2023年08月31日09時00分 / 提供:マイナビニュース
新型コロナウイルス感染症の到来は、オフィスの在り方を再定義する大きなきっかけとなった。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、あえてオフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第13回となる今回は、オフィス家具の老舗メーカーとして事務用品・各種設備を扱い、オフィスデザインのコンサルティングも手掛けるイトーキのオフィスを紹介する。
「WORK」から「XORK」へ、働き方を進化
イトーキは、2018年10月に首都圏のオフィスを集約し、日本橋に新本社オフィスを構えて以来、2022年と2023年に段階的にオフィスの大規模リニューアルを実施している。
「弊社のオフィスは『ITOKI TOKYO XORK(イトーキ トーキョー ゾーク)』と名付けられています。この『XORK』という言葉は、これまでの働き方『WORK』を次の次元へと進化させたいという願いを込めて、アルファベットの『W』に続く『X』と掛け合わせた言葉です。XORKは、イトーキが考える新しい働き方とそれを実現するためのオフィスとしてデザインされており、実験的な取り組みを社員自らが体現する仕組みになっています」(香山氏)
香山氏の語る通り、社員自らが実験的な取り組みを行うことが特徴となっているXORKだが、その中でも特筆すべきは「ABW(Activity Based Working)」というワークスタイルの導入だ。
「ABW(Activity Based Working)」とは、高い自己裁量によって、ワーカー自らが働き方をデザインできるように、具体的かつ体系的に社員の行動を変えていく総合的なワークスタイル戦略のこと。この働き方を自社に導入することで、社員の働き方にどう影響するのか、という実証実験をオフィス内で実施しているのだ。
「ABWの最大の特徴は『高い自己裁量で社員自らが行動する』という点です。弊社のオフィスは、11~13階に10個のアクティビティに最適化されたスペースが用意されていますが、働く場所を自由に決められるため、自分の業務内容やその日の行動を早い段階から考え、活動の拠点を作る必要があります。成功のためには個々の社員がこの働き方を理解しつつ、自立して多くのことを考えながら動かなくてはなりません。そのため、ABWの理解を促進するセミナーや研修などが定期的に開催されています」(香山氏)
アクティビティに最適化された10種のスペース
香山氏は「10個のアクティビティに最適化されたスペースが用意されている」と説明したが、この言葉の通り、XORK内には、その時々の働き方や業務内容に沿ったスペースが用意されている。
それが、「高集中」「コワーク」「電話/WEB会議」「2人作業」「対話」「アイデア出し」「情報整理」「知識共有」「リチャージ」「専門作業」という10個のアクティビティだ。
また、オフィスは11~13階にまたがっているが、リニューアルされた12階と13階にもそれぞれテーマが設定されている。
2022年にリニューアルした12階は、ABWを踏襲しつつも、コロナ禍を通じて出社率が低くなってきたという状況を生かしてショールーム機能を兼ね備えている。ショールームとワークスペースの境界にはあえて壁を設けず、ゆるやかに仕切る事で、顧客や商品などとの関係構築を強化しているという。
「ショールームは前のオフィスの時から存在していたのですが、オフィスとは別の建物で実施していました。現在は、部署を越えてさまざまな自社商品を見る機会もありますし、直接お客様からご意見をいただける環境になっているので、より身近な存在になって良かったと思っています」(香山氏)
2023年にリニューアルした13階のコンセプトは「〜"Return to office for now" 今こそ、オフィスに戻ろうよ。〜」。“行きたくなる”オフィスとして働く人起点でオフィス回帰が促せるよう、「活動×居心地の良さ」を追求したフロアで、木の温もりや木漏れ日を感じられる、まるでカフェテラスで働いているかのような居心地の良い環境が整っている。
フロア全体が木材を中心とした設計になっており、ライティングも明るすぎず心地よい明るさを確保しつつ時間帯によって照度と色温度色味が変わるものを採用しているという。座席も、あえて通路側にはみ出すように設置されている場所もあり、さまざまな人とコミュニケーションを取ることができる仕様になっているようだ。
顧客により良い働き方を提案するために「まずは自分たちでやってみる」
ここまで先進的なイトーキのオフィスを紹介してきたが、自社で行う実証実験はこれだけにとどまらない。
2024年年明けのローンチを予定している「ITOKI OFFICE A/BI」は、従業員の生産性データ、活動データ、オフィス家具や空間の稼働データ、オフィスレイアウトデータを分析することができる商品で、現在XORKでも試験運用が実施されている。
同商品は、家具の色が使用率、縦長のバーの色がそのエリアにいる人のパフォーマンスの高さ、放物線が人の移動、青やオレンジ色の花のようなものが会話の盛り上がりを表すというものだ。
使用率の高さや、パフォーマンスが高い人が多いエリアを分析したり、反対にあまり使用されていないスペースや、パフォーマンスが低いエリアを分析し、オフィスの運用やレイアウトの改善につなげたりしていくことが可能となっている。
また、2023年8月初旬に行われた社員による調理イベントも斬新な取り組みだ。飲食だけでなく、部署や年次、性別も越えて、共に一緒に調理をすることで、交流をより深めることにつながっている取り組みだ。
同イベントは、以前から実施されていたものだが、新型コロナウイルスの影響により約3年半ぶりの開催の運びとなったという。
また、階段部分には、アーティストの山崎由紀子氏による壁画が3フロアを結ぶ。会社全体が大切にしている「チームワーク」や「連帯感」「他者からの学び」という考えに着想を得て、《ビオトープ》をキーワードとして描いた。
多様な社員が働くオフィスをひとつの生態系のビオトープと捉え、欠かせない環境要素である「水」と「木」、ものをつくり出す「人の手」が記号化されて描かれている。
最後に、香山氏に今後のオフィスの展望を聞いた。
「わたしたちはお客様に合ったオフィスを提案するという仕事を行っていますが、説得力を持った仕事をするためには、まず自分たちがさまざまな働き方を体験してみることが一番です。成功したことだけでなく、失敗した部分も包み隠さず共有することで、お客様の利益につなげることができていると思います。そのために今後も少しずつトライ&エラーを繰り返しながら、さまざまな働き方を試し、明日の「働く』」、を体現するオフィス』を作っていけたらと考えています」(香山氏)