2023年05月24日10時30分 / 提供:マイナビニュース
こんにちは。宇宙イチ分かりやすい法律解説を目指している弁護士・林 孝匡です。今回は「オワハラ」対策です。人手不足の昨今、会社は目バッキバキで人材を確保しにかかっています。そこで問題になっているのが、『就活終われハラスメント=オワハラ』です。
この記事では、次のような"オワハラ"トラブルの対処法を解説していきます。
・他社への就職活動をやめるよう強要された
・内定承諾書にサインしたけど辞退をしたい
・内定辞退したら"損害賠償請求するぞ"と言われた
・他社の選考を受けたら"内定を取り消す"と言われた
・内定後の研修を強要された
・内定を辞退したら「研修費用」を請求された…
・内定辞退したら違約金がかかるという。払うべき?
早速、順番にみていきましょう
■他社への就職活動をやめるよう強要されたら?
Q. 会社から「内々定または内定を出す代わりに他社への就職活動をやめなさい」と強要されました。従わないとダメなんでしょうか?
A. 無視でOKです。内々定や内定をもらってもまだまだ自由に就職活動できます。なぜなら、あなたには職業選択の自由があるからです(憲法22条)。
■内定承諾書にサインしたけど辞退はできる?
Q. 内々定の段階で「内定承諾書にサインしろ」って言われてサインしてしまったのですが、辞退しても大丈夫でしょうか?
A. 結論から言えばサインしても内定を断れます。なぜなら次のように民法に書いてあるからです。
民法 627条
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する
あなたがたとえ内定承諾書にサインしてしまったとしても、自由に内定辞退ができるのです。
■内定辞退をしたら損害賠償請求された!
Q.内定辞退したら損害賠償請求するぞと、言われているんですが……。
A. 安心してください。99%認められません。
ある裁判で、内定者が入社前日の3月31日に内定を辞退しました。そのことに会社がブチギレて内定者に損害賠償請求をしたのですが、裁判所はこの賠償請求を認めませんでした(アイガー事件:東京地裁 H24.12.28)。これはギリギリの内定辞退でも損害賠償が請求されなかった一例です。
ただし、コレは辞退が遅くなった事情がいろいろとあったケースなので必ずしも一般的とは言えません。辞退によって損害賠償請求されることはめったにありませんが、裁判所も『チョー不義理すぎる辞退はダメ』という傾向の判断を示しています(むずかしい言葉で言えば著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合)。とにかく、お互いのために辞退が決まったなら早めに連絡をするようにしましょう。
■他社の選考を受けたら内定を取り消し!?
Q.「他社の選考を受けたら内定を取り消す!」と言われてしまいました。
A. "他社の選考を受けた"というフザケタ理由で内定は取り消せません。最高裁が「会社からの内定取消しってゴッツむずいよ」って言っていますから(大日本印刷:最高裁 S54.7.20)。あなたが内定を辞退するのはカンタンなんですが、会社から内定を取り消すのはとても難しいのです。
ちなみにこの最高裁の事件を簡単に説明すると……入社2カ月前に会社側が「キミ、なんか暗いから(グルーミーだから)内定を取り消します」とブッ込みました。なんだそれって感じですよね。最高裁は「いやいや、グルーミーなことは最初から分かってたじゃん。この内定取消しは違法」と判断しました。
Q. では、会社からの"内定取消しがOK"になるのは、どんなケースですか?
A. 内定後に「キミ、履歴書でウソつきまくってたがな!」というような経歴詐称などの場合ですね。少し難しい表現ですが最高裁はこう言っています。
「内定当時、知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的に認められ社会通念上相当して是認することができる場合」
ちょっと何を言っているか分からないですよね。要は「内定を出したときには知らなかったんだけど、入社してから発覚して『こりゃ内定取り消されても仕方ないよね』」って時だけ内定取り消しがOKになります。まぁ、とにかく「他社の選考を受けたから内定取り消しだ!」は認められないのでご安心を。
■内定後の研修に出席しなきゃだめなの?
Q. 内定後、長時間(長期間)の研修があって他社の選考を受けられないです。会社からは「欠席した場合は内定を取り消す」と言われてしまっているんですが……。
A. 研修に行く義務はないと考えられています(宣伝会議事件:東京地裁 H17.1.28)。裁判所は研修について「あくまで会社からの要請に対する内定者の任意の同意に基づいて実施されるもの(自由参加ということ)」「会社が内定者に対して本来は入社後に業務として行われるべき入社日前の研修等を業務命令として命ずる根拠はない」と判断しています。
なので、研修の欠席を理由に内定を取り消すことはできません。裁判所も「研修に同意しなかった者に対して不利益な取り扱いをすることは許されない」と言っています。
※「宣伝会議事件」は、学業が忙しくて研修に参加ができなかった内定者が、内定を取り消しに。それに対し、裁判所が会社に約80万円の損害賠償を命じたという事件です。
Q.ちなみに、内定前の内々定の段階で「研修参加」を強要されました。
A. ずうずうしい! もちろん参加する義務はありません。内定前すなわち"付き合ってもない段階で"彼氏ヅラしてくるヤツと一緒です。研修参加を断っても大丈夫ですよ。
■内定辞退で研修費用を返金!?
Q. 内定や内々定後に研修があったのですが、内定を辞退したら「研修費用を返せ」と言われました。返さないとダメなのでしょうか?
A. 返さなくていい可能性が極めて高いですね。労働基準法16条違反の可能性が高いからです。
「労働基準法 16条」とは
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない
労働基準法第16条では、契約不履行による違約金や損害に対する賠償金の規定を労使間で定めてはいけないとしています。つまり、経営者や会社側が労働者に対して「違約金」や「賠償金」の支払いを予め約束させることはできないのです。例として、「退職時には違約金として100万円を支払うこと」「会社に損害を与えた場合、損害額に関係なく100万円の賠償金を支払うこと」といった契約も違法です。
今回の場合は、「研修=業務命令」となり「労働基準法16条」に違反したとして、内定者側が勝つ可能性が高いと言えるでしょう。
○●豆知識
入社した後も『研修費用返せトラブル』は結構あります。知識武装しておいてください。次の通り、勝った場合、負けた場合どちらもあります。
【○ 従業員の勝ち】
・富士重工業事件:東京地裁 H10.3.17
・新日本証券事件:東京地裁 H10.9.25
・和幸会事件:大阪地裁 H14.11.1
・徳島健康生活協同組合事件:高松高裁 H15.3.14
【× 従業員の負け】
・長谷工コーポレーション事件:東京地裁 H9.5.26
・野村證券事件:東京地裁 H14.4.26
・東亜交通事件:大阪高裁 H22.4.22
ここであげた事件において勝負を分けたのは、「費用を出すべきなのは会社なのか、従業員なのか」という点においてです。
例えば、業務命令なのであれば従業員が勝つ可能性が高いと言えるでしょう。逆に「それって"自主的な"技能習得だよね」と認定されれば負けるおそれありです。己のスキルアップなんだから、それは自分で払わなきゃという価値判断ですね。気になる方は事件名で調べてみてください。
■内定辞退したら違約金がかかる?
Q. 「内定を辞退したら違約金を支払う」という書面にサインしてしまったのですが、辞退後お金を払う必要があるのでしょうか?
A. もし辞退したとしても払わなくてOKです。前述した労働基準法16条(契約の不履行による違約金や損害に対する賠償金の規定を労使間で定めてはならないとする)違反にあたりますので、そのような書面は無効です。今すぐトイレに流してOKです。
■さいごに
「オワハラ」にあっている方がいれば労働局に申し入れてみましょう(相談無料・解決依頼も無料)。ただし、労働局からの呼び出しを会社が無視することもあるので、そんな時は社外の労働組合か弁護士に相談を。
今回は以上です。ではまた次の記事でお会いしましょう!
林 孝匡 はやし たかまさ 「ムズイ法律をオモシロく」がモットー。情報発信が専門の弁護士として、働く方に知恵をお届け中。 この著者の記事一覧はこちら