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近未来感満載の「空中タッチディスプレイ」 そのメカニズムを解説

2023年06月28日08時31分 / 提供:マイナビニュース

●コロナ禍で顕在化した“非接触”へのニーズに応える技術
何もないところに映像が浮き上がり、映像を指で自由に操作する。
そんなSFのような世界が、もう目の前に迫っているという。

Apple Vision ProやGoogleの折りたたみスマホなど、新たなディスプレイ技術に関するニュースは日々更新され、話題が尽きることはない。今回焦点を当てる「空中タッチディスプレイ」は、公共の場にあるディスプレイの進化系として期待されている。

近未来的な雰囲気を漂わせる空中タッチディスプレイには、大きく分けて3つの“なぜ?”がある。

何もないところにモノが見えるのはなぜ?
映像が空間に浮かんで見えるのはなぜ?
触っていないのにタッチ操作できるのはなぜ?

今回の記事では、空中ディスプレイの3つの疑問について解説する。
空中ディスプレイの誕生

映像を空中に浮かんでいるかのように表示させる空中映像ディスプレイは、その理論研究が2000年以前から行われていた。実用化に成功したのは2011年で、日本の会社が最初に成功したそうだ。

2020年代には多くの展示会で空中ディスプレイが展示され、来場者の注目を集めた。新型コロナウイルスが流行した時期でもあったため、感染症のリスク低減にも繋がる新技術として、非接触のタッチディスプレイに期待が寄せられたのだ。

空中タッチディスプレイの将来的な利用イメージとして、試しに“空中に浮かぶ”デジタル地球儀を想像してみてほしい。空中に表示された立体的な地球儀はタッチすることができて、スワイプで回転させることもできる。いかにも近未来的な光景だろう。

この技術を中学生向けの理科の教材に応用すれば、自転や公転、月の満ち欠けについても、直感的に理解できるようになるかもしれない。また、地球儀上の気になった場所に触れることで、その地域についての情報を表示することもできるだろう。言葉や歴史はもちろん、実際の映像を表示させれば現地の植生や地形も手に取るように分かり、各地の地形についても、実際の様子を見れば理解しやすい。そこまで機能が充実すれば、理科に限らず社会の授業にも応用できる。

むろん教材に限らず、エンターテインメントやビジネスなどに広く使えると噂の空中タッチディスプレイ。その不思議な技術の中身に迫っていこう。
何もないところにモノが見えるのはなぜ?

空中に映像を表示させるためには、特別なディスプレイは必要なく、専用のプレートを従来のディスプレイの上に乗せるだけで、表示している画像を空中に映し出すことが可能になる、と聞く。ではその表示メカニズムとは、どういったものなのか。

いきなり少し脱線するが、まずは人間が目でモノを認識する仕組みを簡単に説明しよう。太陽や電球のような自ら発光している「光源」から出た光は、モノに当たると反射する。その結果、モノから光が出ているような状態になる。この“モノから出る光”を拡散光と呼ぶ。

人間は、モノが発した拡散光を眼で受け取り、網膜という場所で結像させ、電気信号へと変換して脳へ送る。脳は、送られてきた電気信号の情報をもとに、モノの形や色、明暗を判断する。これが、人間がモノを見る仕組みだ。つまり人間の目は、拡散光を受け取る作業に適応しながら進化してきたのである。

「モノがなくても、モノがある時と同じ拡散光を再現できれば、眼と脳はそこに物体が存在すると認識する」。これが、空中ディスプレイの基本となる発想だ。拡散光を操作して空中にモノがある状態を再現できれば、何もないところであっても、そこにモノがあるように見せることができるのである。

目に入る拡散光の情報をもとに人間が誤認識を起こしている例は、身近なところで体感できる。鏡の前に立ったとき、鏡よりも奥に自分がいるように見えるのもその一例だ。

自分自身の身体が反射した拡散光は、鏡で跳ね返って眼まで届く。鏡で反射してから目に到達する“自分からの光”を受け取った我々の脳は、身体が存在するのは情報がやってきた方向、つまり鏡の向こう側だと認識するのだ。

空中ディスプレイでも似たメカニズムを採用しており、何もないところにモノがあるように見せるため、大量の鏡を使って人間の目に届く情報を操作している。これが空中ディスプレイの秘密の根幹、いわゆるタネと言える。各メーカーの空中ディスプレイの仕組みを個々に説明することは難しいが、基本的にはこうした拡散光を空中に再現する仕組みで、見る人の目や脳を騙していると考えて良いだろう。

●映像が浮かびタッチできるメカニズムとは
映像が空間に浮かんで見えるのはなぜ?

さて、何もないところにモノがあるように見せる謎は解けたが、何もないところに映像を浮かび上がらせる不思議を説明するには、もう一歩深く踏み込む必要がある。

この疑問を説明するために、いったん空中ディスプレイから離れ、おそらくあなたの手元でこの記事を映し出しているであろう、一般的なディスプレイの仕組みを解説しよう。

ディスプレイに表示された画像は、顕微鏡などで拡大していくと「ピクセル」と呼ばれる小さな点が無数に並んでいるのがわかる。例えばリンゴの画像であれば、リンゴにあたる位置のピクセルが赤く、それ以外のピクセルは白く発色するように、表示する画像に合わせて1つ1つのピクセルが光を発することで、全体で1つの画像として見える。

つまり、画面が発する色付きの光を狙い通りに集めて結像できれば、映像を空中に浮かべられることになる。スマホの画面から飛び出した多数の光も、複数の鏡などを使って空中にもう一度正しく並べることができれば、まったく同じものを浮かび上がらせることができるのである。

これらのメカニズムを利用した空中ディスプレイでは、特殊なプレートを用いて元のディスプレイの光を屈折させ、空中で再び結像させることで、空中にディスプレイがある場合と同じ光を目に届け、そこにあたかも映像があるかのように感じさせているのだ。

ちなみに、光を変化させて空中に集める特殊なプレートの中身には、特殊な構造のマイクロミラー素子が用いられる。プレートの中に大量の小さな鏡があると想像すると良いだろう。マイクロミラー素子と聞くと、一見複雑な仕組みのように感じるかもしれない。だが光の通る道をたどると、モニターのピクセルから出た拡散光線が特殊なプレート内の2つの鏡で反射して目に届くだけの、至ってシンプルな仕組みだ。

具体的な手法としては、特殊なプレート内に小さな鏡が大量にあることで、モニターから発する光線の1本1本が、入射角と透過反射角が等しくなるように反射される。これによって、プレートを通過したモニター画像からの拡散光は、反対側の空中で結像し、あたかもそこにモニター画像があるように錯覚させることができるのだ。

このようなメカニズムを用いて、拡散光に適応して進化した目や脳と、鏡の性質を組み合わせることで、空中に浮かぶディスプレイが完成するのである。
触っていないのに指で操作できるのはなぜ?

空中ディスプレイの応用先と期待されている製品の1つが、非接触操作パネルだ。不特定多数の人間が使うパネルを空中表示にすることで、パネルを介してウイルスなどが人から人へと広がっていくのを防ぐことができる。

衛生的な利点以外に、タッチパネルが空中に浮かぶようになれば、直感的で自由度の高い操作ができることもメリットだ。前半で述べた教材としての利用に加え、イベントにおいて記憶に残る顧客体験の提供をしたい場合にも、従来のディスプレイと比べてより高い効果を生み出せる。また、手が汚れる作業をしている際や、手袋をしたまま操作したい場合にも便利だろう。

では最後に、実際にはどこにも触れていないのにディスプレイを指で操作できるのはなぜなのか、解説しよう。

従来のタッチパネルのメカニズムとして、静電容量方式や抵抗膜方式など複数のタッチ検出方式があるように、空中タッチディスプレイにもいくつかの検出方式がある。ちなみに検出方式とは、タッチしたときに、どの位置をどのような強さで触れたかをディスプレイ側で感知するための方法のことだ。

物理的な接触をしない空中タッチディスプレイでは、触られたかどうかを判断するために、特別な技術が必要とされる。

空中タッチディスプレイで多く採用されている方式は、光学方式だ。この方式では、赤外線センサを設置し、指によって赤外線が遮られたときに、その位置が「触られた」ことを検出する。この方法であれば、直接指でパネルを操作するのが難しい医療現場や工場内でも操作しやすく、空中ディスプレイのメリットを存分に発揮できるだろう。
実用化に向けて解決すべき課題の数々

今回は、空中タッチディスプレイに関する3つの「なぜ?」について、メカニズムの一例を用いて解説した。この新たなディスプレイは、目と脳の仕組みや鏡の性質を利用し、何もない空間に映像を映し出している。マイクロミラー素子を敷き詰めた専用のプレートを使えば、一般的なディスプレイも簡単に空間に映し出せる。

ところが、空中ディスプレイを実用化するまでには、まだいくつも解決しなくてはならない課題が残っている。
○空間タッチディスプレイが克服すべき課題

複数の人間が同時に操作しても、きちんと認識できるようにするには?
明るいところでも見やすい映像にするには?
駅などの振動が起きる場所でも安定して映像を表示するには?
携帯性やコストは?

限られた場所では実用化できても、公共の場で使われているディスプレイがすべて空中ディスプレイに置き換わるまでには、まだまだ時間がかかるかもしれない。

だが、使いやすさや自由さ、そして何より“ワクワク感”という魅力を持った空中ディスプレイが、身近なところで使われ始めるのが今から待ち遠しい。国内を見渡すと、すでに導入されている駅や空港、コンビニがあるという。もし興味があれば、実際に“触れずに触れて”みてはいかがだろうか。

岸小春 きしこはる 大阪大学大学院基礎工学研究科を修了。専門は表面化学、有機デバイスの基礎研究。印刷技術を活用し、さまざまなエレクトロニクス分野を手掛ける企業にて、最先端のセンサ開発にチームの一員として従事した後、退職。現在はフリーライターとして活動している。ブラックボックスになりやすい科学技術の中身を、誰にでも分かりやすく伝えることが目標。 この著者の記事一覧はこちら

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