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“AIは基盤モデルの時代” - AI&データプラットフォーム「IBM watsonx」の狙いとは

2023年08月30日13時00分 / 提供:マイナビニュース

5月にIBMが開催した年次イベント「Think」で発表され、7月に一般提供を開始したAIとデータプラットフォームの「IBM watsonx」。同プラットフォームが狙っている領域はズバリ、“最先端のAI活用の拡大・加速を可能にする”ということだ。今回、同社が考える将来的なAIやデータの活用、watsonxの狙いについて話を聞いた。
企業におけるAIの活用をスケールしていく

元々、同社が提供していたAIとしては、ご存知の方も多いかと思うが「IBM Watson」が有名だ。そもそも、watsonxを発表したIBMの狙いとしてはAIファーストの考え方が背景にある。

その点について、日本IBM テクノロジー事業本部 Data and AIエバンジェリストの田中孝氏は「従来はビジネスプロセスや業務アプリケーションなどに、後付けでAI機能を付け加えて改善、高度化を図る『+AI』という形でAI活用が一般的に行われてきました。そこをAI前提のビジネス『AI+』に変えていくことがAIファーストです。watsonxの『x』の由来は、これまで以上にお客さまのビジネスにおけるAIの活用をスケールしていくと意味合いが込められています」と説明した。

同社がAIファーストに至った理由として重要なものが“基盤モデル(ファウンデーション・モデル)”だ。考え方自体は機械学習アプローチの派生形の1つであり、基礎的な知識を備えたAIを大量の学習データから作成し、これを基盤にさまざまな用途にファインチューニングすることで業務で使うAIモデルを構築できるというもの。

IBMでは、生成AIに対する信念として「Open」「Trusted(信頼できる)」「Empowering(力を与える)」「Targeted(明確な対象)」の4つを位置付けている。

従来の機械学習によるAI開発は、自動翻訳モデルや文書分類モデルなど、用途ごとにモデルを作成するほか、学習データはラベル付きのデータを集める必要があることから、時間とコストを要していた。

田中氏は「基盤モデルによるAI開発は、従来の機械学習と比べても圧倒的に大量の学習データを用いて作成するため、作成した基盤モデルに追加の少量の学習データさせることで翻訳モデル、分類モデルなどが作成できるます。一からデータを集める必要はなく、企業側では基盤モデルを選択し、企業固有のデータを追加して学習させることができます」と説く。

そのため、基盤モデルを選択する際にデータの出自が明らかなのか、バイアスは含まれていないか、どのくらいの実行環境なのか、計算コストなどを含めて、適切なモデルを選択する必要があり、そうした支援が不可欠とのことだ。

watsonxによるIBMの狙い

IBMでは、顧客のAI活用を支援で目指す姿として、企業固有のデータを加えてモデルを学習させて、業務プロセスを変革することを狙っている。

昨今ではOpenAIのChatGPTのように、特定企業が基盤モデルをファインチューニングした後にサービスとして提供し、ユーザーはモデルを使うだけというアプローチとは一線を画しているという。

業務のカテゴリごとにさまざまなモデルを使い分けつつ、それぞれのモデルを単一で使うだけでなく、企業独自のデータを加えて学習させたり、チューニングしたりして継続的に成長させていく運用も含めて、AIの活用を支援するためにIBMが発表したものがwatsonxというわけだ。

watsonxはAIモデルのトレーニング、検証、チューニング、導入を行う「watsonx.ai」、あらゆる場所の多様なデータに対応してAIワークロードを拡大する「watsonx.data」、責任、透明性があり、説明可能なデータとAIのワークフローを実現する「watsonx.governance」の3つのコンポーネントで構成されている。

すでに今年7月にwatsonx.aiとwatsonx.dataは提供を開始しており、watsonx.governanceについては2023年後半に提供開始を予定。3つのコンポーネントを組み合わせて利用できるほか、単一のコンポーネントとしても利用が可能だ。
○watsonx.ai

watsonx.aiは、企業におけるAI構築のためのスタジオを提供し、従来の機械学習と基盤モデルを活用した生成AIの両方を支援し、さまざまな学習やカスタマイズ方法をサポート。音符らミスや他社クラウド環境を含む、多様な実行環境を用意している。

田中氏はwatsonx.aiについて「基盤モデルを取り込むプロンプトをデザインするアプローチと、基盤モデルをカスタマイズするチューニングのアプローチを提供します。プロンプトのデザインでは基盤モデルをそのまま利用してもらい、基盤モデルをカスタマイズするアプローチでは、企業固有のデータ・要件に合わせて、モデルを段階的にカスタマイズしていくものです」と説明した。

提供する基盤モデルは、IBM独自モデルとオープンソースモデル。IBM独自モデルの特徴について同氏は「当社のデータレイクで信頼性を担保しながら事前学習の実施、計算最適なモデルの学習・アーキテクチャ、効率的なドメイン・タスクに特化しています」と述べている。

こうした特徴を備えた基盤モデルとして、同社が提供するものがコード生成の「fm.code」、LLM(大規模言語モデル)の「fm.NLP」、地理空間データの「fm.geospatial」の3つだ。

また、オープンソースモデルは、機械学習アプリケーションを作成するためのツールを開発する米Hugging Faceのオープンソースライブラリをベースに、Hugging Faceの数千超のオープンモデルやデータセットの提供を予定し、PyTorchやRay、ONNXなどのオープンコミュニティとも協力していく構え。

watsonx.aiでは音声・画像や化学・素材開発、センサデータなどの基盤モデルを作成できる可能性があるため、地理空間情報や分子情報、スポーツデータをはじめ、さまざまな企業と共同研究を進めている。

さらには、生産性向上やIT運用、セキュリティ、サステナビリティ、アプリケーションモダナイゼーションといった領域のIBMソフトウェアにもwatsonx.aiで提供する基盤モデルの機能を加えて強化していく方針だ。

田中氏は「基盤モデルを提供するだけでなく、業務視点で現状の業務アプリケーションを高度化するという観点でAI活用の支援も行います」と述べており、一例として今年12月には自然言語での命令にもとづきコードを生成する「Watson Code Assistant」の提供開始を予定している。

○watsonx.dataとwatsonx.governance

また、watsonx.dataはAIモデルをカスタマイズするためのデータを共有するデータストアとなり、オープンレイクハウスアーキテクチャで構築されている。

これまでのデータストアは90年代にデータウェアハウス(DWH)、2000年代にデータレイク、その後はクラウドDWHと技術は進歩しているものの、すべてがなくなっているわけではなく、多くの企業でDWH、データレイク、クラウドDWHを利用しているのが現状となっていることから、IBMではデータレイクハウスでこれらのデータの一元化を支援する。

田中氏は「旧来はデータソースからデータレイクに集めて、DWHに加工したうえでデータマートに切り出してBIツールから参照したり、機械学習ツールの開発基盤などから参照したりしていました。watsonx.dataではデータレイク、DWH、データマートの部分を一元化します。基盤モデルの開発のためのデータストアと見ることもできれば、基盤モデル以外の機械学習・AIのためのデータストア、BIツールのためのデータストアにもなり得るため、企業におけるデータ基盤のハブを目指しています」と説明した。

watsonx.dataはオープン性にこだわり、インフラ領域はRed Hat OpenShift上で動作するため、オンプレミス、ハイブリッドクラウドで稼働させることができ、ストレージ領域はハイブリッド/マルチクラウド環境でも利用できるオブジェクトストレージとしている。

また、データ形式にApache Icebergなどを、メタデータストアにApache Hiveなどを、クエリエンジンにはPrestoやApache Sparkなどを利用することで、ベンダーロックインを排除する形になっているという。

一方、年末に提供開始を控えているwatsonx.governanceはAIモデル開発時のモデルに関するさまざまなメタデータを文書化して管理する機能、AIモデルが本番環境で動作している際の挙動のモニタリング機能、AIモデルの運用に関する企業、国、地域による倫理基準やガイドラインと整合性があるのかをチェックする機能と、大きく分けて3つの機能を提供する。

田中氏は「watsonx.aiとwatsonx.data、watsonx.governanceの3つのコンポーネント通じたIBMのAI戦略は“AI for Business”の一言に尽きます。信頼性を担保するための仕組み、ビジネス文脈を理解できるためのカスタマイズ、業務プロセス・アプリケーションに組み込むための機能を各コンポーネントに組み込んで提供します」と述べている。
AIの価値創造者としてのプラットフォーム

加えて、日本IBM IBMコンサルティング事業本部 エンタープライズ・ストラテジー パートナーの田村昌也氏は「最近ではChatGPTが消費者の話題をさらっていますが、企業向けAIの世界には基盤モデルの時代が到来しています。当社では基盤モデルの構築に2017年から取り組み、研究・製品への適用を進めており、それを展開していきます」と説く。

さらに、田村氏は「オープンなマルチ基盤であり、単なる利用者ではなくAIの価値創造者となるためのプラットフォームを提供します。また、AI倫理を遵守して信頼できるAIを実現し、課題を解決するためのエンタープライズ向けAIとして設計しています」と述べている。

日本IBM 理事 テクノロジー事業本部 Data and AI テクニカルセールス watsonx Client Engineeringの竹田千恵氏は「日本のお客さまの特性としては生産性向上で利用したいというニーズが多いですが、AIによる価値創造やガバナンスを求めるのは金融業界が多い印象です。将来的にはインダストリーカットで基盤モデルを独自に提供していくことも想定しています」と話す。

こうしたことから、同社ではwatsonxの活用に向けたファーストステップとして「概説・戦略セッション(Briefing)」と「Pilot」の2つのジャンプスタートプログラムを用意。

概説・戦略セッションは数時間~半日程度をかけて、進講・討議を通じて理解を深め、生成AIが自社の業務への活用が可能かを判断する。Pilotは4~8週間の基幹で代表的なユースケースをもとに、業務で実際に活用できるパイロットプロダクトの創出を目指すという。

田村氏は「ユースケースとしては顧客対応サポートやシステム更改・移行・モダナイゼーション、人事管理業務などがあり、こうした領域で具体的な取り組みを行いながら社会に対して新たな基盤モデルを提案していくようなことも、お客さまと議論しています」と強調していた。

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