2023年09月05日07時47分 / 提供:マイナビニュース
●太陽電池の利用拡大に貢献する新たな一手
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)は8月31日、ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池のプロトタイプを開発したことを発表。また8月より、技術検証を含めた1年以上にわたる長期実証実験を、神奈川県藤沢市の「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」(Fujisawa SST)内に新設されたモデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT III」で開始したことも併せて発表した。
同発表に際しパナソニックHDは、Fujisawa SSTにてメディア向け発表会を開催。モデルハウスに設置されたガラス一体型太陽電池を公開するとともに、技術の特徴や今後の展望について説明した。
「発電するガラス」を目指し実証実験を開始へ
カーボンニュートラルの実現に向け、さらなる再生可能エネルギー(再エネ)の創出手段として、太陽電池の普及拡大が求められている。しかし山が多く平地が少ない日本においては、メガソーラーのような大規模発電設備の構築は難しく、また建物の屋上も設置面積が限られていることから、建物の窓や壁面などを活用した発電が不可欠となる。しかし、従来より用いられている結晶シリコン系の太陽電池では、透光性やデザイン面の観点から、窓などのガラス部に設置するのは難しかったという。
そこでパナソニックHDが着目したのが、結晶構造の一種である「ペロブスカイト」を有する化合物を用いたペロブスカイト太陽電池だ。有機・無機のハイブリッド構造を持つ同太陽電池は、有機材料の強みである加工性の高さやインクなどの実装手段の柔軟性と、無機材料の優れた半導体特性による高効率性および安定性を併せ持つことから、次世代の太陽電池として注目が集まっている。
同社は現在もペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた研究開発を進めており、その中で、有機LEDディスプレイの生産で培われたインクジェット技術を活用して、基板に直接ペロブスカイト太陽電池を塗布するという製造方法を開発。同方法を用いた太陽電池の性能向上を重ね、800cm2を上回る実用サイズにおいて、世界最高レベルとなる17.9%の発電効率を達成したとする。
そして今回は、基板としてガラスを用い、2枚のガラスで太陽電池部分を挟み込む構造を採用することで、耐久性・断熱性などの性能面で建築物の窓にも適用可能なガラス建材一体型太陽電池(BIPV)を作製。Fujisawa SSTの新モデルハウスにおいて実証実験を行うに至ったとする。
バルコニーのガラスパネルで発電量や耐久性を検証
今回公開されたのは、「生きるエネルギーがうまれる街。」というコンセプトのもと、パナソニックグループが代表幹事となって開発が進められているスマートタウンのFujisawa SSTにて、三井不動産レジデンシャルなどにより新設されたモデルハウスのFuture Co-Creation FINECOURT IIIだ。
9月1日に一般見学も開始したという同モデルハウスは、Fujisawa SSTに参画するさまざまな企業のテクノロジーが詰まった建築で、建設から解体までの住まいとしてのライフサイクル全体でCO2収支をマイナスにする「LCCM住宅」としての認証も取得している。
●ガラス一体型太陽電池を設置したモデルハウスを見学
パナソニックHDのガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池は、モデルハウス2階の南南東に面したバルコニー部分に、ガラスパネルとして設置。今回は、15cm角の太陽電池モジュールを12枚組み合わせて1枚のガラスパネルを作製しているという。なお現在は1.0m×1.8mのペロブスカイト太陽電池を製造できる新たなラインを組み立てている最中で、2024年の稼働開始を目指しているとのこと。稼働以降は、1枚の大型ガラス一体型太陽電池パネルとして製造する予定だとする。
現在設置されているパネルでは、透過型のペロブスカイト太陽電池がグラデーション状に配置されている。この配置や密度については調整が可能だといい、空間デザインの面から透過性を高めて解放感を演出したり、セキュリティやプライバシー面での対策として高い密度で太陽電池を配置したりと、用途や場所に応じて使い分けることが可能とのことだ。
パナソニックHDによると、今回の実証実験では、発電性能や耐久性に加え、気候などの実使用条件下における長期運用によって生じる課題を洗い出すことで、事業化に向けた技術開発を加速させるという。
「多様なニーズに応えるカスタマイズ性で強みを発揮する」
パナソニックHD テクノロジー本部 マテリアル応用技術センター1部の金子幸広部長は、ペロブスカイト太陽電池の分野における同社の強みとして、インクジェット技術を活用した材料の塗布を挙げる。以前からディスプレイ向けに進歩を遂げてきた同技術を転用することで、大きな面に対して均一に材料を塗布することができ、この点が発電効率という強みにつながっているとする。
また、地面に対して垂直に設置されたバルコニーのガラスパネルでは、屋根に設置した場合に比べて日射量が劣るため、「今回開発を進めているペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン太陽電池に置き換わるようなものではない」という。しかし、朝夕の太陽が傾いた時間帯には多くの日射受けるため、発電量のピークシフトなどにも有効だといい、シリコン太陽電池では満たすことのできないニーズにも応え得る可能性があるとし、「建造物のガラスのサイズなど、さまざまなニーズに対応するカスタマイズ性という部分で、ペロブスカイト太陽電池の強みが発揮されると考えている」と話す。
なお今回の実証実験は、2024年11月29日までを予定しているとのこと。パナソニックHDは、都市部を含む太陽電池の設置場所の拡大に貢献するとともに、災害時などの電力供給システムの強靭化(レジリエンス向上)への貢献も見据え、早期の社会実装に向けて今後も技術開発を続けていくとしている。