旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

次世代移動通信システム「5G」とは 第106回 3.9GHz帯の衛星干渉問題に光明、ソフトバンクらが研究を進める干渉キャンセラー

2023年10月19日11時00分 / 提供:マイナビニュース

ソフトバンクと東京工業大学は2023年10月6日、5G向け周波数帯の1つである3.9GHz帯の電波と、衛星通信の地球局との電波干渉を大幅に抑える「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発し、室内での実験に成功したと発表しました。この技術が、衛星通信との干渉で思うようにエリアを広げられない5G周波数帯の利用拡大につながるでしょうか。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
5Gのエリア拡大を阻む3.7GHz帯の衛星通信干渉

5G向けとして新たに割り当てられた周波数帯のうち、サブ6の「バンドn78」に分類される周波数の3.6~4.1GHzの周波数、俗に「3.7GHz帯」とも呼ばれる周波数帯は、衛星通信でも使用している周波数帯でもあります。それゆえこの周波数は、電波干渉を避けるため「地球局」と呼ばれる衛星と通信する無線局設備の近くでは自由に使うことができません。

とはいえNTTドコモを除く3社は、サブ6の周波数帯として3.7GHz帯しか割り当てられていないことから、5Gで高速大容量通信を実現するには衛星と干渉しない形でこの帯域を活用するしかありません。それゆえ各社は干渉を抑えるため、地球局に電波が届かないよう基地局のアンテナの角度を変える、基地局の電波出力自体を抑えるなどの取り組みをしています。

ですが当然そのようなことをすれば電波が遠くに飛ばないので、広いエリアをカバーすることはできなくなってしまいます。3.7GHz帯の電波干渉は、国内の5Gエリアを広げる上で非常に大きな障壁となっているのです。

そこで、この問題の解決に向けた取り組みも進められており、その1つが2023年10月6日にソフトバンクが発表した「システム間連携与干渉キャンセラー」です。これはソフトバンクと東京工業大学が、情報通信研究機構(NICT)の委託研究課題として採択された研究の一環として進められているものになります。

地球局は衛星と携帯電話基地局の両方の電波を受信すると電波干渉を起こしてしまいますが、これは携帯電話と衛星通信の双方のシステム間で連携することで干渉を抑えることで、5Gの基地局をより地球局に近い場所に設置できるようにするもの。

現在はあくまで実験ということもあり、3.7GHz帯のうちソフトバンクに割り当てられている3.9~4GHzの周波数帯(3.9GHz帯)を対象としていますが、他の周波数にも対応はできるとのことです。
システム連携で干渉をキャンセル、導入に向けた課題は

具体的な仕組みは、まず携帯電話基地局からの「5G信号」を分岐し、一方は基地局から3.9GHz帯の電波を射出して送信。もう一方は「5Gレプリカ信号」として光ファイバーを通じ、地球局に送信します。

地球局では衛星から送られてくる衛星信号と、基地局から送信された5G信号が混在した「5G干渉信号」を受信しますが、当然そのままでは正しく通信できません。

そのため、地球局内に「干渉キャンセラー装置」を設置し、ここに地球局で受信し干渉状態にある信号と、光ファイバー経由で送られてきた5Gレプリカ信号を入力して突き合わせ、5G信号を取り除いて衛星信号のみを取り出すことで正しく通信できるようにする訳です。

しかし、光ファイバーの伝搬速度と、無線通信による伝搬速度には違いがあり、何も処置をしていなければ無線通信で送られた5G信号の方が、5Gレプリカ信号よりも先に干渉キャンセラー装置に届いてしまいます。

こうしたことから、5Gレプリカ信号の方が先に干渉キャンセラー装置に届くよう、基地局側に遅延装置を導入して到達時間の調節をしているとのこと。その際発生する遅延はマイクロ秒単位とのことで、ミリ秒単位が基準となる5Gの低遅延には大きく影響しないようです。

そして、ソフトバンクと東京工業大学では、今回この仕組みを実現するべく、実際に試作装置を作って室内実験を実施。

実験環境では基地局や衛星から信号を送る際に、無線ではなくケーブルを用いるなどの違いはありますが、基地局からの5G信号と衛星信号、さらにマルチパスを加えた3つの信号が合成された5G干渉信号であっても、干渉キャンセラー装置を経由することで干渉を抑え正しく通信できることを確認できたとのことです。

この仕組みであれば、地球局側の負担は干渉キャンセラー装置を導入してもらうだけと比較的少なく済みますし、ハードにもそこまで高い処理性能も必要ないとのこと。周囲に最大で100程度の基地局があっても干渉のキャンセルに対応できるとのことなので、実際に導入されたとなれば大きな効果が期待できます。

ただ、もちろん現時点ではまだ室内実験が完了した段階に過ぎず、導入に向けては今後実フィールド上での実験などを実施し、性能の確認をしていく必要があるようです。

実験が成功した今後を見据えると、導入に向けて大きなハードルとなりそうなのが衛星通信事業者側の対応です。衛星通信事業者は先行してこの周波数帯を活用していることもあって、衛星通信の安定などを理由に干渉キャンセラーの導入自体をしたがらない可能性が少なからずあるようです。

研究成果を出しても導入されないという事態を招かないためにも、ソフトバンクらには今後の実験で確実な成果を積み上げることが求められるでしょうし、NICTの委託研究課題ということもあるだけに、導入に向けては5Gの全国早期展開に重きを置いている、国の後押しも期待したい所です。

佐野正弘 福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。 この著者の記事一覧はこちら

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る