ryzen Threadripper 7970X
7980X :Ryzen Threadripper 7980X
となっている。また解像度表記も何時もの通り
2K :1920×1080pixel
2.5K:2560×1440pixel
3K :3200×1800pixel
4K :3840×2160pixel
である。
○◆Sandra 20/21 Build 31133(グラフ1~19)
Sandra 20/21 Build 31133
SiSoftware
https://www.sisoftware.co.uk/
「いきなりSandra?」と思われるかもしれないが、ぶっちゃけると一番まともに性能が出たのがSandraである。要するにSynthesis Testではそれなりの性能が出る(「理論性能」ではなく、あくまで「それなりの性能」である)から、まずはこちらをご覧いただきたいという話である。
ちなみにSandraは原則MT+MC(Multi-Thread+Multi-Core)/MC(Multi-Core)/1T(Single Thread)の3パターンで結果が出てくるが、今回はそもそもすべての比較対象がZen 4ベースだから1Tでの比較は意味が無いし、SMTを有効にした状態でのテストだからMCもあまり意味が無い。ということで示す結果は全てMT+MCのものである。
まずDhrystone(グラフ1)で、.NETの方はともかくNative(AVX2)の方はそれなりに性能差があるが、Ryzen 9 7950X(16core)→Ryzen Threadripper 7970X(32core)はほぼダブルスコアに近い性能向上があるのに、Ryzen Threadripper 7970X→Ryzen Threadripper 7980X(64core)は6割弱の向上率に留まっている。これはWhetstone(グラフ2)も同じで、Dhrystoneよりは多少良いが、それでもRyzen Threadripper 7970X→Ryzen Threadripper 7980Xの性能向上率は7割弱といったところ。
では他の処理だと? という事でAESのEncryption/Decryption(グラフ3)だが、Ryzen 9 7950Xが27GB/sec程度で頭打ちなのに対し、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xは60GB/sec超えである。これはまぁ理解できる話だ。というのはAESに関してはAES-NIで処理ができるので、既にCPUコアそのものの処理能力よりもメモリ帯域がボトルネックになっている。つまりグラフ3の結果はいわばメモリ帯域の比較になっているわけだ。ただ問題はRyzen Threadripper 7970Xよりも7980Xの方が性能が低い(特に負荷の低いAES128で顕著)事だ。これも理由は想像できる。要するにより多数のコアからのMemory Access Requestが集中したことで、Memory Controllerそのもののオーバーヘッドが増えてしまい、結果としてむしろ性能が落ちてしまったものと考えられる。これは次のHasingでも同じことが起きている。負荷の低いSHA1や、Memory Accessが猛烈に発生してMemory帯域がボトルネックになりやすいSHA-512ではRyzen Threadripper 7980Xの方がむしろオーバーヘッド過大により性能が下がるが、処理負荷とメモリ帯域がバランスしているSHA-256ではそれなりRyzen Threadripper 7980Xの方が性能があがる(ただ7970Xとの性能比は1割かそこらしかないが)という形だ。
なので、メモリ帯域より演算性能の方が支配的な処理では、Ryzen Threadripper 7980Xも性能を出しやすい。そのよい例が次のFinancial Analysisである。Black-Scholes(グラフ5)/Binomial(グラフ6)/Monte Carlo(グラフ7)の3種類のEURO Optionの演算は、Black-ScholesのDouble Precisionこそ2割少々の向上に留まるが、他のケースでRyzen Threadripper 7980XはRyzen Threadripper 7970X比で5割強の性能向上が期待できる。次のScientific Analysisも同じで、GEMM(グラフ8)やN-Body(グラフ10)では5~6割の性能向上が示されている。例外はDGEMMとFFT(グラフ9)で、Memory Accessの頻度が高い(FFTなんて行列の転置だから、もう殆どMemory Accessばかりである)では性能向上が殆ど見込めていない。
次のImage Processing(グラフ11)も傾向的には同じだ。勿論全てのテストでRyzen 9 7950Xを大きく上回ってはいるものの、Ryzen Threadripper 7980XがRyzen Threadripper 7970X比で明確な性能差があるのはSharpen/Motion Blur/Edge Detection/Noise Reduction/Oil Painting/Marblingといったあたり。Memory Accessが効いていると思われるBlurとかDiffusionではあまり健闘しているとは言いにくいし、性能差がある方でも最大で6割強で、倍には遠い。要するに、CPU単体処理が多いアプリケーションなら、Ryzen Threadripper 7970X比で最大7割弱の性能が期待できるが、それでも7割弱であって倍にはならない。そしてメモリアクセスが過度にあるものについては、むしろMemory Access要求が過大になり過ぎてMemory Controller側がボトルネックになる(その最大の理由はメモリが4chに制限されているため。せめてRyzen Threadripper Pro 7000 WXと同じく8chだったらだいぶマシだっただろう)ため、むしろRyzen Threadripper 7970Xより性能が落ちかねない、ということだ。
ではそのMemory Controllerの性能は? ということでStreamの結果がこちら(グラフ12)。1GB-16GB Averageというのは、次のグラフ13の結果のうち1GB~16GBの平均値で、こちらはStreamではない。で、そのStreamは? というとここもRyzen Threadripper 7970Xの方が性能が良い始末。Ryzen 9 7950Xのダブルスコアというあたりで一応Ryzen Threadripper 7980Xの面目は保ったとはいえ、明らかにバランスが悪い事が見て取れる。
ではCache&Memory Bandwidthは? というのがこちら(グラフ13)。ここでCacheが効く範囲(おおむね4MB位まで。その先はL3の奪い合いになるのでどんどん差が縮まる)では本来コア数に比例した性能になるはずだが、そこまで性能差が無い(特にRyzen Threadripper 7980Xが低い)のは、同じ350Wの枠で動作すると必然的にRyzen Threadripper 7980Xの方が動作周波数を下げざるを得ず、純粋に2倍にはならないためである。ただピークでは8割くらいの性能は出ているあたり、こういう時だけはそれなりにコアの数があることが実感できる。ただ当然L3も聞かなくなる4GB以上では差が出ないわけだが。
Sandraではもう一つ、Memory Access Latency(グラフ14~19)も確認してみた。今回の場合、L1~L3はどれも同じZen 4コアというか物理的に同じダイなので、そこでの性能差を比較しても仕方がないので、ポイントはMemory Controllerが動く範囲ということになる。そこで比較はnsの方(Cycle数を比較しても意味が無いので)のみを示している。さて、まずGlobal Dataの方であるが、Sequential(グラフ14)では1GBの場合で0.1ns、In-Page Random(グラフ15)では凡そ2ns、Full-Random(グラフ16)では大差なしという格好で、意外に(というと失礼だが)Memory Controllerが高速であることが伺える。ThreadripperのControllerは本来EPYC向けに12chをサポートする様に設計され、それを8/4chに制限する形で動作している以上、もう少しLatencyが大きくても不思議ではないと考えられるためだ。その意味ではEPYC 9004シリーズは、更にLatencyが少ない可能性がある。これはInst/Codeも同じで、Sequential(グラフ17)で0.2ns、In-Page Random(グラフ18)とFull-Random(グラフ19)で5~7nsと、こちらもかなり良好である。Global Dataの場合とLatencyが異なるのは、Prefetchのアルゴリズムが異なるためである。そもそもInst/Code領域でIn-Page RandomとかFull-Randomが発生するのは、大域Jumpが煩雑に行われるか、プログラムの難読化が行われるか、といったケースくらいしか思いつかないから、普通はSequentialを考慮しておけば十分だし、その範囲で言えばMemory Controllerは十二分に優秀である。という事は、やはり本来8/12chのDDR5で処理すべきリクエスト集中を4chでこなそうとして、恐らくMemory Controller内部のRequest Queueで保持できるの限界を超え、CPUコア側がMemory Controllerの応答待ち状態に入ってしまった事がRyzen Threadripper 7980Xで大きく性能を落とすケースの要因であろう、と想像される。ついでに言えば、完全にMemory Access不要のケースであれば8割程度(コア数×動作周波数の比)まで性能が上がるが、Memory Accessがあると6割前後がいいところで、悪いとむしろRyzen Threadripper 7970Xより性能が下がる、という事も確認できた。
○◆CineBench R24(グラフ20)
CineBench R24
Maxon
https://www.maxon.net/ja/cinebench
今回からはR23は完全に廃止。より負荷が上がったR24のみとしたい。さて結果であるが、ご覧(グラフ20)の通りである。Multiの場合、Ryzen 9 7950Xを1とするとRyzen Threadripper 7970Xは1.83、Ryzen Threadripper 7980Xは2.78といったところ。Ryzen Threadripper 7970Xは順調に性能を上げている一方、Ryzen Threadripper 7980XはRyzen Threadripper 7970X比で1.5倍といったあたりで、先のSandraの結果を見れば判るようにこれでもマシな方といったところか。
●TMPGEnc / DxO PhotoLab / Photoshop / Linpack
○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33(グラフ21)
TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.30.33
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
次いでこちらだが、いつもと同じように最大同時4 StreamとかだともうRyzen Threadripper 7980Xだとコア数を持て余すのは目に見えている。そこで今回は同時処理Stream数を4/8/16に増やしてみた。それ以外はいつもと同じく、4K解像度で29.97fpsのVP9エンコード動画を、同じ解像度/フレームレートのH.265にトランスコードする時間を測定している。さて結果だが、確かにRyzen Threadripper 7970X/7980XはRyzen 9 7950X比で2倍近いエンコード速度を実現している。それは良いのだが、Ryzen 9 7980Xは8 streamで最速の66.5fpsで、Ryzen 9 7950Xの丁度2倍のエンコード速度ではあるのだが、Ryzen Threadripper 7970Xと比較してもそれほど大きな性能向上でもないし、何より16core→64coreで性能が2倍、というのはちょっとどうかと思う。そして4 streamだとむしろRyzen Threadripper 7970Xよりも性能が下がっているあたり、ここでもまたMemory Controllerがボトルネックになっている事が伺える。
○◆DxO PhotoLab v6.11.0(グラフ22)
DxO PhotoLab v6.11.0
DxO
https://www.dxo.com/ja/dxo-photolab/
デジカメのRawデータ現像ソフトであるDxO PhotoLab。最新VersionはPhotoLab 7になっているのだが、テスト時の最新版はPhotoLab 6の最終バージョン(6.11.0)だったということで、こちらで比較を。このPhotoLabだが、ノイズ削減にHigh Quality/Prime/DeepPrime/DeepPrime XDという4種類のオプションが選べる。ここでHigh Quality/Primeはアルゴリズムベース、Deep Prime/Deep Prime XDはAIベースでの処理を行う。High Qualityは実質殆ど何もやってくれず、一方でDeep Prime XDは一番ノイズが綺麗になる一方猛烈に重い。そこで今回はHigh Qualityを除くすべてのケースでどこまで処理が高速化できるかを比較してみた。ちなみに元画像はOM Systems E-D1XのRaw画像(5472×3648pixel)である。またGPUのアシストは無効化し、CPUだけで処理を行った。
結果はグラフ22の通り。一番高速なケースでも1枚の処理に2秒以上掛かるので、結果は毎分あたりの処理枚数(Pictures Per Minute)で示している。意外だったのはDeep PrimeはRyzen Threadripper 7970X/7980Xが殆どRyzen 9 7950Xと差が無い事である。逆に一番負荷がかるいPrimeでは結構大きな差がついた。ちなみにDeep Prime XDを実施した場合の、100枚分の画像の処理時間はRyzen 9 7950Xが5069秒でほぼ1時間半、Ryzen Threadripper 7970Xが3128秒、Ryzen Threadripper 7980Xが3095秒となっており、どちらも1時間弱。そういう意味ではRyzen Threadripperを使う事で多少快適になるのは事実だが、これGPUを有効にすると更に高速化される(100枚で10分掛からない)事を考えると、どっちに金を突っ込むか悩みどころではある。そして予想通りRyzen Threadripper 7980XのRyzen Threadripper 7970Xに対するアドバンテージはごく僅かであった。
○◆Photoshop 24.1+NeatImage 9.2(グラフ23)
Photoshop 24.1+NeatImage 9.2
NeatLab
https://ni.neatvideo.com
NeatImageもやはりデジカメのノイズ削減ツールである。こちらは単体でも動作するほか、Photoshopのプラグインとして使う事も可能である。今回はPhotoshopのアクションを作成し、100枚の画像(DxO PhotoLabで処理した100枚のE-D1Xの現像後の写真)に対して自動トーン補正/自動コントラスト/自動カラー補正とNeatImageによるノイズ削減を連続して行わせ、その所要時間から処理速度(PhotoLabと同じく、毎分あたりの処理枚数)を比較してみた。
ということで結果(グラフ23)だが、意外なほどに性能差がでなかった。NeatImageもやはりPreference→PerformanceタブでCPUとGPUの利用を設定できるので、今回GPUは不使用とした上で全CPUコアを利用するように設定してみたのだが、それでも意外なほどに性能差が無かった。それでもコア数に応じて性能が上がっているから使っていないわけではないのだが、NeatImageのDeNoise程度だと16コアもあれば十分、という事なのだろうか。これ、もう少し性能差が出ると思っていただけにちょっと残念だった。
○◆Linpack Xtreme 1.1.5(グラフ24)
Linpack Xtreme 1.1.5
Regeneration
https://www.ngohq.com/linpack-xtreme.html
ワークステーション用途のRyzen Threadripper Proはともかく、個人ユース向けのRyzen Threadripperで数値演算とかをどれほどやるのか? というのはちょっと疑問が残るところではあるが、一応SandraでDhrystone/Whetstoneの結果は示しているので、もう少し新しいところでLinpackも試してみた。ちなみにテスト条件はExtreme(8GB)、繰り返し数5回を選択している。
結果はグラフ24の通り。Ryzen Threadripper 7970XはRyzen 9 7950Xのきっちり倍の性能が出ている一方、Ryzen Threadripper 7980XはRyzen Threadripper 7970Xの25%増しでしかない。こちらも、恐らくボトルネックなのはMemory Bandwidthである。まぁなんとなくそんな気はしていたが。
●PCMark 10 / Procyon
○◆PCMark 10 v2.1.2636(グラフ25~30)
PCMark 10 v2.1.2636
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
ではもう少し一般的なアプリケーションではどうか? ということでPCMark 10である。個人的にはこうしたアプリケーションでRyzen Threadripperにアドバンテージは殆ど無いと思うが、Ryzen 9 7950Xとそれほど変わらない速度で動けばまぁ満点かと思う。Single Threadの処理が圧倒的に多い(ということは、コア数の少ないRyzen 9 7950Xの方が有利)し、広大なメモリ帯域を利用するようなケースも少ないからだ。ということでまずはOverallがグラフ25であるが、まぁなんというか予想通りの結果である。それでもRyzen Threadripper 7970X/7980X共に健闘しているというべきであろうか。
そしてどの辺がネックなのか? ということでTest Group(グラフ26)を見るとやはりGamingが一番大きな差で、これは何となく想像はしていた。ただ意外にDigital Contents Creationも差が大きい。まずEssential(グラフ27)は、これはもう実効動作周波数の差がそのままスコアに効いている感じだ。次のProductivity(グラフ28)もそんな感じ。Digital Contents Creation(グラフ29)では、大差がついてるのがRendering & Visualizationで、これはVisualization of 3D modelで利用している3DMark Sling Shotのスコア(OpenGL 4.3)がRyzen Threadripper 7970X/7980Xが190.15/192.39fps程度なのにRyzen 9 7950Xが449.25fpsと倍以上なのが理由である。もう一つのPOV-Rayの方は逆にRyzen 9 7950Xが8.43secなのに対しRyzen Threadripper 7970X/7980Xが6.27sec/6.20secとこちらが高速だが、トータルスコアはRyzen 9 7950Xが圧倒するのも仕方がない。
ちなみにこのテストはもう一つ問題があって、POV-Rayは最大でも64個までの仮想コアしか扱えない。つまりRyzen Threadripper 7980Xではコアが半分休んでいる状況になるので、殆ど結果が変わらないことになる。
最後がOffice Application(グラフ30)で、これはまぁ想定通りという感じか。全体として、勿論Ryzen Threadripper 7970X/7980Xにアドバンテージは無いのだが、ただ言うほど極端に性能は落ちておらず、そこそこに使える事は確認できた。
○◆Procyon v2.6.920(グラフ31~35)
Procyon v2.6.920
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/procyon
もう一つ、Procyonの結果も示しておく。グラフ31がOverallだが、意外にRyzen Threadripper 7970Xが頑張っているというべきか。ただPhoto Editingを除くとやはり最速はRyzen 9 7950Xだし、Ryzen Threadripper 7980Xは良いところ無しの結果に終わっている。以下もう少し詳細をみてみたい。
まずPhoto Editing(グラフ32)だが、これはまぁセオリー通り。標準のプラグインだけだと基本PhotoshopもLightroom Classicも基本Single Thread動作だから、この結果は妥当である。次のVideo Editingも、Premier Proの動作そのものはSingle Threadだし、Media EncoderもやっぱりMulti-Thread化されていないので、この結果は妥当である(ちなみにこのグラフのみ所要時間なので、長いほど遅い事に注意。あと横軸は対数軸にしている事にも注意)。なんというか、Ryzen Threadripper 7980Xには良いところ無しの結果である。
Photo34はOffice Productivityであるが、これは先程のPCMark 10のApplication Testとほぼ同一の傾向。やはりSingle Thread性能がそのまま効いてくる。理解できないのは次のAI Inference(グラフ35)で、こちらは毎秒あたりのInference処理数を比較したものだが、なんでこれがMulti-Thread化されていないのか? まぁ結果はご覧の通り。まぁ散々たる結果であった。
●ゲームベンチ: 3DMark / Metro Exodus
○◆3DMark v2.28.8205(グラフ36~39)
3DMark v2.28.8205
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
勿論Ryzen Threadripperが3D Gamingに向いていないのは百も承知しているが、どの程度まで動くかの確認のテストその1である。ということでこちらを。先にPCMark 10のGaming(=3DMark FireStrike)でRyzen Threadripper 7970X/7980Xがかなりスコアが低かった事を考えると期待はできない訳だが、結果(グラフ36)を見ると勿論Ryzen 9 7950Xには及ばない訳だが、GPUがボトルネックになるようなもの(ここで言えばWildLife ExtremeやFireStrike Ultra、PortRoyal、SpeedWay)などはちゃんと同等の性能になるあたりは、最低限の性能は確保できていることになる。
Graphics Test(グラフ37)も概ね同じ傾向であり、なのでこの性能差はGraphics Testの結果(=描画性能)に起因するのは明白である。まぁPhysics/CPU Test(グラフ38)の結果を見ると、FireStrikeに限ればPhysics Engineの性能も関係してそうだが、TimeSpyなどはちゃんとMulti-Thread化されているのが判る(ただMemory Bandwidthがボトルネックなのか、Ryzen Threadripper 7970XとRyzen Threadripper 7980Xがほぼ同じスコアであるが)。Combined Test(グラフ39)の結果が、FireStrikeのみ差があり、あとは大差なしというのも頷ける。要するにGPU負荷が軽いゲームでは結構差が出るが、GPU負荷が上がるとRyzen 9 7950Xと同等に近くなる、という訳だ。
○◆Metro Exodus PC:Enhanced Edition(グラフ40~46)
Metro Exodus PC:Enhanced Edition
4A Games
https://www.metrothegame.com/
Gaming Testを延々とやるのは辛いので、今回は代表例としてMetro Exodusだけを取り上げてみた。ベンチマーク方法はこちらのMetro Exodus Enhanced Editionの項に準じる。ただし設定だが、いつもはShading QualityをUltraにするところを今回は一段落としてHighで行ってみた。多少GPU負荷を減らしたわけだ。
さて結果だが、平均フレームレート(グラフ40)を見ると、やはりRyzen 9 7950XとRyzen Threadripper 7970X/7980Xの間には結構大きなギャップがある。最大フレームレート(グラフ41)も2Kでは結構差が大きいし、最小フレームレート(グラフ42)もRyzen Threadripper 7970X/7980Xは60fpsそこそこで、一応プレイするには差し支えないとはいえ、Gamingに向いているかと言えば明らかに向いていない。
フレームレート変動を見るとこれは更に明白である。2K(グラフ43)では明らかにグラフが分離しており、話にならない。2.5K(グラフ44)では、0~10秒や35秒付近、90~110秒
あたりはまぁ健闘しているが、それ以外の所でRyzen Threadripper 7970X/7980Xはかなり落ち込んでいる。この傾向、3K(グラフ45)ではだいぶ縮小傾向ではあるが、例えば15秒付近でRyzen 9 7950Xは山になっている部分がRyzen Threadripper 7970X/7980Xでは谷だし、55秒~75秒あたりの乖離も凄い。4K(グラフ46)だと流石にだいぶグラフが1本に近くなっているが、それでもまだ明確に差が出る場所があるあたり、これだけGPUネックのケースでも性能差が出るという訳で、これはCPUの問題というよりもプラットフォームの問題かもしれない。プレイ出来ない訳ではないが、向いていないというのが一番適切な評価だろう。
●消費電力とオーバークロック検証 / 総評と考察
○◆消費電力測定(グラフ47~52)
次に恒例の消費電力比較を。今回はSandraのDhrystone/Whetstone(グラフ47)、CineBench R24のMulti(グラフ48)、TMPGEnc Video Mastering Works 7の16 streamエンコード(グラフ49)、それとMetro Exodus 2K(グラフ50)を測定、その結果と待機時消費電力をまとめたのがグラフ51、待機時との差を示したのがグラフ52である。
もうそもそも待機時の消費電力が凄まじいのは、そもそもマザーボードの構成も違うからどうしようもないのだが、Metro Exodus以外では300W台で収まるRyzen 7 7950Xに対して常に500W台をキープするRyzen Threadripper 7970X/7980Xは、まぁ圧倒的というべきか。面白いのはグラフ52、つまり平均実効消費電力差の比較でMetro ExodusだけRyzen Threadripper 7970X/7980Xが380W台というのは、要するにそれだけGPUが遊んでいるという証拠と考えても良いかと思う。実際グラフ50を見るとRyzen 7 7950Xはほぼ一定、つまりGPUが常にフル稼働しているのに対し、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xは300W近い振れ幅を持って変動しているというのは、それだけ遊んでいる証拠であって、あまり実行消費電力差が低い事は褒められない気がする。
問題は効率であるが、コア数が性能に反映されやすいDhrystone(表2)やWhetstone(表3)ではご覧の通りで悪くない。ただし普通のアプリケーションは? というと、TMPGEnc Video Mastering Works 7(表4)だと辛うじて優位性を保てるが、Metro Exodus 2K(表5)だとまぁRyzen 7 7950Xの方が当然効率が良い。これ、待機時電力を抜きにした数字であるから、実効消費電力の絶対値で比較すると、Ryzen Threadripper 7970X/7980Xの効率は更に悪化する事になる。まぁ効率を目指した製品ではない、と言われればその通りなのだが。
○◆PPT Overdrive(グラフ53~55)
ところでPreviewの最後で、AMDによるRyzen MasterのPBO OverrideによるOverclock動作のデモの様子をお届けしたが、この時に利用されたのはRyzen Threadripper Pro 7985 WXだった。ではRyzen Threadripper 7970X/7980Xで同じことをするとどうなるか、をちょっと確認してみた。
テスト方法は簡単で、Ryzen Masterを起動、Profile 1でPBO Overrideを選び、PPTを1000Wに設定したのちベンチマーク(CineBench R24のMulti Core)を実施するだけである。Ryzen Threadripper 7970X(Photo07)とRyzen Threadripper 7980X(Photo08)だけでなく、Ryzen 9 7950X(Photo09)も同じようにPBO OverrideでPPTを1000Wにしてみた。
ベンチマーク結果はグラフ53である。"(PPT)"とついているのがPBO OverrideによるOverclock動作の結果であるが、当然Single Coreの結果はたいして変わらず。またMultiの方も、Ryzen Threadripper 7980Xはちょっと向上しているが、Ryzen Threadripper 7970Xは殆ど変化が無い。まぁこれは消費電力変動を見れば一目瞭然(グラフ54)で、Ryzen Threadripper 7970Xはちょっと消費電力が増えている程度だが、Ryzen Threadripper 7980Xは最大で870Wにも達している。ただし平均すると650W弱に収まる格好だ(グラフ55)。動作を見ていると、兎に角すぐに95℃のThermal Limitに達してしまい、それ以上動作周波数を上げられない感じである。AMDのデモでも水冷システムは分厚いラジエターと強力なポンプ、更にVRM強制冷却用ファンなどを複数載せた構成になっていた(空冷も同じく)事を考えると、360mmラジエターの簡易空冷クーラーだけという今回の環境は明らかに冷却能力不足で、これがボトルネックになったものと考えられる。Ryzen Threadripper 7970X/7980XでOC動作をさせるには、冷却能力の大幅強化が必須である。
○総評と考察
Ryzen Threadripper 7970Xは、それでもまぁまだバランスとして悪くはない。32coreに対して4ch DDR5だから、16core/2ch DDR5のRyzen 7 7950Xと同じコア/Memory Channel比率で、倍とは言わないが1.8倍くらいの演算性能が期待できる。
問題は64coreのRyzen Threadripper 7980Xで、今回のテストを通して一つたりともRyzen Threadripper 7970Xの倍の性能を引き出せたケースがなかった。むしろMemory Controllerがボトルネックになって大幅に性能を落とすケースが続出した事を考えると、このCPUを使いこなすのはかなり難しい。久々にピーキーな製品として仕上がったと思う。しかし64coreですらこれなのだから、One more thingでアナウンスのあった96core製品は更にピーキーだろう。とにかくメモリ性能を大幅に引き上げる必要があるが、Unbuffered DIMMはともかくRegistered DIMMではRegisterの方がOverclock動作のボトルネックになりやすい事を考えると、96coreを使いきれるアプリケーションは相当少ない、というか無いんじゃないかとすら思う。
今回はRyzen Threadripper 7960Xの比較はできなかったが、今回の結果を見るとむしろRyzen Threadripper 7960Xが一番ベター、という気もしなくはない。コア数/Memory Channel比はRyzen Threadripper 7970XやRyzen 7 7950Xよりも改善されるし、24coreに対してL3は128MBが期待できるから、その意味でもメリットは大きい。動作周波数もやや高めにできるし、冷却能力的にもRyzen Threadripper 7970Xよりゆとりがでるから高い動作周波数を維持しやすいだろう。
あとは価格の問題である。マザーボードが概ね14万。Ryzen 7 7970Xが45万だから合計59万円。メモリもRegistered DDR5が必要だから、CPU・Memory・Motherboardの3点セットで65万円コースである。Ryzen Threadripper 7960Xにすれば50万を切る程度、逆にRyzen Threadripper 7980Xは110万ほどになる。この金額を掛ける価値があるかどうか? というあたりだ。
とりあえず筆者的には、TRX50プラットフォームはRyzen Threadripper 7970Xまでにしておくことをお勧めしたい。64coreが欲しければ、TRX90プラットフォームに移行して8ch DDR5を利用しない限り、その性能を引き出すのは難しいだろう。そして個人でお前が欲しいか? と言われると価格性能比が悪すぎて、ちょっと手を出す気にはなれない。実際Gamingであれば、Ryzen 9 7950XよりもRyzen 7 7800X3Dあたりでシステムを組むのが最高速だし、はるかに安価である。そして筆者の用途であるDxO PhotoLabとかNeatImageは、むしろ高速なGPUを組み合わせた方が性能が高い(TMPGEncもそうで、ハードウェアエンコーダが結構良い仕事をする)。そういうGPUで代替の出来ないCPU依存のアプリケーションを抱えていて、かつそれがマルチスレッドにちゃんと対応している、というケースでのみお勧めできるというのが正直な感想である。