2023年07月05日10時00分 / 提供:マイナビニュース
●コンビ解散を決意「考え方を一回リセットせなあかんなと」
昨年末、お笑いコンビ・井下好井を解散した好井まさお。現在はピン芸人、俳優として幅広い活動を行っているが、自身がパーソナリティを務めるTBS Podcast『N93 好井まさおの「今、何してる?」』(毎週水曜19:00〜配信、以下『今なに』)には特に強い思いを持っているという。
なぜ、好井がラジオという媒体にこだわるのか。その動機に迫った今回のインタビュー。前編では、生粋の喋り好きという性格、“ラジオの帝王”こと伊集院光ら憧れの芸人像、同期であるパンサー・向井慧からの後押しなどのキーワードが浮かび上がった。
そして、今回公開する後編では、一番近くで好井の変化を見守る家族の存在、15年にわたり力を注ぎ続けた漫才師時代の葛藤、自身にとって“神様みたいな存在”だという千原ジュニアからもらった大切な言葉と、ラジオという特別な場所と全力で向き合う彼の人生観や職業観が見えた。
○■コンビ解散してから、いい顔してるね
今年4月にスタートした、TBS Podcastの新企画『N93』。この企画では好井のほか、きしたかの、パンプキンポテトフライ、カラタチ、金の国がそれぞれ、月曜から金曜までの各曜日に配信される番組を担当。各番組のPodcastやYouTubeの再生数、イベントグッズの販売数、スポンサー獲得を独自にポイント化した結果が毎月番組内で発表され、年間を通して、もっとも高いポイントを獲得した芸人が、TBSラジオの地上波枠を勝ち取ることができる。
――金属バットや囲碁将棋と親交の深い好井さんが語る『THE SECOND』の回も聴きごたえがありました。大会評やネタ評ではなくて、あくまでも好井さんの日常の一コマと言いますか、他では聴けない切り口のお話が新鮮でした。
『THE SECOND』のことを喋るってなったときに、ネタに関しては「もちろんあなたは喋ってください」って人と、「誰が喋ってんねん!」って人がいるなと、自分が『M-1』に出てる頃に思ってて。もし、自分が『THE SECOND』のことを喋って、そんな風に思われるのはイヤやけど、金属バットと囲碁将棋さんにはすごい情があるというか、体重が乗っかるんで、やっぱり喋りたいじゃないですか。だから、ネタの内容に関しては一切喋らずに、『THE SECOND』があった日の自分のことを喋るって決めて、ああいう形にしました。
――トークに登場する娘さんがかわいくて面白くて、ほっこりとしました。すごくいい子だなと思いますし、好井さんとの関係性も素敵です。娘さん、大人っぽいですよね。
ませてるんですかね? でも、娘が思ったことを家で吐き出せるような環境は作りたいと思ってて、そのために、親がストレスを溜めてるのは良くないじゃないですか。だからこそ、このラジオは終わらせたくないんです!
――娘さんのためにも(笑)。
結局そこに戻るんですけど(笑)。でも、「コンビ解散してから、いい顔してるね」って奥さんが言ってるんです。言い方が難しいんですけど、漫才してるときは相方が嫌いでストレスやったんかって言ったら、そんな一色の話じゃなくて、何色もあるというか。
映画に出て、合間にネタ書いてるのに、相方とこのネタ全然ソリ合わんやん、とか。前日めっちゃウケたネタで賞レースの結果があんまりやった、1年間何しててん、とか、色々なことが重なったんです。15年頑張ったものが評価されんかったってなったら、その考え方を一回リセットせなあかんなと。
60歳まであと20年ないくらいなんですけど、20年間MAXでバリバリ動くことって、難しいと思うんですよ。だから、『M-1』だけに向けて全部を生きるような一年じゃなくて、ホンマにやりたいことでストレスなくお金もついてくるっていう環境をこれからは目指したいなって。
――そこに向かって走っているから、ご家族から見ても好井さんが生き生きとしている。
楽しいですよ、漫才やって仲良い芸人とわちゃわちゃしてるのは。楽しいですけど、それを何年もやってきて、何百ステージ立っても、現状変わってないですから。これは悲しいお別れをせなあかんやろなと思ったんです。でも、またコンビでライブ出たいなと思ったのは1日くらいでしたね。薄情ですけど、今は目の前の仕事が大切ですし、仕事をもらうんじゃなくて、自分で仕事を作れるようになっておいたほうがいいなと。
●「ラジオがやりたい」願望を口にすることの大切さ
○■やっぱり熱量が大事やなって
――『M-1』後の寄席での活躍を期待されていた井下好井を解散したのは、そうした考えもあったんですね。井下好井の解散は昨年末でしたが、それから、お笑いファンを驚かせるようなコンビの解散が続いています。
オジオズ(オジンオズボーン)さんが年末に解散するかもって言ってて、同じ時期に解散になって、コウテイ、コマンダンテ、ゆったり感も。もうしんどいっていうコンビもあれば、何か新しくやりたいことがあるっていうコンビもあったり、単純に仲が悪かっただけかもしれないけど、やっぱり何か1個区切りがそれぞれにあったんだと思います。
――コンビの解散は寂しさがありますが、過去にもコンビからピン芸人になって、現在大活躍している人がたくさんいるので、楽しみな気持ちも大きいです。
僕、コンビを解散してピン芸をやってる人たちを下に見てるというか、ネタも作らずにふらふらしてたり、そのままやめていく人もいてたり、漫才をやってる自分と比べて、何をやってんねんって思ってる時期が一瞬あったんです。
でも、その中にもリスペクトできる人がいて、その人たちは芸人を辞めずにピンで戦い続けて、今では食えるようになってる。そのすごさがいま改めて分かるし、そういう人たちみたいになるには、やっぱり熱量が大事やなって。だから、やりたくないけど、1万5,000円もらえるしな、って、お金のためにやる仕事はコンビ時代にめっちゃやってきたし、今後はそれをなしにして、やりたいことができるように全振りしたい。そのやりたいことっていうのが、『N93』なんです!
――やっぱりそこに(笑)。
なんかもうそればっかり言い過ぎて、ウソくさいな……でも、そうなんです。マネージャーに「この夏か秋に大きい仕事が入るかもしれません」と言われても、「その仕事が入ったらラジオのスケジュールはいけるん?」って話はしてるんですけど、こんなに喋ってて負けたら気まずいよなあ(笑)。
○■言わんと来ない
――好井さんのなりふりかまわない感じはラジオでも面白くなってるし、カッコいいなと思うんです。何かを欲しがる姿勢を見せない美学もあるじゃないですか。
言わんと来ないというか。恋愛でも「好き」って言わんかったら、その子はまず自分の気持ちを知りもしないわけじゃないですか。かわいい人なんて絶対に彼氏がいるんですけど、彼氏がおるからって諦めてたらお付き合いできない。一旦振り向かすために「ちょちょちょ(ちょっとちょっと)」ってやらんと。
それと同じで、ラジオ局の人たちにも「ちょちょちょ」ってやらんかったら、普通は舞台で生きてた人間には声はかからない。でも、「ラジオやりたい」って言ってるやつがおったら、一応引き出しに入れとこうかってなると思うんですよ。それでもしラジオパーソナリティを探してるってなって、その条件に合致したら、呼んでもらえると思うから、いろんなところで言うようにしてました。
――それでラジオを担当するチャンスを実際につかんだ。言霊(ことだま)の力を感じます。
言霊の力……もうこの記事のタイトル、「言霊の力」でいいんじゃないですか? 「力」はカタカナで頼みます。
――検討させてください。
ダサいか(笑)。でも、自分の周りにいる素敵な先輩方もやっぱり、それは言ってました。(ピース)又吉さんは自分が好きやと思ったことはちゃんと表現するようにしてたし、ノブコブの吉村さんもそうですね。若手時代から「俺はMCをやるんだ」「テレビに出るんだ」と言ってて、周りには「どうやってテレビ出るねん」「若い子に人気あるだけやろ」とか言う人もいたんですけど、そう言ってた人たちは全員芸人をやめて、吉村さんの一人勝ちになってる。
●千原ジュニアの言葉に感じたこと「真意は分からないですけど…」
○■好井はずっと食えるから
――好井さんが仲良くしている芸人仲間の皆さんは熱い方ばかりという印象です。YouTubeで千原ジュニアさんとの対談動画を拝見したのですが、ジュニアさんも本当に素敵な方だなと改めて思いました。
僕の世代くらいやと、ダウンタウンさんと千原兄弟さんって神様みたいな存在なんですよね。だから、ジュニアさんとの飲みの場も、ミスったらあかんって気を張るんですけど、本人は全くそんな人じゃない。もう、めちゃくちゃ優しくて。YouTubeで共演させてもらったときも、「ラジオやりたいんです」って言ってたら、カメラ止まる直前くらいに「じゃあ、YouTubeで一緒にラジオしよか」って。ラジオ自体はちょっとまだ諸事情で遅れてるんですけど、ジュニアさんがそう言ってくれて、ホンマに動いてくれるっていうことがうれしいじゃないですか。
――粋ですよね。
そのあと、芸人10人くらいで飲ませてもらったんですけど、僕も仲良くさせていただいてる山本吉貴さんっていう先輩が、「正直、好井ってどうですかね?」ってジュニアさんに聞いたんです。そしたら、すごいあたたかいことを言ってくれるんですよ。いろんな話をしてくださって、「好井はずっと食えるから」って。
ジュニアさんに「ずっと食える」って言われたら、大振りできるじゃないですか。ジュニアさんの真意は分からないですけど、ヒット狙いじゃなくて、ホームラン狙いでいいねんでっていうことを伝えてくれたんかなと思うし、単純に安心させてくれる優しさもあるし、テレビのまんまの人。すっごいデカい人ですね。基本的に『N93』はゲストが呼べないらしいんですけど(※)、『今なに』にジュニアさん呼ばせてもらいたかったなあ。
※N93の会議でスタッフが「ゲスト券」を引き当てた場合のみゲスト招待が可能。
――好井さんが自分の番組にジュニアさんをゲストで迎える……感慨深いです。
松本(人志)さんと一緒に仕事するとか、これまでに何個か夢を叶えられてるんですけど、自分の番組を持つっていうのも1個の夢で、この番組はまだ終わる可能性も含んでるから、いま三角印で合格してるんですよ。もし満期まで番組を続けることができたら、また夢が叶うんで、なんとか番組を続けられるように動いていきたいです。
――最後に、好井さんの理想とするパーソナリティ像を教えてください。
15、6歳のときにラジオ面白いなって聴き出したんですよ。確か最初はナイナイさんのラジオやったと思うんですけど、寝落ちしたらアカンぞってワクワクしながら、ちょっとでもキレイな音で聴きたいから、アンテナを動かして。『今なに』も、そういう自分が好きやった番組にしたいんですよね。
あの頃の自分が聴いたときに、「このおっさんおもろ!」「今回はめっちゃ感動するやん」って満足できて、ファニーだけじゃなくて、インタレスティングな面白さもある番組にしたいんで、どんなことをしてでも終わりたくないんです! ……やっぱり、ずっと一緒のこと言ってるやつやん。これ、全語尾に「!」付いてるような記事になりません(笑)?
――そのくらいの勢いも感じましたし、貴重なお話をたくさん聞かせていただけました。ありがとうございました!
■プロフィール
好井まさお
1984年4月27日生まれ。大阪府枚方市出身。NSC東京校を卒業後、2007年に井下昌城(現 井下 大活躍)とお笑いコンビ「井下好井」を結成。2009年、『M-1グランプリ』準決勝に進出。2017年、フジテレビ系バラエティ番組『人志松本のすべらない話』でMVSを獲得した。俳優としても活躍しており、主な出演作にドラマ『火花』(16・Netflix)、『小さな巨人』(17・TBS系)、映画『ザ・ファブル』(19)などがある。2022年12月31日をもって、井下好井を解散。現在はピン芸人として、3つのYouTubeチャンネル『好井&カナメクト』『好井まさおのトークを浴びる会』『好井まさおの怪談を浴びる会』を運営するほか、TBS Podcast『N93 好井まさおの「今、何してる?」』でパーソナリティーを担当している。