2023年10月30日15時24分 / 提供:マイナビニュース
米Metaの日本法人であるFacebook Japanは10月27日、FacebookやInstagramなど同社のSNSプラットフォームを活用したマーケティング事例を紹介する、広告主および企業向けイベント「Meta Marketing Summit 2023」をTOKYO NODE(東京都 港区)で開催した。なお、今回が国内で初開催となる。
同社は国内でもユーザー数が拡大しているInstagramについて、「好きと欲しいをつなぐ、自分ごと化プラットフォーム」と位置付けている。この定義は、自社ブランドからの一方的な情報発信ではなく、ブランド、顧客、クリエイターの3者が共にコミュニティを形成しながら価値共創マーケティングを実現するというプラットフォームの使い方を表しているそうだ。
広告効果を向上させる生成AIを使った3つの新機能をリリース
FacebookやInstagramでは、あらゆるプロダクトを支えるためにAI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用している。例えば、Facebookから削除されたヘイトスピーチのうち、82%がAIによって自動的に検知されたものだ。また、FacebookとInstagramではAIがおすすめするコンテンツの割合が20%を占める。
SNS上でのマーケティングにもAIが活用されており、AIを用いた広告プロダクト「Advantage+」によって、広告経由のコンバージョンが前年比で20%増加したほか、広告の費用対効果は32%増加、1ドルあたりのインクリメンタル購入数は14%増加している。
このようにAI活用を積極的に進めるMetaだが、イベントでFacebook Japanの代表取締役である味澤将宏氏は、広告マネージャの新機能である「クリエイティブ生成AI」を新たに発表した。
同氏は「当社は最近AIに投資し始めたのではなく、以前から継続的にAIと一緒に成長してきた。最近では機械学習フレームワーク『PyTorch』や、大規模言語モデルである『LlaMa』および『LlaMa2』などをリリースしている。AIは過去も現在も当社のイノベーションの中心であり、今後はさらに投資を加速していく予定だ」とも語っていた。
今回発表したクリエイティブ生成AIでは、主に3つの機能をリリースした。まずは、複数の広告面に合わせて画像を自動で拡張・削除できるようになった。フィードやリールなど異なる広告面のアスペクト比に対応するよう自動で画像サイズが加工されるため、広告主はクリエイティブの作成と再利用のために要していた時間を削減できる。
また、商品の背景画像を自動で生成可能となった。商品画像の背景をAIが自動で生成し、クリエイティブのバリエーション追加をサポートする。さらに、テキストのバリエーションも自動で生成できるようになった。広告主が作成したオリジナルのコピーを使用して、さまざまな広告テキストを提案しオーディエンスへのリーチに寄与する。
AIによって奪われる仕事・奪われない仕事は?
ここからは、同イベントの中で生成AIを用いたマーケティングについて語られたセッションの様子をお届けしよう。セッションタイトルは「AIで広告効果を最大化せよ 業界を変革する生成AIの可能性を探る」。Kaizen Platformの須藤憲司氏とサイバーエージェントの毛利真崇氏が登壇し、Facebook Japanの鈴木大海氏がモデレーターを務めた。
最近のAIブームについてどのように捉えていますか?
須藤氏:デジタル技術を活用して業務を変革するDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、生成AIの登場によって今はDX(デジタルトランスフォーメーション)そのものの進化が求められています。AIは多くの果実をもたらしますが、同時に、ビジネスに関わる全員が競争のルールにさらされる状況になっています。
現代のAIは、ドラえもんのような何でもできる汎用的な性能は持っていません。その代わり、文章や画像の生成など特定の作業では人間以上の性能を発揮します。しかも一部の技術者やエンジニアだけではなく、誰もが使えるようになってきています。
このような時代においては、特にAIのスタートアップはソフトウェアを販売するのではなく、仕事そのものを販売するべきです。例えば、SaaS(Software as a Service)は人間の仕事の効率化を上げるためだけでなく、これからは仕事そのものを代替するようになると思います。海外では、事故を起こしたときなどに請求する保険の書類をAIが作成するサービスが出ています。裏側の事務作業もすべてAIが行うそうです。このようなサービスが今後は増えるでしょう。
既存のマーケット自体も変革すると思います。そして、それと同時に会社としては現在のスタッフが不要になったり、組織を変えなければならなくなったりと、従前の人的資本とは異なるケイパビリティが求められるようになります。
広告へのAIの活用例を教えてください
毛利氏:サイバーエージェントの「極(きわみ)シリーズ」は、広告効果を事前に予測するAIと生成AIを組み合わせて、広告素材を自動で作成しています。これを使うと、クリエイティブを作った傍から広告効果の予測スコアを確認できます。
以前は効果の高いクリエイティブを作れる割合が10%程度だったのですが、極シリーズによってこの割合が約2倍に上昇しています。当社は3カ月間で約10万件のクリエイティブを作っているので、当たる広告の確立が2倍になるだけでインパクトは大きいです。
また、9月にはクリエイティブ制作スタジオとして「極AIお台場スタジオ」をオープンしました。ここは大型のLEDウォールを備えているため、背景を自由に投影できます。ロケ地への移動時間が不要で天気や季節に限定されない撮影が可能で、現実で表現不可能な空間もCGで再現可能です。被写体とカメラの動きに応じてCG背景やLED照明を動かせるため、臨場感あふれる動画素材の撮影に対応します。
極AIお台場スタジオでは「極予測AI」を活用しているので、広告素材を撮影すると同時にクリエイティブの広告効果を瞬時に予測できます。動画を撮りながらクリエイターに予測スコアをフィードバックするので、広告の作り方そのものをAIで変革しています。
AIによって人間の仕事はなくなりますか?
須藤氏:ビジネスの一連の流れを上流から下流まで分けて考えてみましょう。下流にはアニメーターやモデルが当てはまり、上流にはディレクターやプロデューサー、プロジェクトマネージャーといった、下流の人たちが作り出した仕事を組み合わせるようなポジションが当てはまります。最上流にはプロジェクトそのものを生み出して課題を解決するコンサルティングなどがあります。
現代は生成AIの登場によって、特に下流のシングルタスクが代替され始めています。イラストやアニメなどはAIで生成できるようになっていますし、最近はAIのモデルを起用したテレビCMも話題です。ハリウッド俳優のストライキがニュースになりましたが、たった1回体をスキャンするだけで、一生分の演技をAIが作り出せるようにもなっています。
これによって、これまでの労働集約型のビジネスは破壊されつつあります。現在の世の中の仕事は、多くの場合が労働集約型です。コールセンターが最も分かりやすい例ですが、1人あたりの収益を計算できる業態は人数を増やすことで売り上げも増えます。しかし反対に、AIが人間の仕事を代替できるようになったことで、特に下流のオペレーショナルな仕事は人数を減らすことで利益が上がるようになっています。
そこで私たちが考えなければいけないのは、人間の作業をAIへ移行してAIに稼いでもらうビジネスモデルを、いかに作っていくかということです。これから先の10年くらいは、こうした動きが各業界で進むでしょう。
そうした時代に必要なのは、AIに関するリテラシーです。AIに何ができて何ができないのか、そしてAIのリスクは何かを正しく知り、さまざまなAIを組み合わせるスキルが大切になると思います。AIが人の仕事を奪うのではなく、人の仕事がAIによって変容していくと私は思っています。
毛利氏:20年以上前に、「Adobe Photoshop」がリリースされました。現在の生成AIとビジネスは、当時の様子に似ていると思います。Photoshopが登場する前のデザイナーは紙や写真を切り貼りして、手書きでクリエイティブを作っていました。しかしPhotoshopのおかげで、コンピュータでクリエイティブを作成できるようになりました。
このとき、Photoshopを使いこなせなかったデザイナーは仕事が無くなっていったはずです。一方で上手に使いこなせた人は、デジタル技術で作業を効率化して品質も高めることができたと思います。
これと同じ流れが生成AIでも起きているのではないでしょうか。AIを使いこなせる人は作業の効率も品質も上がっていき、AIを使えない人は仕事が無くなってしまうでしょう。AIを使う際は、コーディングやデザインなどのうち、自分が得意な作業よりも苦手な作業を任せた方がAIの効果を実感できます。