2023年10月24日17時36分 / 提供:マイナビニュース
日本マイクロソフトは10月23日、東京都内で記者会見し、同社の生成AI(人工知能)サービス「Azure OpenAI Service」を活用している企業が全世界で1万1000社を超えたことを発表した。日本においても生成AIの活用は広がってきており、公表している同社の顧客だけでも560社を超える。
執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜禎氏は、「1つの要素に特化した従来のAIモデルから、さまざまな用途に使える汎用的な新しいAIモデルへと変革が起きている。『Microsoft Windows 95』以来の衝撃だ」と語った。
Azure AI servicesは、顧客のカスタムアプリケーションにAIを組み込むためのAPIやSDKを提供するAIサービス。利用可能なAIモデルは「GPT-3.5」や「GPT-4」だけでなく米Metaが提供する「Llama」シリーズや、画像生成AIの「DALL-E」シリーズなど多岐にわたる。「2023年1月に一般利用を開始したので、約9カ月でここまで成長できた」と、岡嵜氏は胸を張った。
また、アプリケーションやサービス内の有害なコンテンツを検出し、4つのカテゴリと重要度に分けて制限と監視を実現する「Azure AI Content Safety Service」が正式にサービスを開始している。加えて、Azure OpenAI Service上で利用できるモデル「GPT-3.5-Turbo」、「Babbage-002」、「Davinci-002」にファインチューニングが登場。顧客は独自のデータを学習させ、新たなカスタマイズモデルを制作・デプロイすることができるようになった(時点では米国/スウェーデンリージョンのみ、今後拡大予定)。
メルカリはAzure OpenAI Serviceを活用している国内企業の1社だ。同社は、提供するフリマアプリ上で生成AI・大規模言語モデル(LLM)を活用し、ユーザー一人ひとりのためのAIアシスタント機能「メルカリAIアシスト」の提供を10月17日より開始。同サービスは出品・購入・その他の困りごとの解決など、「メルカリ」を利用する際のあらゆる場面において、AIがユーザーの最適な行動を促す機能だ。
ベネッセコーポレーションもAzure OpenAI Serviceを活用している。小学生向け通信教育サービス「進研ゼミ小学講座」にて、夏休み自由研究の相談窓口としてAzure OpenAI Serviceを活用したチャットボットサービスを提供。保護者管理のもとで最新AIに触れることを可能にするとともに、子ども自身の考える力を促す教材を開発している。また、独自の社内AIチャット「Benesse GPT」もAzure OpenAI Serviceを活用して構築したものだ。
他にも金融や通信、製造などの幅広い業界や政府や自治体なども生成AIの活用に積極的だ。「効果が分かりやすく手ごたえを感じられる点が、あらゆる業界で導入が加速している要因だろう」と岡嵜氏は推測した。
そして、AI導入に向けて同社が特に力を入れているのは、対話型AIサービス「Microsoft Copilot(コパイロット)」による生産性の向上だ。マイクロソフトは2023年9月に同サービスをWindowsで開始した。同2月から試用版が提供された「Microsoft Bing AI」はコンシューマ向けのサービスで、企業に特化したのがCopilotという位置付けだ。
Copilotは、Microsoft 365で利用できる「Word」や「Excel」、「Teams」といったアプリケーションから企業のデータを取り込んで、プレゼンテーション資料を自動で作成したり、長いメール本文や会議の内容を要約したりすることができる。
同社の調査によると、Copilotを利用することで、ソフトウェア開発者のコード生成は55%、ナレッジワーカーのタスク完了までの速度は37%向上した。「業務部門担当者やナレッジワーカーだけでなく、ソフトウェア開発者やセキュリティ運用者、市民開発者などの生産性を向上できるサービスだ」(岡嵜氏)
Copilotの生産性向上を支援すると同時に、同社はAIの保護についても力を注いでいる。「顧客のデータは顧客のもの。顧客のデータはAIモデルのファインチューニングには利用されず、データとAIモデルはすべての段階で保護される」と岡嵜氏は説明した。
また、マイクロソフトは9月に、著作権侵害の心配なくCopilot製品群を利用するための「Copilot Copyright Commitment」を発表している。
これは知的財産権保護のサポートを法人向けCopilotサービスの有料版に拡大するもので、Copilotから生成されたコンテンツを利用している顧客企業が第三者により著作権侵害で訴えられた場合、マイクロソフトが訴訟で生じた不利な判決、解により課された金額を全額支払う。「『なにかあったらどうするんですか?』という心配の声に応える。もし何かあった場合はマイクロソフトの公開力を駆使して安心につなげていく」(岡嵜氏)
さらに同社は、AI普及に向けたパートナー施策も加速させている。例えば、Azure OpenAI Serviceを活用しているソフトバンクは日向市とChatGPTの業務活用の実用化について共同研究を目的とする覚書を締結している。市独自データを学習させ業務活用、問い合わせ業務のサービス充実化を実現させた。
業務執行役員 パートナー事業本部 副事業本部長 エンタープライズパートナー 統括本部の木村靖氏は「マイクロソフトのノウハウを日本のパートナー企業に提供していく。学びと構築、そして成長を支援し、当社が事務局になりながら、生成AIを活用して世界を変えていきたい企業を後押ししていきたい」と説明した。
具体的な支援プログラムの詳細は11月以降にパートナー企業に対して案内していくとしたが、グローバルで約140億円を投じてパートナービジネスを加速させていく方針だという。「パートナー企業との事例をどんどん作り、社会全体で生成AIの活用を推進していきたい」(木村氏)