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軍事とIT 第522回 艦艇と電測兵装(4)フェーズド・アレイ・レーダーの搭載要領(その2)

2023年09月09日11時35分 / 提供:マイナビニュース

前回は、イージス艦のパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダー、AN/SPY-1シリーズを搭載する艦の話だけで終わってしまった。さすがに1970年代の製品にルーツを持つ製品を延々と使い続けるわけにはいかないから、その後はアクティブ・フェーズド・アレイ形の艦載多機能レーダーが主流になった。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
アクティブ・フェーズド・アレイは配置の自由度が増す

まず、米海軍がアーレイ・バーク級フライトIIIで導入した、RTX社のレイセオン部門製AN/SPY-6(V)1 AMDR(Air and Missile Defense Radar)。これはもちろんアクティブ・フェーズド・アレイ形だから、「CFAの周囲にアンテナ・アレイをまとめなければならない」という制約とは無縁。

AN/SPY-6(V)シリーズの送受信モジュールは、アンテナ・アレイを構成するアンテナと同じ数だけあり、過去に本連載で何度も書いてきているように、RMA(Radar Modular Assembly)と呼ばれるユニットを単位とする形でまとめられている。RMAの数を増やしたり減らしたりすることで、大きな高性能のレーダーも、小さなお手頃レーダーも作れる。

もちろん、電源やレーダー制御用のプロセッサなどは艦内に別途、設置しなければならないが、裏側に送信管を持つ必要がなくなった分だけ配置の自由度は増した。だから、RMAを9個に減らしたアレイを3面持つAN/SPY-6(V)3 EASR(Enterprise Air Surveillance Radar)を見ると、設置要領はAMDRとは違ったものになる。

アンテナ・アレイを1面にして回転させるAN/SPY-6(V)2

さらに、アンテナ・アレイを1面にして回転させるAN/SPY-6(V)2もある。しかも、そこで使うRMAは他のモデルと同じだ。同じコンポーネントを共用して派生型を増やせば、調達費だけでなく維持管理経費の低減にもつながる。

その辺の事情は、ロッキード・マーティン製のAN/SPY-7(V)シリーズも同様。たまたま、スペインのF-110形もカナダのCSC(Canadian Surface Combatant)も、艦橋上部の塔型構造物にアンテナ・アレイを配する形になっているが、これだけが唯一の解というわけでもあるまい。

我が国のFCS-3やその他のレーダーをいろいろ見てみると

艦橋上部に小さな塔型構造物を据えて、その周囲に4面のアンテナ・アレイをまとめたのが、タレス・ネーデルランド製のAPAR(Active Phased Array Radar)。これもアクティブ・フェーズド・アレイ形だが、米海軍の「SPYレーダー」一族が使うSバンドよりも周波数帯が高い、Xバンドの電波を使う。その関係もあってか、アンテナ・アレイは小さい。高い位置に据えたいから、大きくしづらかったのかもしれないが。

我が国のFCS-3や、そこから派生したOPS-50、OPY-1といった製品も、4面構成のアクティブ・フェーズド・アレイ形。周波数帯はCバンドで、米海軍の「SPYファミリー」とAPARの中間。

ヘリコプター護衛艦では、米海軍のタイコンデロガ級みたいに前後に2面ずつ離して、「艦首側と右舷側」「左舷側と艦尾側」と分ける点対称配置。ところが汎用護衛艦では、「あきづき」形では艦橋上部に斜め前方向きの2面、ヘリ格納庫上部に斜め後方向きの2面、と離して据えた。

そのため、後方のアンテナ・アレイを取り付ける構造物は艦首側に絶壁ができた。対して「あさひ」形では、艦橋構造物の上に4面をまとめている。

これに限らず、近年では「高性能の防空艦」でなくても多機能型のアクティブ・フェーズド・アレイ型レーダーを載せる事例が増えているが、艦橋上部の構造物に4面をまとめるパターンが多いようだ。我が国の「もがみ」型FFMもそうだ。

アンテナ・アレイを設置するだけなら自由度はあるだろうが、ひとつところにまとめる方が艤装しやすいということであろうか。それに、配置を近接させれば電線が短くなるから配線スペースを節約できるし、電線が短くなる分だけ軽くなる。

そういう意味で面白いのが、フランス海軍が建造を進めているFDI(Frégates de Défense et d'Intervention)ことアミラル・ロナーク級、このクラスは、タレス製シーファイア500レーダー×4面とその他の電測兵装を艦橋後部の塔型構造物に集約しているが、戦闘システムや戦闘情報センターをその下部に配置して、ひとまとまりのブロックにしている。

普通、戦闘情報センターは戦闘被害を考慮して船体内に設置するものだが、上部構造の、それも艦橋後部に設置する事例は珍しい。しかし、センサーとそこで使用する電子機器、そして戦闘情報センターをひとまとまりのユニットとして搭載すれば、艤装は容易にできるし、後日の装備更新に際しても有利になると思われる。

もっとも、そのために抗堪性を犠牲にしてしまったのでは元も子もないので、なにがしかの配慮は求められよう。

著者プロフィール

○井上孝司

鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第2弾『F-35とステルス技術』が刊行された。

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