旬のトピック、最新ニュースのマピオンニュース。地図の確認も。

ぴあのDX事例から学ぶ -トレンドに合わせた4度の“変態”はいかに実現したか

2023年09月08日08時00分 / 提供:マイナビニュース

イベント情報誌の出版からスタートしたぴあ。その後同社は、情報流通業、チケット取次、興行主催、エンタメ商社と業態を変えてきた。ぴあ 取締役 社長室長 広報・IR担当役員 兼 ぴあ総研 取締役論説委員の小林覚氏は「業態が変わるときには全てDXが関わっていた」と言う。

8月2日から18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」に同氏が登壇。ぴあがこれまでに4度行ったというDXや、エンタテインメント業界が今後に向けて考えるべきことについて語った。
○雑誌の自動編集から始まったDX

「ぴあ」が創刊されたのは1972年のこと。映画やコンサートの情報だけを並べた情報誌を手探りでつくった。イベントの良し悪しではなく、5W1Hの一次情報だけを客観的に伝え、目立たない自主製作の作品も取り上げた。

いつもは読者の立場であっても、掲載希望を出せば自分の主催するイベントを載せてもらえる。こうした誰も取り残さない発想は現在のSDGsに近いものだったし、情報の送り手と受け手がインタラクティブに入れ替わるところは、「現在のインターネットと共通する世界観だった」と小林氏は言う。

また一次情報だけを平等、客観的、網羅的に掲載し、アーティスト名や会場名、日時などから検索可能にした点は、アナログ時代の検索ポータルとも言えるものだった。「時代の先端のところで新しいことを始めていた」と同氏は当時を振り返った。

ぴあの1度目のDXは、1980年、コンピュータによるイベント情報の自動編集を開始したことだ。

その目的は省力化ではなかった。定型的なテキスト情報であれば、写植より自動編集の方が速いため、締切ぎりぎりまで情報を受け付けて掲載するために採用したのだ。この最初の本格的なDXが、次の情報流通業への端緒となったと小林氏は述べた。

続いて、今や当たり前にエンタメシーンを支える「チケットぴあ」のスタートは、同社にとって2度目のDXとなった。5W1Hの基本情報のほかに座席情報をオンラインで発信すれば、オンラインチケット販売が可能になるのではないかと考えていたところ、ちょうど劇団四季の浅利慶太氏から、「『キャッツ』の公演チケットをオンラインで販売したい」との申し出があったのだという。

そこで1983年に同公演のチケットをテスト販売したところ、10万枚がわずか3日半で完売する成功を収めた。これに手応えを感じた同社は、翌1984年からチケットぴあをスタートさせた。

「必要なことを実現するために、何か新しい技術を使えないかと考えたことが、DXの起点になったのではないでしょうか」(小林氏)

3度目のDXは2002年、従来の電話予約で販売手数料を得る方式から、ネット販売のシステム利用料を得る方式へと転換したことだ。これも省力化が目的ではなく、同社がビジネスモデルを変えようとしたことが大きかったという。

ぴあの転換が成功したことで、チケット販売は従来のように薄利多売ではなくなったことが広く知られ、IT大手や携帯キャリアなど様々な事業者がチケット事業に参入してくることにつながった。

○体験型の価値提供へと転換した4度目のDX

そしてこれからは、「心の時代」だと小林氏は言う。モノの時代からコトの時代へと変わり、正解を示すサイエンスや正しい予測、知識が求められていた時代から、発想や情緒、ロマンなどが大事にされるような時代になってきた。それに伴って、ぴあも従来のサービスからこの数年で体験型の価値提供へと“変態”を図っている。これが4度目のDXだ。

昭和時代と令和時代の価値観の変化

この4度目のDXを進めることになったのは、新型コロナウイルス感染症流行によるパンデミックの影響が大きかったと小林氏は振り返る。イベントが次々になくなったことで、イベントチケットの販売に依存する業態では、業界に壊滅的な影響を及ぼすことが分かったため、このままのビジネスモデルを維持し続けていては危険だと判断したのだ。

そこでまず行ったのが、配信事業による集客ビジネスのハイブリッド化だ。配信事業は近年増えつつあるが、これは「エンタテインメント業界にとって歴史的なDX」だと小林氏は語る。ぴあでは、メタバース空間でのライブの主催や、最新のXR(クロスリアリティ)のライブ制作にも取り組んでいるそうだ。

○興行主催者側へ転換、高付加価値チケットの販売も

興行主催者の側に転換する取り組みも行われている。2020年に横浜みなとみらい地区に開業したぴあアリーナがその一例だ。ホールを所有することで、自分たちでコンテンツをつくるところから始まり、自分たちの流通の仕組みでチケットを販売、プロモーションを行って自前のホールでイベントを開催するところまで、全て担うことができる。言わばエンタテインメント界のバリューチェーンを実現しようとしているのだ。

また、ホスピタリティ事業にも力を入れている。エンタテインメントの楽しみ方をさらに一歩進めようという発想から、イベントのVIP向けホスピタリティ事業を展開するスイスのDAIMANI Holding AGと業務・資本提携し、PIA DAIMANI Hospitality Experienceを設立した。

ホスピタリティ事業の1つに「ホスピタリティチケット」の販売がある。スポーツ興行やコンサートにおける新たなチケッティングのジャンルで、トップカテゴリのチケットに、送迎や専用ゲート、ケータリング、専用ラウンジ、選手やアーティストとの交流など、付加価値の高い体験プログラムをセットにして販売するものだ。

従来は、いかに大量のチケットを販売するかに力を入れてきたが、これからは1人1人のニーズに合わせ、「体感、体験の価値がより高まるようなチケットを販売することが必要になる」と小林氏は力を込める。

「丁寧にチケットを売っていく時代になってきているのです」(小林氏)
○感動や共感を重視し、感動体験の価値を上げていくことが必要

同社は今後に向けてさまざまな新規事業を開発しているが、業態は変わったとしても、“観て聞いて感動を体験するエンタテインメント”という、ぴあの立ち位置を変えることはないという。

例えば前述のぴあアリーナは、アリーナまでトラックが入れるようになっていて、ステージの設営や撤収も容易にできるよう設計した。

また建物の装飾や設備は最低限だが、壁や椅子にはコストをかけている。これは来場者に居心地よく楽しんでもらうためだ。

発信する側と受け取る側の双方にとって良いものをつくろうという考えは創業以来変わっておらず、「遊び、感動、体験価値が全てのビジネスの起点になっている」と小林氏は言う。

「DXをしようというよりは、この原点を追い続けるために、必要とされるシステムやITを活用していきたいと考えています」(小林氏)

そして、小林氏が掲げる今後のキーワードはDXからCX、つまり顧客体験価値だ。これまで重視されてきた品質や性能、価格より、感動や共感を付加価値として求める顧客が増えている。だからこそ、モノではなく良質な体験を提供することが必要なのだと言う。ぴあアリーナの座席が、座り心地が良くカップホルダー付きであるのも、小さなことだが体験価値を上げるための1つの工夫なのだ。

「こういった感動体験の価値を上げていくことが次のDXにつながっていくのです」(小林氏)

最後に、同氏は歴史家フェルナン・ブローデル氏の「歴史というのは、ある日突然、神様がやってきて鐘を鳴らしながら『今日から新しい時代が始まる』と転換するものではない」という言葉を聴講者に送り、講演を締めくくった。

* * *

今回のコロナ禍を含めて、歴史の変わり目に立たされた際に、その兆しを敏感に感じ取れるか否かが、ビジネスに求められる勘所の1つである。その時々の顧客のニーズを察知し、4度の“変態”を成し遂げたぴあの考え方は、どの業界やビジネスにも求められる視座なのかもしれない。

続きを読む ]

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

ネタ・コラムカテゴリのその他の記事

地図を探す

今すぐ地図を見る

地図サービス

コンテンツ

電話帳

マピオンニュース ページ上部へ戻る