2023年12月06日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●プライム帯ドラマ初主演に初写真集も
女優・森川葵の存在感が業界と一般人の両方で急速に高まりつつある。
今夏に帯ドラマの『褒めるひと褒められるひと』(NHK総合)で地上波プライムタイムの初主演を飾ったほか、28歳の誕生日には初の写真集を発売。さらに、11月28日放送の『それって!?実際どうなの課 ゴールデン2時間SP』(中京テレビ制作・日本テレビ系)では、スポーツスタッキングのアジア大会に出場し、3種目で金・銀・銅のメダルを獲得する快挙を見せて話題を集めた。
インスタグラムのフォロワー数を約58万人までジワジワと伸ばしているほか、ネットニュースに取り上げられる機会が増えるなど、インフルエンサーとしての注目度も上がっている。ただ、ネットメディアは金・銀・銅メダルを獲得した『どうなの課』の「ワイルド・スピード森川」というキャラクターをフィーチャーしがちだが、森川が業界内で評価されているのは決してそれだけではない。
では、どんなところが評価されているのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○■撮影現場で確立された確固たる評価
芸能界デビューのきっかけは、『Seventeen』の専属モデルオーディション「ミスセブンティーン」。15歳で三吉彩花らとともにグランプリに選ばれ、専属モデルとして活動しながら、2012年に映画『LOVE ToRain -ラヴトレイン - 』で女優デビューを飾る。女優デビューながら映画初出演・初主演であるところに期待の大きさがうかがえた。
連ドラでは『35歳の高校生』(日テレ)、『ごめんね青春!』(TBS)、『She』(フジテレビ)、『表参道高校合唱部!』(TBS)らの学園ドラマに連続出演。それほど目立つ役柄ではなかったものの、菅田将暉、高杉真宙、野村周平、山崎賢人、広瀬アリス、新川優愛、重岡大毅、小関裕太、白洲迅、黒島結菜、川栄李奈、成田凌、松岡茉優、中条あやみ、清水くるみ、志尊淳、泉澤祐希、芳根京子、萩原みのりら同世代俳優との共演が森川の財産となっていく。
ただ、同じ学園ドラマというジャンルでも深夜帯では真逆の役柄を演じていたのが森川の強み。『監獄学園-プリズンスクール-』(MBS制作・TBS系)では暴力をふるう上に放尿シーンなどがある役を、『賭ケグルイ』(同)ではクラスメイトを家畜のように扱うなどプライドの高い役を演じるなど、思い切りのいい演技を見せていた。
さらに、映画では早くからハードな役のオファーが多く、映画『渇き。』では薬物中毒でピンク髪の女子高生、『チョコリエッタ』では母と愛犬の死から生きる意味を失い「犬になりたい」と思う女子高生、『おんなのこきらい』ではかわいさにこだわり過食症を患う性悪OL、『A.I.love you』ではイケメンシェフとA.I.との三角関係に揺れるヒロインに挑んだ。
出演経験を重ねる積極性に加えて、清純派の美少女からエキセントリックな悪女まで演じ分ける器用さと集中力、丸刈りにしたときに「ラッキー」と言い切ったたくましさなども含め、撮影現場で森川への評価が確立されていった。
しかし、あまりに役の振り幅が大きいほか、作品ごとに髪の長さ・色やメイクなどを変えるからなのか、彼女を見て「森川葵だと気づかない」という人が多かったのも事実。業界内やドラマ・映画好きからの支持を得ながら、その器用さと集中力が裏目に出た不運さもあって、「実力の割にはなかなか知名度が上がらない」というジレンマがあった。
●3色のメダルよりも大きな得たもの
しかし、その器用さと集中力はバラエティという別のフィールドでも力を発揮し、森川の知名度を上げ続けている。
『どうなの課』では、石を積み上げていくロックバランシングで達人が半年かかった技を3分で成功させたり、テーブルクロス引きでは最高難度の5段タワーを1回で成功させたり、石の水切りでも日本王者をしのぐ記録を樹立。その他、ダイス・スタッキング、アーチェリー、ビリヤード、ヨーヨー、皿回し、クレーンゲーム、ゴム銃、カード投げ、ペン回し、ブーメランなどでも、超高難度の技を超速でクリアしていく姿で視聴者を驚かせてきた。
今回、スポーツスタッキングで金・銀・銅メダルを獲得したことで、タレントとしての価値がワンランク上昇したのは間違いないだろう。制作サイドは「ワイルド・スピード森川」というキャラを前面に出しているが、「決してスピードだけでなく、集中力を持続できる」「さらに強い意志を持って大きな挑戦ができる」ことを多くの人々に見せられたことは3色のメダルよりも大きいのではないか。
森川が得たのはメダルという勲章だけでなく、「これまで以上の挑戦も、難役のオファーも、『私はできる』と自分を信じ、集中して挑む」という姿を見せられたこと。単に「器用で集中力がある」という人ではなく、「継続した努力もできる」し、「もっと大きなハードルを越えられるかもしれない」という期待を抱かせられる。
さらに、森川は以前にもアジア大会への挑戦を提案され、一度断ったことを明かしていた。「他の作品に入っていて時間がなかった」「やるんだったら本気でやらないと選手の方に申し訳ない」などの理由も、彼女の評価を高め、今後の期待感につながるものだろう。
○■「若年層女性と海外配信」の新たな強み
『どうなの課』における森川のチャレンジは、これまでの芸能人とは一線を画すレベルであり、実際ネット上に「堺正章をしのぐ」「ミス・かくし芸」なんて声もあがってきた。もちろん彼女自身の類いまれな力あってのことだが、これほど多くの成功を重ねられたのは、中京テレビ制作サイドとの信頼関係も大きいのだろう。
あるドラマプロデューサーと森川について話したとき、「『この子はうまい』とか『できる』とかではなく、『この子ならもっとうまくできるかもしれない』と思わせてもらえるところがすごいよね」と言っていた。その理由には個人差があれど、バラエティにしろドラマにしろ、制作サイドにそう思わせる何かが彼女にはあるのだろう。制作サイドから期待され、全力で応えることで信頼につなげていく……こう書くと簡単に見えるが、バラエティでもこの関係を築ける女優はめったにいない。
近年は舞台出演に力を入れて「演技者としての幅が広がっている」という声もあがっているだけに、来年以降はこれまで以上に「こんな役をやらせてみたい」という熱烈なオファーが届くのではないか。
森川は現在28歳だが同年生まれには、川口春奈、土屋太鳳、松岡茉優、川栄李奈、奈緒ら主演級女優がズラリ。連ドラでは器用さと幅広い表現力から助演として重宝されがちなところがあったが、そろそろゴールデン・プライム帯の民放初主演や、朝ドラ主演を飾っても驚く人はいないのではないか。
地道に出演作を重ねて演技を磨き、バラエティで新たな魅力を見せつつ顔を売り、ネット上でも注目される機会が増えた森川は、性別年齢を超えたファン層を持つ女優になりつつある。ファッションをフィーチャーされる機会が増え、写真集が発売5日で重版されるなど、同性からの支持が高まっているほか、アジア大会では中国人から「中国で有名です」と言われ、韓国や台湾の人々からも声をかけられたという。
今後は、その若年層女性に向けたインフルエンサーであり、海外への配信再生でも実績をあげられることが新たな強みとなっていくだろう。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら