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NASA、月飛行計画「アルテミスII」の宇宙飛行士を発表 - いったいどんな人?

2023年04月10日19時14分 / 提供:マイナビニュース

●初の女性、黒人、外国人……選ばれた4人の宇宙飛行士が示す“多様性”
米国航空宇宙局(NASA)は2023年4月4日、有人月探査ミッション「アルテミスII」で月へ飛行する4人の宇宙飛行士を発表した。

選ばれたのは、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ビクター・グローバー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士と、カナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士で、コック氏は女性として、グローヴァー氏は黒人として、そしてハンセン氏は米国人以外として初めて月へ飛行する。

4人は早ければ2024年11月にも、「オライオン(オリオン)」宇宙船に乗って月をフライバイ飛行し、将来の有人月探査に向けた試験や実証を行う。アポロ計画以来、約50年ぶりの有人月飛行の実現がいよいよ近づいてきた。

アルテミスIIに搭乗する宇宙飛行士

アルテミス(Artemis)は、NASAを中心に欧州や日本、カナダなどが共同で進めている国際的な有人月探査計画で、実現すればアポロ計画以来、約半世紀ぶりに月に人類が降り立つことになる。

その実現のため、NASAは巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」と、有人宇宙船「オリオン」を開発しており、2022年11月には無人飛行試験ミッション「アルテミスI」を実施した。同ミッションでは、SLSの打ち上げから、無人のオリオンによる月への飛行、月のまわりでの運用、そして地球への帰還といった一連の流れを試験し、大きなトラブルなく無事に完了した。

これに続くミッションが「アルテミスII」である。アルテミスIIでは、オリオンに初めて宇宙飛行士を乗せ、SLSで打ち上げ、地球と月との間を往復飛行する。打ち上げから帰還までは10日間の予定で、有人月探査に必要な各種試験を行う。

これが無事に成功すれば、いよいよ2025年以降、「アルテミスIII」ミッションで宇宙飛行士が月に降り立つことになる。

アルテミスIIの搭乗員として選ばれたのは、NASAのリード・ワイズマン宇宙飛行士、ビクター・グローバー宇宙飛行士、クリスティーナ・コック宇宙飛行士、そしてカナダ宇宙庁(CSA)のジェレミー・ハンセン宇宙飛行士の4人である。

この人選は、アルテミス計画の特徴のひとつである「多様性」を色濃く反映している。アポロ計画で月へ飛行した宇宙飛行士は全員、白人の米国人男性だったが、今回は女性のコック氏、黒人のグローバー氏、カナダ人のハンセン氏が搭乗員として選ばれている。

ちなみに欧州では、障がいを持つ人も宇宙飛行士候補に選ばれており、将来的にアルテミス計画で飛行が予定されている。

多様性が大きく発揮されたアルテミス計画は、まさに真の意味で“人類”が月を探査することになる。

NASAのビル・ネルソン長官は、「この4人の冒険家には、それぞれに物語があります。しかし、彼らは全員、私たちの信条である『E pluribus unum (プルリブス・ウヌム、多数からひとつへ)』を象徴しています。『アルテミス世代』と呼ばれる新しい世代の宇宙飛行士、そして夢見る人々のために、私たちは一緒に新しい探検の時代を切り開くのです」と述べている。

○リード・ワイズマン(Reid Wiseman)

1975年生まれの47歳。メリーランド州ボルチモア出身。米海軍大佐。1999年から海軍のパイロットを務め、さまざまな戦闘機に搭乗した。2009年にNASA宇宙飛行士に選ばれ、2014年に「ソユーズTMA-13M」宇宙船で初の宇宙飛行に飛び立ち、国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在した。また、2020年から2022年まで、NASAの宇宙飛行士室の室長を務めた。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではコマンダー(船長)を務める。

発表に際し、「アルテミス計画では、3つの単語がモットーとなっています。それは『We are going (私たちが行く)」です。宇宙飛行士だけでなく、皆さんと一緒に行くのです。ぜひ皆さんも声に出して『We are going』と言ってみてください」と語っている。
○ビクター・グローバー(Victor Glover)

1976年生まれの46歳。カリフォルニア州ポモナ出身。米海軍大佐。テスト・パイロットとして、40種類の飛行機で3000時間以上の飛行経験を持つ。2013年にNASA宇宙飛行士候補に選ばれ、2020年11月に打ち上げられたクルー・ドラゴン宇宙船運用1号機(Crew-1)のパイロットとして初の宇宙飛行を実施した。宇宙に半年間滞在した初の黒人米国人でもある。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではパイロットを務める。

グローバー氏は「今日の発表は、私たち4人の名前が発表されたということ以上に多くの意味があります。アルテミスIIは、ただ月へ飛行するミッションということにとどまらず、月面に宇宙飛行士を降り立たせるために行わなければならないミッションでもあり、そして人類を火星に到達させる旅の中のステップのひとつでもあるのです」とコメントしている。
○クリスティーナ・コック(Christina Koch)

1979年生まれの44歳。ミシガン州グランドラピッズ出身。電気工学と物理学の学士号と電気工学の修士号を持つ。米海洋大気庁の職員を経て、2013年にNASA宇宙飛行士候補に選ばれた。2019年にロシアの「ソユーズMS-12」宇宙船で初の宇宙飛行に飛び立ち、ISSに長期滞在した。このミッションでは328日間にわたり滞在し、女性の1回の宇宙滞在の最長記録を樹立したほか、初の女性だけの船外活動も成し遂げた。

アルテミスIIが2回目の宇宙飛行であり、同ミッションではミッション・スペシャリストを務める。

発表に際し、コック氏は「皆さんはきっと、私に『わくわくしていますか?』という質問をくださると思います。もちろんわくわくしています! ですが、私から皆さんにも、『わくわくしているでしょう?』と質問したいですね」と冗談を飛ばした。
○ジェレミー・ハンセン

1976年生まれの47歳。カナダのオンタリオ州ロンドン出身。カナダ空軍大佐。カナダ空軍で戦闘機パイロットを務めたのち、2009年にカナダ宇宙庁の宇宙飛行士候補に選ばれた。

2013年には、古川聡宇宙飛行士らとともに、欧州宇宙機関(ESA)が実施した洞窟内での訓練「ESA CAVES」に参加。2014には第19回NASA極限環境ミッション運用「NEEMO 19」に参加し、海底研究所「アクエリアス」で訓練を行った。

アルテミスIIが初の宇宙飛行ミッションとなり、同ミッションではミッション・スペシャリストを務める。また、カナダ人として、そして米国人以外として、初めて地球低軌道を越えて飛行することになる。

ハンセン氏の座席は、2020年にNASAとCSAが締結した「カナダ・米国ゲートウェイ協定」の一環として用意された。

ハンセン氏は「カナダ人が月へ行く理由は大きく2つあると思います。ひとつは米国のリーダーシップへの支持です。米国は国際協力チームで月に行くという努力を何年も続けてきました。これこそが真のリーダーシップと呼べるものです。そしてもうひとつは、カナダ人も月へ行けるんだという『やる気』です」と力強くコメントしている。

●半世紀ぶりの有人月探査に向けた最終関門「アルテミスII」ミッションとは?
アルテミスIIミッション

今回選ばれた4人は、これから厳しい訓練を受けることになる。宇宙飛行士だけの訓練にとどまらず、地上からミッションを監視するミッション・コントロール・チームとの共同での訓練も行われる。

一方、4人を打ち上げるロケットや宇宙船の準備も進んでいる。この3月には、SLSロケットのコア・ステージ(第1段機体)の組み立てが完了した。また、SLSの第2段にあたるICPS、そしてSLSの固体ロケット・ブースターはすでにケネディ宇宙センターにあり、組み立てを待っている状態にある。

オリオンのカプセル、欧州が製造するサービス・モージュルも同様に組み立てが進んでいる。

アルテミスIIの打ち上げは、現時点で2024年11月以降に予定されている。

オリオンはSLSに搭載され、フロリダ州のケネディ宇宙センターの第39B発射施設から離昇する。オリオンとSLSが一緒に打ち上げられるのは、2022年のアルテミスIに次いで2回目であり、宇宙飛行士を乗せて飛行するのは初めてとなる。

SLSからの分離後、オリオンはまず地球を回る軌道に入る。その後、スラスターを数回に分けて噴射し、軌道高度を上げ、「自由帰還軌道」という軌道に乗り移る。この自由帰還軌道は、地球と月を8の字に結ぶように飛行する軌道で、基本的には道中エンジンを噴射しなくても、自然に月でUターンし、地球へ戻ってくることができるという特徴をもつ。このため、たとえば月へ向かう軌道に乗ったあとに宇宙船にトラブルが起きても、漂流してしまう心配がなく安全性が高い。

なお、地球周回軌道を離れて月に向かう前には、オリオンの生命維持装置や通信システム、航法システムの試験なども行い、万が一問題があった場合には月へ向かわず、地球に緊急帰還することになっている。また、SLSの第2段「ICPS (Interim Cryogenic Propulsion Stage)」を月着陸船などに見立て、宇宙飛行士がオリオンを手動で操縦し、ランデブーする試験を行うことになっている。

無事に自由帰還軌道に乗ったあと、オリオンは月に徐々に接近していき、そして月の裏側を通ってUターンする。このとき、月の裏側の地表から約1万0300km離れたところを飛行する予定で、これによりアルテミスIIは、宇宙飛行士が乗った宇宙船として史上最も地球から遠く離れることになる(ちなみに現時点での記録は「アポロ13」ミッションが持っている)。

その後、今度は地球に向かって飛行し、そして大気圏への再突入、パラシュートの展開などをこなしたのち、最終的にカリフォルニア沖の太平洋に着水し、ミッションは完了となる。その後、米海軍の船とNASAのチームによって宇宙飛行士と宇宙船は回収される。

アルテミスIIが無事成功すれば、早ければ2025年後半にも「アルテミスIII」ミッションが行われ、月の南極に2人の宇宙飛行士が降り立つことになる。

アポロ計画が終わってから半世紀。ふたたび人類が月を訪れる日が、刻一刻と近づいている。

○参考文献

・NASA Names Astronauts to Next Moon Mission, First Crew Under Artemis | NASA
・G. Reid Wiseman | NASA
・Victor J. Glover | NASA
・Christina H. Koch | NASA
・Astronaut Jeremy Hansen's biography | Canadian Space Agency

鳥嶋真也 とりしましんや

著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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