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薄い塩水を甘く感じる理由とは? 岡山大が味覚に関する長年の謎を解明

2023年03月02日16時54分 / 提供:マイナビニュース


岡山大学と高輝度光科学研究センターは3月1日、食塩を構成する成分の1つである塩化物イオンが、甘味やうま味の受容体に作用して味覚を引き起こすことを発見したと共同で発表した。

同成果は、岡山大大学院 医歯薬学総合研究科・薬学部の渥美菜奈子大学院生(研究当時)、同・高科百合子大学院生(研究当時)、同・伊藤千晶大学院生(研究当時)、同・安井典久准教授、同・山下敦子教授、東京歯科大学短期大学の安松啓子教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生物学と医学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「eLife」に掲載された。

ヒトの口内には、甘味・うま味・塩味・苦味・酸味の5種類の味覚受容体が存在する。各受容体に「鍵穴」のようなポケットが存在し、「鍵」である味物質がぴたりと適合することで、受容体がそれぞれの味物質を特異的に認識していると考えられている。なお、この味覚感知のシステムは、魚類からヒトまで、脊椎動物に共通して存在するという。

ところが、食塩が引き起こす味は、不思議な性質を持つことが知られている。ヒトは、味噌汁に含まれる濃度に近い0.8~1%程度の食塩水は、おいしい塩味として感知する。それに対し、その10~20分の1程度のずっと薄い食塩水になると、甘く感じられる。この現象は約60年前の心理学の研究論文で報告されていたが、なぜ起きるのかは現在まで不明だったという。

味覚受容体における「鍵と鍵穴」の関係を調べる最も優れた方法は、受容体タンパク質の形を原子レベルで調べる立体講義解析だ。岡山大の研究チームは、味覚受容体として初めて、ヒトの持つ甘味やうま味の受容体と同じタイプの受容体として、メダカが持つ味覚受容体「T1r2a-T1r3」の味物質センサ領域の立体構造を、2017年に解明している。この成果は現在も、甘味やうま味の受容体で構造がわかっている唯一の例となっているという。そこで今回の研究では、その構造を詳細に調べたという。

分析の結果、メダカの受容体が感知する味物質であるアミノ酸が結合するポケットのすぐそばに、何か別の物質が結合しているポケットが存在していることが確認された。これについて詳細に調べた結果、ポケットに結合しているのは、塩化物イオンであることが判明したとする。

この塩化物イオン結合ポケットは、甘味受容体とうま味受容体の共通の構成要素である「T1r3」にある。メダカだけでなく、ヒトが持つ甘味受容体やうま味受容体も含め、ほとんどの動物の持つ受容体にも存在することも解明された。


甘味やうま味の受容体では、センサ領域にアミノ酸などの味物質が結合すると、同領域の構造が変化し、それが引き金となって、味物質情報が生体内に伝えられると考えられている。そこで、引き続きメダカの受容体タンパク質を使って塩化物イオンの作用が調べられた。すると、塩化物イオンの結合は、アミノ酸などの味物質と同様の構造変化を受容体のセンサ領域に引き起こすことがわかった。

さらに、この情報が実際に味覚として生体内で感知されているのかについて、マウスの味神経を使った解析が行われた。その結果、塩化物イオンは、マウスの甘味受容体を介して、甘味神経応答を引き起こし、味覚として感知されることが明らかにされたという。

これらの受容体や味神経に対して塩化物イオンが作用を引き起こす濃度は、塩味受容体が食塩(ナトリウムイオン)を感知する濃度の数分の1程度と低い。そしてこの濃度が、60年前に報告されていた、ヒトが甘味を感じる薄い食塩水の濃度とほぼ一致していることがわかったという。実際、マウスは何も含まれない水と比較して、薄い塩化物イオンを含む水をより好んで飲むことも確かめられ、甘味と同様の「好ましい味」として塩化物イオンを知覚していることが判明したのである。

なお、塩化物イオンが甘味受容体を介して引き起こす味覚は、ショ糖などが引き起こす味覚に比べて弱いことも確認された。食塩濃度が高くなると、塩味受容体が感知する塩味の方を強く感じ、弱い味がマスクされる、味覚の混合抑制と呼ばれる現象が起こり、日頃は食塩の甘さに気づきにくくなっているものと思われるとした。

食塩は生命維持に不可欠である一方、摂取しすぎると高血圧などの健康リスクを引き起こすため、適量を摂取することが重要だ。味覚は、その食品成分を積極的に摂取しようとするか、あるいは避けて摂取しないようにするかに影響を与え、摂取する成分の門番の役割を果たす。研究チームは、今回薄い食塩水において、食塩成分の1つである塩化物イオンの味覚に対する作用がわかったことは、健康維持に重要な食塩の味覚感知を理解する上で、新たな知見を与えるものだとしている。

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