2023年05月17日11時00分 / 提供:マイナビニュース
●入社1カ月足らずで社長が期待を言及
元櫻坂46メンバーで今春フジテレビに入社した原田葵アナウンサーが、同局の公式ホームページ、インスタグラム、YouTubeに登場し、ネットメディアが記事化するなど、さっそく話題を集めている。
研修中の身であるにもかかわらず、4月28日の定例会見で港浩一社長が「とても声が通って、大変期待している」などと名指しで言及。今年の同局女性アナウンサー唯一の採用であることも含め、期待の大きさがうかがえる。
坂道グループとしては、元乃木坂46の日本テレビ・市來玲奈アナ、テレビ朝日・斎藤ちはるアナに次ぐ3人目の在京キー局アナウンサー。市來アナは2018年入社の27歳、斎藤アナは2019年入社の26歳であり、ここ数年で超難関のキー局アナウンサーに、いかに坂道グループのアイドルが選ばれているかが分かるだろう。
なぜ坂道グループのメンバーは、他の女性アイドルやタレントを差し置いて選ばれているのか。さまざまな現場で見聞きしてきたことをベースに、テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
○■個人が消費されない活動と運営
まず、坂道グループのアイドルを採用することのメリットをあげていこう。
研修に入ったばかりの段階からこれだけ報じられているように、やはり注目度は抜群。各局で制作費削減される中、出演料を抑えられるアナウンサーの存在価値は高まっている。つまり、タレントの知名度を持つ人を自局アナウンサーとして起用できればそれだけ制作費を抑えられることになり、アイドルシーンのトップを走る坂道グループの起用メリットは大きい。
さらに、坂道グループならではのメリットは、パブリックイメージの良さ。彼女たちのアイドルらしい明るさや愛きょうはアナウンサーに欠かせないものだが、それは他のアイドルグループにもあり、さほどアドバンテージにはならない。
しかし、仲が良くチームワークを大切にする姿や、「全員センター」「お笑い担当を作らない」などの個人を尊重した活動スタンスの好イメージはズバ抜けている。AKB48グループのような「選抜選挙=競争」のイメージとは真逆であり、日頃の活動で“個人が消費されていないこと”は、民放のアナウンサーになる上で武器と言っていいだろう。
また、それが東日本大震災以降の国民感情にフィットしたこと。「単推しより箱推し」のファンが多く、実際にグループ写真集がヒットしたことなども含め、アイドルのアナウンサー起用によるアレルギー反応がこれだけ少ないのは、坂道グループだけではないか。
これらのメリットは、まだ一般的な知名度が高いとは言えない乃木坂46の一ノ瀬美空、日向坂46の松田好花、櫻坂46の松田里奈が、朝の情報番組『THE TIME,』(TBS系)の曜日レギュラーを務めていることなど、事実が証明している。
○■「カメラテスト」の評判がいい
次にスキルという点で、AKB48グループのように専用劇場を持たない坂道グループは、「冠番組を中心にした活動で“カメラに映ること”や“カメラの前でしゃべること”が磨かれていく」という成長の過程が以前から評価されていた。
単にバラエティの対応力なら他の女性タレントもいるが、坂道グループのメンバーは「グループとしての好イメージを守ったまま、タイミングを見計らって自分の個性を出す」ことに慣れている。その出演スタンスは「局のイメージを下げないように振る舞いつつ、タイミングを見計らって自分の個性を出す」ことを求められる女性アナウンサーと似ているのだ。
そしてもう1つ、業界でウワサされているのが、「カメラテストの評判がいい」こと。カメラテストでは、初見の原稿を読む、食リポをする、絵解き(映像に即興で実況)などが求められるが、話し方、表情、内容のセンスなどに坂道グループの活動での経験が生きるのかもしれない。
また、報道で求められる“真顔”の美しさと品の良さも彼女たちの強みだろう。ファッション誌で専属モデルを務めるメンバーも多い彼女たちは、業界の人々に「他のグループと比べて美への意識が高い」と見られている。さらに、「品の悪いコメントは言わないだろう」という信頼感のようなものもあるようだ。
かつては日本テレビの岩本乃蒼や元フジテレビの久慈暁子など、モデル出身の女性アナウンサーが目立つ時期もあった。坂道グループのメンバーは、彼女たちに負けないカメラ映りの良さがあり、加えて映像コンテンツの対応力があるという評価なのだろう。
●AKBでも難しいキー局のアナウンサー採用
民放各局の現状を見ると、「若手アナウンサーの育成が急務になっている」という背景も見逃せない。
前述した制作費削減の問題に加えて、働き方改革の影響でこれまで以上に人気アナウンサーの数を増やしていかなければならない状況になった。例えば平日の帯番組では、「1人が5日間を担当する」のではなく、「メインのアナウンサーが3~4日、サブのアナウンサーが1~2日」などと分散させる傾向が強くなっている。
さらに、このところ各局に「エース」と言われる若手アナウンサーが誕生していないことも大きい。実際、年末恒例の「好きなアナウンサーランキング」(オリコン調べ)でトップ10に入った20代は、4位の日テレ・岩田絵里奈アナと8位のTBS・田村真子アナだけ。人数や出演数を踏まえると明らかにバランスの悪い状況が続いている上に、近年は入社数年で退職するアナウンサーもいるなど、エースを育てることの難しさが増している。
その点、「超即戦力」となりうるのが、すでにテレビ業界を経験しているタレントたち。知名度に加えて、カメラ慣れやカメラ映りの良さ、撮影現場の理解などが期待できるタレントへの期待値は高い。しかし、その一方でタレントのアナウンサー採用は否定的な声もあがりやすい“ハイリスク、ハイリターン”の戦略であり、なかでも“アンチ”を集めやすいアイドルの採用は人選が重要となる。
採用側が慎重に見極めようとしているのは、AKB48グループのアイドルを見ても一目瞭然。先日、選抜総選挙で“神7”入りしたこともある元AKB48・武藤十夢が「新卒でアナウンサー試験に受けて在京キー局はすべて落ちた」ことを明かし、いくらかの驚きを持って報じられた。その他のAKB48グループメンバーも、「地方局のアナウンサーにはなれた人はいるが、在京キー局は落ちてしまう」というケースが続いていたことから、その難しさが分かるだろう。
一方、坂道グループのメンバーは、まず2018年に日テレの市來アナが入社半年後に看板バラエティ『行列のできる法律相談所』(現『行列のできる相談所』)の秘書(アシスタント)と『news zero』の週3日レギュラーに抜てきされ、翌2019年にはテレ朝の斎藤アナが入社式前に『羽鳥慎一モーニングショー』でデビューを飾り、そのままアシスタントとなった。そんな彼女たちの成功も原田アナの採用につながったのではないか。
○■「アナウンサー」はセカンドキャリアの1つ
坂道グループに限らずグループアイドルたちにとっては、「アイドルとして思い描いたような成功ができなければ、セカンドキャリアを考え始める」のが当然のようになってひさしい。それどころか、「アナウンサーの道を視野に入れてアイドルになった」という人もいるという。
これはグループアイドルの活動続行と進路が難しくなっていることの証しであり、実際に「アイドルは芸能界で最もつぶしが利かない」という声をよく耳にする。女優、アーティスト、バラエティタレント、グラビアアイドルなど、いずれも競争が激しく、スキルとメンタルの強さが求められる世界。それが分かっているからこそ、早めにグループを卒業して資格取得や就職活動に励んだり、インフルエンサーや実業家に転身したりする人も目立つ。
その中でアナウンサーという進路は、グループアイドルのメンバーが芸能界に留まるひとつの方法なのだが、その難易度は極めて高い。さらに、もし努力が実って在京キー局のアナウンサーになれても、「元アイドル」のアナウンサーを見る視聴者の目は厳しく、アナウンス力や人間性をチェックされてしまう。
「努力家」と言われる原田アナが、この高いハードルを乗り越えることができるのか。やはり注目度の高い入社1年目になるだろう。
木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら