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"つなぐ"ことの重要性 デンソー・原雄介氏が語るこれからの人材戦略とは

2023年03月13日10時03分 / 提供:マイナビニュース

●デンソーに変化を迫る100年に1度の大変革
カーボンニュートラルやSDGsに対する社会的要求が高まる昨今、特に自動車業界においては、世の中の大勢を占めていたガソリン車から、電気自動車(EV)をはじめとする環境性能の高いモビリティへの転換が本格化し、"100年に1度の大転換"と言われる大規模な変化が起こっている。

自動車業界のTier1として長年先頭集団を走り続けてきたデンソーも、その影響を大きく受ける企業だ。ものづくり企業として実績を積み上げてきた同社は、次世代のニーズに応え続けるため、大規模な改革を迫られている。

中でも大きな影響が予測されるのが、人材の問題。業界全体において"ソフトウェア人材"の不足が叫ばれる中、その人材をまさに必要とするデンソーは、2021年から人材戦略について大きな変革を始動している。今回は、その人材戦略を司る同社執行幹部の原雄介氏に、これからの人材戦略と、未来の企業価値について話を伺った。

人材戦略改革の背景にある「3つの変化」

原氏は、デンソーが人材戦略を大きく変換させるに至った背景として、社会全体における「3つの大きな変化」があるとする。
○「産業構造」の変化

まず挙げられたのは、「産業構造」の変化だ。原氏はこれまでの自動車業界について、自動車の普及や輸出拡大に伴う高度成長が続いた"モータリゼーション"ののち、メーカーが世界各地に拠点を置き国際的に販路を拡大する"グローバリゼーション"の流れへと進んでいったと分析。そして現状については、産業界全体に"デジタライゼーション"の時代が到来しており、原氏はその先に続く「デジタル産業革命」について次のように語る。

「これまでいくつかの踊り場はありながらも右肩上がりで成長を続けてきた自動車業界だが、ここにきて産業構造が変わるという大きな波が来た。そういった中では、従来のように設備などの生産能力増強ではなく、『働く人』への投資を最優先で進めなければならないと考えている。」

○「社会」の変化

原氏は続けて、「社会」の変化を挙げる。

「SDGsへの関心が高まって持続可能な社会に貢献することが求められる中、見える価値だけでなく"無形資産"のような見えない価値が企業の価値を決定づける時代になってきた。」

原氏は、ソフトウェアや知的財産などを含む無形資産の中でも、人的資本を最重要だと考えているという。そのため、「人材組織戦略を経営戦略の原点だと捉え、強く連動させながら人的資本の価値を高めていく」としている。
○「価値観」の変化

そして、最後に挙げたのは「価値観」の変化だった。

自動車産業が順調に成長していた時代には、キャリアパスが明確で、所属する会社にキャリアを委ねていても自己成長ややりがいを実現できた。しかし前述したように、自動車産業界は産業構造の変化を受けて事業の転換を求められており、将来のキャリアを見通しにくくなっているのが現状だ。

「コロナ禍の影響に限らず、時代と共に社員と会社の関係が変容している」とする原氏は、「社員ひとりひとりのキャリアにおけるやりがいを高めるためには、しっかりと会社として手を打つ必要がある」とした。

そして、近年生じているこれらの3つの変化に対応した上で企業としての価値を生むために、デンソー全体として人事戦略の改革に取り組んでいるとする。

●大規模な改革で新たな時代に価値を提供する人材を育成
改革起点の「Reborn21」から変化を進める「PROGRESS」へ

デンソーは2020年、企業としての変革プラン「Reborn21」を発表した。これは、同年に拡大したコロナ禍の影響に加え、同社の製品における大規模な品質問題に端を発するものだという。「社会にもご迷惑をおかけしたため、2021年度末までに質の高いデンソーに生まれ変わることを目指して開始した」というReborn21では、品質の再出発を基盤に、環境への貢献や安心の提供を持続可能な形で行うことが目指された。

その実現に向けては、戦略や"仕事の進め方"の変革として、組織全体から社員個人までの各段階でさまざまな変化が進められた。原氏はデンソーの現在地について、「Reborn21を経てやっと社内の風土が少しずつ変わり、まさに今、変革の発射台に立てたのかな、と思う」と話す。
○新たな改革ビジョンをなす4つの柱

そして現在はReborn21の次の段階として、2025年までの中期経営計画に合わせて立ち上がった人材・組織の改革ビジョン「PROGRESS」が進行している。このビジョンは、交通事故ゼロやカーボンニュートラル実現といった事業目的に並ぶ目標として「『実現力』のプロフェッショナル集団であること」を掲げ、「キャリア」「人材育成」「働き方・カルチャー」「評価・処遇」の4つの柱を大きく見直していくという。

「さまざまな世界初技術を生み出してきたデンソーの強みは、実現力の実績と蓄積だと考えている。今後もあらゆるパートナーと新たな"できる"を実現し、社会に実装して世の中をより良く変えていくプロであることを目指している」と語る原氏は、社内どうしや社外との共創をさらに高次元で実現するために、社員それぞれが自己新記録を更新し続けるような環境作りを推し進めているとする。

PROGRESSで重要な4つの柱の中でも、特に重視されているのは「キャリア」とのこと。「大きく事業が転換していく中で、社員個人としての幸せとデンソーとして社会に果たすべき大義を両立することが重要」と語る原氏は、従来は親子のような主従関係にあった企業と社員が、今や「選び選ばれる関係」になっていると分析する。そして、企業はあくまで社員が活躍する"舞台"であることが、今後の人材戦略における基本になるだろうと推察した。
モビリティ社会のキーワードは"つなぐ"

100年に1度の大変革を経て訪れる「モビリティ社会」に対し、デンソーは「これまでと変わらずTier1として、安全を提供する基盤づくりを行うことが役割」と原氏は話す。そして、その実現における重要なキーワードとして"つなぐ"という言葉を挙げる。「モビリティ社会では、車内の部品どうし、車と車、車と社会など、さまざまな段階をシームレスにつなぐことではじめて、新しい価値を享受できる」とし、そのつなぐ役割で貢献したいとする。

また、つなぐことの重要性は技術の面でも変わらず大きいという。今後のEV業界においては、従来からデンソーが強みとするECUなどの部品に加え、クラウドサービスとの連携などといった車外とのつながりも重要性が高まる。これは原氏の言葉を借りれば「車載ソフトウェアとITソフトウェアをつなぐ」ことであり、ソフトウェアどうし、あるいはハードウェアとソフトウェアをつなぐ界面において、同社が強みを発揮していきたいとのことだ。
○重要性が高まる"デュアル人材"

では、時代を変える大変革に伴って生まれたこのような需要に応えるため、どういった人材が必要になるのか。原氏が導き出した答えは「デュアル人材」だった。

「車内と車外、リアルとバーチャル、ソフトウェアとメカトロニクスとエレクトロニクス、といった、異なる分野を一体のシステムとして考えることが必要になってきている。"界面"で力を発揮するには、1つの分野しかわからない専門家以上に、2つ以上の領域を理解する人材が重要になると考え、今まさに人材育成に取り組んでいるところだ。」

車載部品に搭載される半導体1つをとっても、ハードウェアとしての半導体に対する理解、その中で動くソフトウェアへの理解、さらには半導体性能に関するエレクトロニクス的な理解があって初めて、包括的な課題解決が実現可能となる。新製品の開発や性能向上を目指す上で、界面で価値を発揮するためには、やはりそれぞれをつなぐことの重要性が高いとのことだ。

●個を輝かせ企業の大義を果たすのがデンソーの役目
○外部からの獲得と社内育成の両輪でデュアル人材確保へ

2つの領域をつなぐことができるデュアル人材の重要性が高まる今、メカトロニクスの領域に軸足を据えてきたデンソーは、EV社会に向けてソフトウェア面での上積みを必要としている。その手段として、社外パートナーとの協業や新規人材の獲得を行うとはするものの、協業はあくまでアウトソースであるため本質的な解決とは言えず、優秀な人材の獲得もそう簡単に実現できるものではない。

このことからデンソーは、外部からの人材獲得と並行して、社内人材の育成に注力している。具体的なプランは、社内のハードウェアエンジニアを約1000人規模でソフトウェア人材へと転身させる、というものだ。原氏によると、この動きは、単なるソフトウェア人材不足の解消だけでなく、もともとハードウェアの知見を持っているソフトウェア人材、つまりデュアル人材の成長につなげることが狙いだという。

そのために開始されたのが、「キャリアイノベーションプログラム」という取り組みだ。社員自らキャリアを描くことを目的に始動したこのプログラムでは、客観的な能力把握となる「ソムリエ認定制度」と、キャリア志向に合わせた活躍の場を提供する「アサインプロセス」を設定。両段階の合間にはリカレントプログラムや上位者が教育を提供するバディ制度を用意し、キャリア自律を後押しする環境づくりを行っているとのこと。

原氏は、このような社内教育によってデュアル人材を育成することで、「本人のキャリアにとってもメリットがあり、会社としてもこれから必要な技術人材にも適応するだろう」としている。
社会貢献と個人の輝きの両方を最大化することが重要

原氏はインタビューを通じて、「個が輝く」という言葉を繰り返す。「会社はあくまで社員が輝くための舞台」という言葉にもある通り、社員個人にとってのやりがいやエンゲージメントがあってこそ、企業としての大義が果たせると考えているという。

だが、個人の輝きや利益だけを追求することは企業としての本質ではないとする。「社会への貢献ができても個人が輝いていないようでは、持続可能な価値提供とは言えない。また、個人が輝いていても独りよがりであったら、それは意味があるとは言えない。だからこそ、個人の輝きと社会貢献の両方が重なり合う部分をなるべく増やすことが重要だと考えている」とのことだ。

だが、個人の活躍や人材の流動化を強調することによって、転職という道を選び旅立つ人も増えるのではないだろうか。実際に社内からも、同様の懸念が寄せられているという。

しかし原氏は、この点を意に介してはいない。むしろ「個人が生き生きせずエンゲージメントが低い方が、離職率は高くなる」と話したうえで、「会社として多彩な活躍の舞台を用意したうえで、それが個人のやりたいこととうまく結びつけばいいことだし、一方でデンソー以外に夢をかなえる場所があれば、それも後押ししたい」とする。

「まず会社としてやらなくてはいけないのは、とにかくいろんな活躍の機会を準備すること。多彩なフィールドのどこかには、誰しも活躍する場所があると信じている。我々はそういった舞台を用意することで、『選ばれる企業』になっていきたい。」

原氏が推進する人材戦略改革は、まだ始まったばかり。急速に変化する社会からのニーズに応えるため、組織という舞台で人を輝かせることで、デンソーは価値を提供していく。

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