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九大など、「CRISPR-Cas9」の安全課題を解決するゲノム編集技術を開発

2023年04月13日06時50分 / 提供:マイナビニュース


九州大学(九大)と名古屋大学(名大)の両者は4月11日、ゲノム編集技術「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)」の安全性の課題を解決した、ゲノム切断活性を自在に微調整できる新技術を開発し、過剰な活性の抑制により安全性と正確な編集の効率を数百倍オーダーで高める、次世代型のゲノム編集プラットフォームの開発に成功したことを共同で発表した。

同成果は、九大 生体防御医学研究所の川又理樹助教、同・木村亮太大学院生(研究当時)、同・鈴木淳史教授、名大大学院 医学系研究科の鈴木洋教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の医用生体工学を扱う学術誌「Nature Biomedical Engineering」に掲載された。

CRISPR-Cas9は、あらゆる細胞の標的ゲノムを自在に編集することができる革新的な技術として、基礎研究分野の飛躍に貢献し、すでに食品や医療分野では産業応用化が進められている。

しかし、ゲノム切断の効率を単純に重視した従来型の編集法では、過剰なゲノム切断によって、目的以外のゲノム部位に対するオフターゲット変異をはじめ、検出が困難な染色体レベルでの巨大変異や、意図したゲノム編集を導入したアレルとは異なるもう1つのアレルに誘導されるオンターゲットのindel変異、DNA切断後のp53シグナル依存的細胞死などの深刻な編集リスクも存在しており、現在、そうしたリスクを許容する形で利用されている。そのため、海外での遺伝子治療への応用では、患者が亡くなるといった事例がすでに発生している。

つまり、現在のCRISPRツールとその使用方法は、非常に活性が高いために気軽に使いやすい一方で、細胞内でのゲノム編集には最適化されていないという。そこで研究チームは今回、ゲノム切断活性を自在に微調整できる新技術を開発し、過剰な活性の抑制により安全性と正確な編集の効率を数百倍高めうる次世代型のゲノム編集プラットフォームの開発を進めたとする。

最適なゲノム編集法を開発するためには、上述した問題がなぜ発生するのかという原因を究明することが必要だ。研究チームは以前、DNAとの親和性の弱いgRNA(ガイドRNA)を誤って設計した際に、精密編集細胞を効率よく取得できた経験をもとに、現在普及している編集法プロトコルでは、実はCas9のDNA切断活性が過剰であり、これが上述したさまざまな問題のトリガーになっているとの仮説を立てたという。


次にその仮説を検証するため、Cas9活性を自在に調節できる新技術を開発し、活性の抑制が安全性や編集効率にどのような影響を与えるかの全容解明を行ったとする。さらに同解析を通して、最適な活性のもとで、目的とするさまざまな用途のゲノム編集の効率と安全性を最大化できる、次世代型のゲノム編集標準化プロトコルの確立が試みられた。

そして、ゲノム編集の結果を1つ1つの細胞で、細胞が生きた状態のまま簡単に判定できるシステム「AIMS」を構築し、DNA切断を行うCas9酵素の活性を簡便かつ精密に制御できる「セイフガードgRNA」を開発したという。セイフガードgRNAでは、RNAの5'末端へさまざまな長さを持つ核酸塩基の1つであるシトシンを付加することにより、同塩基の長さ依存的にCas9活性を段階的に抑制できることが見出されたとする。

また、AIMSを用いた大規模実験データと数理モデルを組み合わせることで、1塩基置換の精密編集などのさまざまなゲノム編集の用途について、それぞれの用途にどの程度のCas9活性が最適であるか、その全容と法則性を解き明かすことにも初めて成功したという。これにより、多様なゲノム編集実験のそれぞれの目的に対応した最適なCas9活性をシミュレーションできるようになり、最適なセイフガードgRNAを用いることで、最も安全で効率的なゲノム編集を実施することが可能になるとしている。

また同研究の重要なもう1つのポイントとして、セイフガードgRNAがCas9のみならず、Cas12a(Cpf1)やCRISPRa/i(activation/interference)といったゲノム・エピゲノム編集の調節にも適応できることが明らかにされたとする。各種ゲノム編集ツールが抱える問題を解決し、利便性も向上させたことから、セイフガードgRNAはさまざまな編集ツールへの適用により幅広い分野への産業応用が期待できるとする。

海外で始まったゲノム編集技術を用いた臨床試験では、安全性の問題も報告されている。研究チームでは現在、医療分野を中心に今回開発された技術を広く使用してもらうため、米国でスタートアップを開始し、安全な遺伝子治療の実現を目指して、さらなる研究開発を進めているとしている。

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