2023年06月07日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●2~3時間特番連発の状況から変化
その変化に気づいている人がどれくらいいるだろうか。今春からゴールデン・プライムタイム(19~23時)のバラエティを「通常通り1時間ずつ放送する」というケースが増えている。
もともと大半のバラエティが1時間番組であり、2時間番組は『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)くらい。しかし、実際のところ1時間ではなく、2~3時間の特番に拡大して隔週などの頻度で放送されるケースが定番となっていた。
なぜ今、「バラエティを通常通り1時間で放送する」という動きが見られ始めているのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○■フジテレビとTBSが通常編成を加速
今春、「バラエティを1時間で通常編成する」という動きが最も見られるのがフジテレビ。新番組の『私のバカせまい史』(木曜21時台)、『まつもtoなかい』(日曜21時台)、さらに日曜21時台から月曜20時台に移動した『呼び出し先生タナカ』も、きっちり1時間で放送されている。
その他でも、これまで2~3時間の特番編成が多かった金曜の『坂上どうぶつ王国』『爆買い☆スター恩返し』『ウワサのお客さま』『人志松本の酒のツマミになる話』、土曜の『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』『新しいカギ』が1時間ずつの通常編成に変わった。
他局では、TBSが火曜19時台の新番組『再現できたら100万円! THE神業チャレンジ』を1時間で放送し、『バナナサンド』『マツコの知らない世界』も通常編成。さらに、今春に日曜昼から金曜20時台に進出した『それSnow Manにやらせて下さい』も1時間で放送され、前後の『オオカミ少年』と『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』も通常編成がベースとなっている。
これまで新番組やゴールデンタイム昇格番組は、インパクトや認知度アップなどの理由から、「スタートしてしばらくは特番編成を続ける」のがベースとなっていた。それだけにフジテレビとTBSの通常編成は両局の変化を感じさせられる。
また、日本テレビはこれまでも通常編成がベースの曜日が多く、特番編成は他局より少なかった。特に、月曜の『有吉ゼミ』『世界まる見えテレビ特捜部』『しゃべくり007』『月曜から夜ふかし』、火曜の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』『踊る!さんま御殿!!』『ザ!世界仰天ニュース』『カズレーザーと学ぶ。』、土曜の『嗚呼!!みんなの動物園』『世界一受けたい授業』『1億3000万人のSHOWチャンネル』、日曜の『ザ!鉄腕!DASH!!』『世界の果てまでイッテQ!』『行列のできる相談所』は、基本的に1時間の通常編成で放送されている。
では、1時間の通常編成で放送することのメリットは何なのか。
これは人々に「毎週○曜日の○時はこの番組」という視聴習慣をつけられることにほかならない。かつてはテレビ視聴者の多くにこのような視聴習慣があり、ゴールデンタイムの番組表を把握している人が多かった。
●放送が長い特番編成は配信でも不利
しかし、00年代に入ってからジワジワと特番編成が増えていき、通常編成が減り始める。さらに10年代に入ると、視聴率争いでトップの日本テレビを追うテレビ朝日が連日の特番編成で一定の結果を出したことから他局が追随。「毎日特番だらけで1時間番組のほうが少ない」「いつ何が放送されているのか分からない」という状態に陥ってしまった。
本来、特番は「特別」「豪華」なもので、増えてもそのイメージをキープできていればよかったのだが、残念ながら視聴者の印象は「1時間のときと内容がほぼ同じで、2~3時間に延ばして放送しているだけ」「2つの番組を名前だけ合体させて特番のように見せかけている」。「特番の乱発」という編成戦略自体が通用しなくなっていた。
また、放送の視聴率だけでなく、配信再生数も視野に入れなければいけない今、2~3時間の特番編成は、その長さが不利になりやすい。数秒から数分の動画コンテンツに慣れた人が多い現在、配信視聴させるなら「長くても1時間まで」が現実的なところだろう。実際、配信再生数ランキングの上位を独占しているドラマは基本的に1時間か30分間のどちらかで放送されている。
現在ゴールデンタイム(19~22時)で放送されている番組は、フジテレビの月曜21時台、テレビ朝日の火曜21時台、テレビ東京の金曜20時台、TBSの日曜21時台にドラマ枠が4つある以外はすべてバラエティ。つまり、どの局もほとんどの曜日でバラエティを3時間まるごと放送しているのだが、「本気で毎週コンスタントに自局の番組を3時間見てもらいたいのなら、特番編成より通常編成のほうが見やすいだろう」と考えるのが自然ではないか。
「バラエティが最も元気だった」と言われる80年・90年代は通常編成で放送され、番組終了時には視聴者に「もう終わっちゃった」「もっと見たい」「来週が待ち切れない」などと思わせることができていた。「好きなときに好きな場所で好きなデバイスで見る」という配信視聴が一般化した現在でも、毎週コンスタントに1時間の通常放送を続けることで、初めて同じように思わせられるのかもしれない。
○■短尺化はアリだが長尺化はナシ
そもそも特番編成がエスカレートしたのは、急激に下がり始めた視聴率対策や予算の削減など内向きの背景があった。言わば、「目先の視聴率を確保するために自分たちで乱してしまったかつての番組表を少しずつ戻そうとしている」だけなのだろう。
もしフジテレビ、TBS、日本テレビを中心に民放キー局がかつての番組表に回帰しているのなら、もっともっと戻したほうがいいのではないか。例えば、かつて18・19時台には30分間・15分間のバラエティ、ドラマ、アニメを放送する若年層向けの枠が多数あった。
若年層にはテレビ番組を倍速視聴する人が少なくないことからも、「特番より1時間、1時間より30分間・15分間のほうが見やすいかもしれない」という仮説が成立する。予算や人員などの点で簡単ではないだろうが、こんな幅の広い編成もテレビが愛されていた理由のひとつだ。つまり、「テレビは短尺化するのはアリだが、長尺化はナシ」なのかもしれない。
ともあれ、通常編成にこれといったデメリットは見当たらないだけに、まずは乱れてしまった番組表を戻すこと。配信視聴の人にとっても開始と終了の時刻に関わることだけに、「毎週○曜日の○時はこの番組」というイメージづけができるのではないか。ひいてはそれを「毎週この番組を楽しみにしている」という期待感につなげていきたいところだ。
「テレビはユーザビリティでネットに劣る」と言われがちなだけに、内容の面白さで上回るのはもちろんのこと、視聴者にとって最低限の見やすさは整えるべきだろう。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら