2023年04月08日12時00分 / 提供:マイナビニュース
●個性的な人がいっぱい出てるのがテレビ
お笑いコンビのハライチと、フリーアナウンサーの神田愛花がMCを務めるフジテレビ系お昼の生バラエティ番組『ぽかぽか』(毎週月~金曜11:50~)が、スタートして3カ月が経過した。生放送ならではの何が起こるか分からないワクワク感に加え、MCとレギュラー陣に観覧客も含めたチーム感が醸成され、Twitterでトレンド入りするなど話題になる放送回も増えてきた。
4月から放送時間が1時間短縮され、より凝縮して展開する同番組の総合演出を手がけるのは、お昼の代名詞だった『笑っていいとも!』を担当し、『アウト×デラックス』で個性的すぎる人たちを次々に発掘してきたフジテレビの鈴木善貴氏。『ぽかぽか』に『いいとも』を思い出すという声もあがるが、どのように番組を立ち上げていったのか――。
○■港社長からの「1月から昼の帯番組を命ずる」に虚を突かれる
――お昼の生バラエティで総合演出をやるという話は、最初どのように聞いたのですか?
バラエティ制作センターの戸渡(和孝)室長と中嶋(優一)部長に「港(浩一社長)さんから話があるから、今度呼ぶわ」って言われて、ちょっと「怒られるかな…」「俺、なんかやっちゃったかな…」って思いました。それで社長室に行ったら、港さんから開口一番に「善貴に1月から昼の帯番組を命ずる」って言われて、全然意味分からなくて(笑)。“虚を突かれる”というか、まごつきました(笑)
でも、とりあえず怒られなくてよかったなと(笑)。それと、会社員なんで基本、断ることは選択肢としてないし、新番組の立ち上げっていうのはディレクターにとってワクワクすることなので、大変さとかは関係なく面白そうだなって思いました。実際にフタを開けてみたらスタートまで数カ月しかない中で毎日3時間のバラエティをやるって結構大変なことなんですけど、僕は楽観主義なので、気楽に構えてました。最初に聞いたときは青天の霹靂でまごつきましたけど、もう覚悟を決めてやるしかないなあと思いましたから。
――番組の立ち上げにあたって、スタジオだったりMCだったりタイトルだったり、いろんな要素がありますが、どこから決めていったのですか?
MCとスタジオとタイトルの3つは同時並行でしたね。前にやってた『バイキング』みたいにニュースは扱わない、裏の『ヒルナンデス!』(日本テレビ)は情報を扱っているのでうちはやめよう、時間帯は違うけど『ラヴィット!』(TBS)は芸人さんがいっぱい出てワチャワチャやってるから芸人さんをいっぱい置くのもやめようとか、そんなことをおぼろげに考えながら、『(笑って)いいとも!』のスタジオアルタって良かったなあと思ったんです。フジテレビのスタジオの中でやったら外を向いてないなと思って、渋谷とか原宿とかに良い場所がないかちょっと探したんですけど、諸々の条件に合う場所がなくて、そんなときに何かないかなと思ってある日、会社の中をウロウロ歩いてたんですよ。
そしたら、7階の屋上庭園に「あれ? これって入社したとき確かレストランだったな」と思って、ちょっと隙間があったんで覗いてみたら、いろんな部署の机とか置いてあったんですけど、もしかしたら、ここ使えるかも…という感じだったんですよ。ここだったら外からも見られるし、南條(祐紀チーフプロデューサー)とも話してちょっと改装したらいけるんじゃないかとなって、上に話したら戸渡さんも中嶋さんも「めちゃくちゃいいじゃん!」ってなってくれて、会社全体で頑張ってくれて今のところが生放送の会場になった次第です。
――外から観覧できるのと、お客さんと一体になれるサイズ感もいいですよね。
まだそんなに認知されてませんけど、休みの日とかであそこに人がいっぱい来てくれると出演者のテンションも上がりますので、ありがたいなと思いますね。
――セットも自販機の飲み物のラベルや、マヨネーズにキャラが自分用の名前を書いていたりと、細かいところまでかなりこだわっている印象です。
「みんなの楽しいが集まる場所」がテーマなので、勝手に渋谷のミヤシタパークを意識しています。美術さんと一緒に見に行って参考にさせてもらって、よく見ると似てる部分があります(笑)
○■『ドリフに大挑戦』での感動が決め手に
――MCのハライチさんと神田愛花さんは、どのように決めていったのですか?
MCは特に澤部(佑)くんがいろんな番組をやってますから、半分ダメ元だったんですけど、若い人でやりたいというのが第一にあったので、30代で好感度もあって面白い人で、いろんな名前が候補に挙がってたんですけど、どうしてもとハライチさんにお願いしました。
――ハライチさんとは『キャンパスナイトフジ』(2009~10年)でご一緒されていて、その後お仕事はされていなかったのですか?
プライベートではちょくちょくって感じで、仕事はずっとやってなかったんですが、1年くらい前に『ドリフに大挑戦スペシャル』という番組で演出をさせてもらったときに澤部くんに来てもらったら、「合唱隊」のコントでMCとして見事に回すし、「刑務所」のコントでも加藤茶さんをはじめ大物の先輩たちを相手に反応が素晴らしかった。収録後、「澤部くんの腕、想像の5倍上を行ってた」とスタッフ一同感動でした。それがすごく頭に残っていまして。『ぽかぽか』は主婦に見てもらうし、ゲストもいっぱい呼ぶだろうから、澤部くんは良いなあというのがありましたね。OAで見るのと裏方で一緒にやるのはだいぶ違いますから、『ドリフ』がなかったら気づいてなかったかもしれないです。
――神田愛花さんは、この番組で魅力が爆発してますよね。
突拍子もなくて面白いですよね(笑)。神田さんは『アウト×デラックス』に「安藤優子の次は私だと思っている女子アナ」として出てもらったんです。そのとき、ベランダにやたら落ち葉が溜まるんだけど、隣がきれいなのは風の通り道のせいだから、家賃を下げてくれてもいいんじゃないかって話をしてて。前からテレビで見ていて変だと思ってましたけど、実際触れ合ってみてさらに、神田さんの考え方は面白いなと思ったんです。それを、ハライチに加えてもう1人欲しいなと考えてたときに思い出して、アナウンサーとしてではなく、プレイヤーとして出てもらおうと思いました。
この番組を僕がやるってことは“お昼のアウト×デラックス”をやれたらいいんじゃないかってちょっと思ったんです。個性的な人がいっぱい出てるのがテレビだと思うんですけど、神田さんは生放送で何言うか分からない怖さじゃなくて楽しさがある。僕が港さんに言われたときの虚を突かれる感じを、神田さんだったら20分に1回くらい出してくれるんじゃないかと。生放送を見てもらう理由ってそれしかないですからね。だから、今はVTRでアレン様とかアウト軍団も出てますけど、いろんな人をどんどん生放送に出していきたいですね。
●番組タイトルは『ぽかぽか』vs『まんぷく昼太郎』の一騎打ちに
――番組タイトルは、仮案で『まんぷく昼太郎』もあったと聞きました。
『まんぷく昼太郎』をずっと推したんですけど、南條が「絶対ダメ」って言うんで、月~金の各曜日演出5人にも意見をもらい、最終的に『まんぷく昼太郎』と『ぽかぽか』で多数決投票にしたんです。『ぽかぽか』は月曜の加藤(智章)が考えたタイトルで、「昼」とか「ランチ」とかを使わずにお昼を表す言葉として思いついたらしいんですけど、僕としては『まんぷく昼太郎』に決まると思って多数決にしたら、僕と火曜演出の(石川)隼の2票しか入らなくて、『ぽかぽか』になりました。
それでも「まんぷく昼太郎」はどうしても残したくて、『ぽかぽか ~まんぷく昼太郎~』ってサブタイトルにしようと思ったんですけどさすがに意味が分かんないから、急きょキャラクターを作りたいと言って、仲良くさせていただいているアーティストの青山哲士さんにお願いしました。タイトルロゴも青山さんに作ってもらっていて、「ぽかぽか」って普通にワードで打つと締まりがないなと思ってたんですけど、青山さんが見事に素敵なロゴにしてくれて。『ぽかぽか』に決まったときは、「普通のタイトルになっちゃったなあ」ってちょっと残念に思ってたんですけど、今は心から『ぽかぽか』になって良かったなと思います。
――昼太郎のキャラクターは、どのように発注したのですか?
『四畳半タイムマシンブルース』っていうアニメ映画に、ぐーたらしたキャラがいたんですよ。全然似てないんですけど「こいつだ!」と思って、「食べすぎて眠たくなっちゃうぐーたらなやつなんで、だらしない感じにしてください」と言うだけで、あとは青山ワールドにおまかせしました。あいつはぐーたらの指示待ち人間なので、今は放送中にいっぱい歩いてますけど、最初はずっと部屋で寝てて、出番になると呼びに起こすみたいな感じも考えてました。
――オープニングで演者さんの前をのそっと歩いて、神田さんが「うわっ!」ってびっくりするのとか、最高ですよね(笑)
僕もあれ好きなんですよ(笑)。最初はしゃべらそうかみたいな話もあったんですけど、しゃべらないのがいいんですよね。
――子どものファンが手紙を書いたり、外観覧の人が手作りグッズを作ったりと、徐々に人気が広まってる感じもあります。
うれしいですよね。あれを見て、夏休みに昼太郎のデッサン大会をやりたいなと思って。月曜は子ども、火曜は美大生、水曜は芸能人とか、そこまでになればいいなと思いながら育ててます。
○■テーマ曲に盛り込まれた「カツカツの予算」「ウキウキ」
――火曜演出の石川隼さんがやっていた『ウケメン』でも楽曲提供をされていたチャラン・ポ・ランタンさんのテーマソングも、気分が上がるすごくいい曲ですよね。
隼が『アウト×デラックス』でディレクターをやっていたときがあって、チャラン・ポ・ランタンさんに出てもらったときに担当して、そこから付き合いがあったんです。テーマ曲を作るときに一応僕も好きなアーティストがいたんですけど、演出のみんなに聞いたら、隼からチャラン・ポ・ランタンさんのある曲が送られてきて、めちゃくちゃいいなと思って、すぐ連絡を取ってZoomで打ち合わせをして、曲のイメージを伝えました。
――どんなイメージを伝えたのですか?
タイトルが『ぽかぽか』なんで、歌詞は2文字のオノマトペみたいなのを繰り返す感じっていうのを伝えて。その中で「カツカツの予算」というのはこっちで挙げたら入れてくれました。
――「ウキウキ」という歌詞が、『笑っていいとも!』へのリスペクトを感じるという声もあります。
あれはチャラン・ポ・ランタンさんが書いてくれました。いつもCM中にも会場で流してますけど、テーマ曲じゃなくてもいい曲だなと思って聴いてます。元気が出るし、PVもめちゃくちゃいいし、彼女たちにお願いして本当に良かったなと思います。
●「テレフォンショッキング」から横並びにこだわる
――お昼の生放送バラエティということで、どうしても『笑っていいとも!』と比較されることが多いと思います。やはり、「ぽいぽいトーク」(※1)を頭で5曜日に横串で入れるというのは、「テレフォンショッキング」を意識されたのでしょうか?
全然別ものだと思って作りながら、僕も『いいとも』を最後にやらせてもらったんですけど、「テレフォンショッキング」のタモリさんとゲストの2ショットを見て、『ぽかぽか』でもMCとゲストの4ショットにこだわりたかったというのはありますね。タモさんってやっぱり特別な人なんで、2ショットになると誰もが特別に見えましたけど、いつか澤部くんというより岩井くんですかね、彼がそうなってくれたらいいなと思って、セットもああいう横並びにしてます。
――「◯◯っぽい」でゲストに質問して展開するというのは、発明だなと思いました。
「っぽい」って言えば何でも聞けるっていうことなんですけど、ゲストの皆さんも本気で答えてくれるんで、僕は来ていただいた方全員の好感度爆上がりで大好きになります。「こんなにしゃべってくれるんだ」「こんなにチャーミングなんだ」と毎回思って、初回の北川景子さんとかも大大大好きになりましたから。そうやって魅力が視聴者にも伝わって、来てくれた人全員が得するようにしたいと思ってます。
でも、最初は不安だったんです。岩井くんと神田さんには本番中にフリップに質問を書いてもらってますけど、事前にこっちで調べたことを渡したほうがいいのかなとも考えてました。でも、何も渡さず自由にやってもらったら、出せないフリップがいっぱい残るくらい書いてもらって、「っぽい」の精度も上がってるので、他の番組では出てこない話がいっぱい聞けるんです。打ち合わせもせず、2人の偏見と価値観からの角度で質問してくれるので、そこにエピソードがない可能性もあるんですけど面白いなあと思って、本当に助かってますね。
――ホストとしてゲストの話も聞きながら、その上で質問を書くから大変ですよね(笑)
そうなんです。あの2人が何を出すのかっていう興味があるので、トーク中もフリップに書いてる画は絶対スイッチングで入れるようにしてます。
――「牛肉ぴったんこチャレンジ」(※2)も、ただ目標の重さに肉を切るというだけのコーナーなのに、盛り上がりますよね。
あれは最初1カ月で終わろうと思ってたんですよ。お肉も毎回買って、結構お金かかってますから(笑)。でも、2月に来ていただいた小堺(一機)さんが打ち合わせで「肉切りたい」とおっしゃったんで、小堺さんまでは延長しようとなったんですけど、意外と他の方も「私ならできる」っておっしゃってくださるので、そのままやってます。やっぱり成功すると、あの興奮する瞬間を、出演者が視聴者とお客さんと同タイムで味わえるっていうのがいいですよね。別に牛肉じゃなくてマグロでもいいんですけど、まだ続けていきたいと思います。
その後に、「たぶん自分が1番ランキング」(※3)ってやってますけど、僕が『いいとも』で一番好きだったのが、「100分の1アンケート」(※4)だったんですよ。シンプルだけど面白い優秀な企画だなと思ってたんですけど、同じことをやってもしょうがないので、事前にアンケートを採って何かやれないかということで、これは完全に『いいとも』からの逆算で考えました。
――オープニングでテーマ曲に乗せてMCが正面から降りて登場するというのも、『いいとも』を思い出します。
そこは実はそんなに意識してないんです。お客さんを入れるって決めたことと、チャラン・ポ・ランタンさんの曲を聴いたときに、やっぱりお客さんの前に登場したほうがいいなと思ってこの形になりました。
――『いいとも』は本番後の反省会がなかったといいますが、『ぽかぽか』はどうですか?
ないです。毎日のことなんで、スタッフだけで反省して、よっぽどのことがなければ、演者さんは本番が終わったらもう気持ちよく帰ってもらおうと思ってます。本番前に「昨日はこうだったんで」って毎日打ち合わせしますから。
(※1)「ぽいぽいトーク」…ゲストにまつわる勝手なイメージ「◯◯っぽい」をテーマに展開するトークコーナー。
(※2)「牛肉ぴったんこチャレンジ」…「ぽいぽいトーク」のゲストが、牛肉の塊から300g目指してカットに挑戦する企画。
(※3)「たぶん自分が1番ランキング」…「ぽいぽいトーク」のゲストが、50人アンケート調査で自分が1位になれるテーマを考える企画。
(※4)「100分の1アンケート」…「テレフォンショッキング」のゲストが、スタジオの100人のうち1人だけ該当するアンケートを考える企画。
●鈴木善貴1980年生まれ、岐阜県出身。同志社大学卒業後、03年にフジテレビジョン入社。『トリビアの泉』『笑う犬の太陽』『アイドリング!!!』『キャンパスナイトフジ』『笑っていいとも!」『アウト×デラックス』『ホンマでっか!?TV』『さんまのお笑い向上委員会』などを担当する。今年1月にスタートした『ぽかぽか』の総合演出を務める。