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ついに打ち上げ! Amazonの衛星インターネット「プロジェクト・カイパー」

2023年10月18日06時05分 / 提供:マイナビニュース

●地球低軌道に何千機もの衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンドを送り届ける
米Amazonは2023年10月7日、衛星インターネット・システム「プロジェクト・カイパー」の試作衛星2機の打ち上げに成功した。

地球のまわりに3000機を超える衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンドを送り届けることを目的としたもので、今回の試作衛星による技術実証を経て、2024年末から初期サービスを開始するとしている。

衛星インターネットをめぐっては、イーロン・マスク氏の宇宙企業スペースXが「スターリンク」を運用し、すでに世界中にサービスを提供しているほか、米国内をはじめ世界各国で開発が活発になっている。Amazonの参入により、今後この分野での競争がさらに活発になりそうだ。

プロジェクト・カイパー

プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)は、Amazonが開発を進める衛星インターネット・システム画で、地球低軌道に3000機を超える衛星を打ち上げ、全世界にブロードバンド通信を送り届けることを目的としている。

現在、世界では約半数にあたる何十億人もの人々が、ブロードバンドにアクセスするのができない、あるいは難しい状況に置かれている。米国も例外ではなく、シアトルにあるAmazon本社から車で60分以内の場所でもインターネット接続が失われることがあるという。これにより、最新の情報や教育、医療など、さまざまな面で格差--デジタル・ディバイドが生じており、世界的な社会問題にもなっている。

しかし、現在ブロードバンドが通っていない国や地域に、光ファイバーを通したり基地局を建てたりすることは、コストや地理的な事情から難しい場合が多い。また、従来の衛星インターネットでは、衛星は赤道上空の高度3万5800kmにある静止軌道に置くのが一般的で、その距離の遠さからタイムラグが発生したり、通信速度も遅くなったりといった欠点があった。

そこで、近年注目されているのが「地球低軌道コンステレーション」である。大量の衛星を地球低軌道(地球に比較的近い高度数百kmの軌道)に打ち上げ、地球を覆うように配備して運用することで、世界のどこでも高速・低遅延のインターネットを提供しようというものである。

また、こうした人々にブロードバンドを提供できれば、AmazonのKindleやEchoなどといったサービスの利用者も増えることになり、大きなビジネスチャンスにもなる。Amazonにとってカイパーは、ビジネスと社会貢献の両面で大きな意義がある。

今年3月には端末の試作機も披露され、小型モデルでは最大100Mbps、標準モデルでは最大400Mbps、企業や政府など向けの大型モデルは最大1Gbpsの速度を提供できるという。端末の価格やサービスの利用料金については明らかにされていないが、「手頃な価格で提供することはカイパーの重要な原則である」とされており、Echo DotやFire TV Stickなどのような低価格デバイスや利用プランも設定されるものとみられる。

カイパーの研究は2018年から始まり、カイパーという名前は当時の内部コードネームでもあった。この名前は、太陽系外縁にあるカイパー・ベルトに由来するという。そして2020年7月、米国連邦通信委員会(FCC)からカイパー衛星の打ち上げと運用のライセンスを受けている。

カイパーの初期の衛星コンステレーションの衛星数は3236機が計画されている。これらの衛星は、高度590km、610km、630kmの3つの異なる高度と、98の異なる軌道面に分けて配置される。FCCのライセンスでは、2026年7月までにこのうち少なくとも半分を配備して運用することが求められている。

開発の拠点はワシントン州レドモンドにあり、ワシントン州カークランドに衛星の生産拠点がある。また、フロリダ州のNASAケネディ宇宙センター内では衛星の整備施設の建設が進んでいる。現在、同プロジェクトにかかわる人員は1400人を超えるという。

なお、Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏は、「ブルー・オリジン」という宇宙企業も創設して運営しているが、カイパーとの直接的なつながりはなく、あくまでAmazonのサービスのひとつという位置づけにある。ただ、将来的にカイパー衛星をブルー・オリジンのロケットで打ち上げる計画はある。

●Amazonの参入で衛星インターネット開発競争が激化、その期待と懸念
カイパーサット1、2

今回打ち上げられたのは、カイパーの試作機となる2機の衛星で、それぞれ「カイパーサット1 (KuiperSat-1)」と「カイパーサット2 (KuiperSat-2)」と名付けられている。また、両機を使った技術実証ミッションは「プロトフライト(ProtoFlight)」と名付けられており

両機は、米国のロケット企業ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の「アトラスV」ロケットに搭載され、日本時間10月7日3時6分(米東部夏時間6日14時6分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル宇宙軍ステーションから離昇し、高度約500km、軌道傾斜角30度の軌道に投入された。

その後、3時53分にカイパーサット2と、同54分にはカイパーサット1と通信を確立したことが確認されている。

衛星の質量などは明らかにされていないが、Kaバンドの通信装置やフェーズド・アレイ・アンテナ、パラボラ・アンテナ、簡単にカスタム可能な設計を取り入れたバスなどをもち、今後の実運用機の開発や運用に必要な技術の実証が行えるようになっている。また推進システムには、電気推進の一種のホール・スラスターが採用されている。

プロトフライト・ミッションでは、まず打ち上げ直後に、衛星上のさまざまなシステムとサブシステムの試験を始め、太陽電池パドルの展開に始まり、発電、テレメトリー(機体の状態を示す信号)、追跡、地上局と衛星との通信確立を実施する。

また地上では、カイパーのための開発されたハードウェアとソフトウェア両方の試験が行われ、カイパー・システムのインターネットへの接続、AWS(Amazon Web Services)を介したデータフローの試験、さらにミッションが進行するにつれて、ネットワークをエンドツーエンドで試験し、インターネット、地上ゲートウェイ、衛星、顧客端末の間でデータを送受信することが行われる。

ミッションの終了時には、衛星が宇宙ごみ(スペース・デブリ)にならないよう、まだ状態が正常なうちに自ら軌道から離脱し、大気圏に再突入して処分することになっている。

打ち上げに際し、プロジェクト・カイパーの技術担当副社長を務めるRajeev Badyal氏は「今日の打ち上げにより、『プロトフライト』ミッションの新たな段階が始まりました。道のりは長いですが、それでもエキサイティングなマイルストーンです」と語った。

「Amazonにとって衛星を宇宙へ打ち上げるのは初めてであり、ミッションがどのように進むかどうかによらず、私たちは信じられないほど多くのことを学ぶことになるでしょう。新しい宇宙システムをゼロから構築するのは大変な苦労がありましたが、私たちのチームは、ブロードバンドを必要とする人々に手頃な価格でブロードバンドを提供するという目標に向け、全力を尽くしてきました」。

Amazonによると、最初の量産衛星は2024年前半の打ち上げに向けて順調に製造が進んでおり、2024年末までに初期の商用顧客向けにベータ・テストを開始する予定だとしている。

またAmazonは、今後の衛星打ち上げに関して、ULAやブルー・オリジンのほか、欧州のアリアンスペースとも契約を交わしており、現時点で77回分の打ち上げを確保している。

衛星インターネット開発競争

大量の低軌道衛星を使ったインターネットの構築をめぐっては、スペースXのスターリンク(Starlink)が先行しており、すでに4000機以上の衛星を運用して全世界にサービスを提供している。とくに、ロシアによる軍事侵攻でインフラが破壊されたウクライナで活用され、大きな話題となった。

また、英国に拠点を置く「ワンウェブ(OneWeb)」も構築を進めており、すでに400機を超える衛星が打ち上げられているほか、米国内でも数社が開発を進めている。また、中国も国営企業の中国衛星網絡集団が、1万3000機もの衛星からなる衛星インターネット「国網」計画を進めており、今年7月には最初の試験衛星が打ち上げられている。中国ではさらに、複数の国営企業と民間企業による衛星インターネット計画が進んでいる。

Amazonはやや出遅れたとはいえ、圧倒的な資金力をもち、なにより自らさまざまなWebサービスを提供している企業が本格的に参入したことで、この分野での競争がさらに激化するものとみられる。

ただ、こうした革新的な技術は、デジタル・ディバイドの解消に役立つだけにとどまらず、スターリンクがウクライナで活用されたこと、そして中国が国を挙げて独自の衛星インターネット・コンステレーションの構築に乗り出したことにも表れているように、さまざまな面で社会を大きく変える可能性をもっており、今後どのように使われていくことになるのか、その動向には注意が必要である。

また、低軌道にそれも大量の衛星があることで、機体に太陽光が反射し夜空で明るく輝いてしまうことや、つねに地上に向けて通信電波が出ていることから、天体観測、天文学の研究に悪影響を及ぼす可能性も懸念されている。

スペースXなどは、天文学者のコミュニティとの連携を図り、衛星の反射率を下げるなどの対策を取っているが、完全な解決には至っておらず、今後両分野がどのように折り合いをつけていくかも大きな課題となる。

○参考文献

・Amazon Project Kuiper latest updates: October 2023
・United Launch Alliance Successfully Launches First Mission in Partnership with Amazon
・Project Kuiper
・Here’s your first look at Project Kuiper’s low-cost customer terminals

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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