2023年02月22日20時09分 / 提供:マイナビニュース
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量子科学技術研究開発機構(量研機構)と東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS)の2者は2月21日、国際核融合実験炉「ITER(イーター)」の主要機器の1つであり、プラズマを閉じ込めるための超伝導電磁石「トロイダル磁場(TF)コイル」の製作において、東芝ESSが担当する4基が完成し、日本が分担する全8基の製作が完了したことを共同で発表した。
国際核融合実験炉のITERは、同実験炉の建設・運転を通じて核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証することを目的とした計画。トカマク型で、重水素-三重水素反応による核融合を目指しており、出力は500MWが設計値とされている。同実験路は、日本を含む、世界7極(日・欧・米・露・韓・中・印)35か国の国際協力により、フランス南部のサン・ポール・レ・デュランスにおいて建設が進められている。
核融合を生じさせるためには、数億℃もの超高温プラズマを閉じ込める必要があり、そのための重要な機器がTFコイルだ。同機器は高さ16.5m・幅9mの大きさで、最大11.8テスラもの高磁場を発生させることができる。ITERにはTFコイルが全18基組み込まれる計画で、日本が8基+スペア1基、欧州が10基を分担して製作する計画だ。つまりTFコイルについては、日本1国でほぼ半分を担当しているのである。
TFコイルは巻線部と構造物をそれぞれ個別に製作して、それらを一体化することで完成となる。その製造には、大きく2つの技術的課題があったという。
まず1つ目が、高い磁場精度を実現する必要があるため、高さ16.5m・幅9mの大きさにもかかわらず、電流中心線の位置精度をわずか数mmという正確さで実現しなければならない点だ。そのためには、巻線部と構造物を高精度で組み合わせる必要があるが、両者は個別に製造されるため、それぞれに製作誤差が生じている。それを考慮しつつ、最適な位置で巻線部と構造物を組み合わせるのは容易ではない。
具体的な組み合わせ作業としては、まず直線部の構造物に巻線部を設置して、次に曲線部の構造物を設置。その後、構造物蓋を取り付けることで、巻線部が構造物内に格納される。今回は、巨大構造物の電流中心線の位置公差を満たすため、0.01mmオーダーの精度を有する光学的計測装置が導入され、作業中の巻線部と構造物の形状をリアルタイムで計測。必要に応じてこれらを矯正できる手法を確立することで、巻線部と構造物を高精度で組み合わせることに成功したという。その結果、巻線部と構造物を合わせた後の電流中心線の位置は、TFコイル全4基ともに所定の公差を満足することができたとした。
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そして2つ目が、TFコイルの運転時に生じる巨大な電磁力に耐えられるように、巻線部と構造物を隙間なく一体化させるというものだ。その実現には、両者の隙間に液状の樹脂を注入したのち硬化させる一体化含浸が必要となるが、樹脂は時間が経つと硬化するので、一度固まってしまうとやり直しができない。そのため、限られた時間内に約1700Lもの樹脂をどのように均一に注入するかという点が技術的に困難だったという。
2者はこの課題を解決するために、パワフルかつ緻密な制御が可能な含浸システムを開発することで、短時間で確実に一体化含浸を行えるようにしたとする。具体的には、強力な樹脂送り用ポンプを装備して12時間以内に約1700Lもの樹脂注入を実現し、同時に構造物内の圧力をコントロールすることで、空隙のない樹脂の含浸が実現された。
樹脂が空隙なく含浸しているのかどうかは、一体化含浸中の巻線部と構造物間の静電容量の計測により確認したという。具体的には、両者の隙間に樹脂が注入されていくと徐々に値も上昇し、すべて樹脂で埋まると静電容量が飽和することから、それで確認を取ったとする。そして樹脂硬化後に、最終製作工程として、構造物の他機器との取り合い部などにおける機械加工が実施された。その結果、要求を満足させるTFコイル全4基が完成したのである。
今回で日本分担の8基が完成し、そのうちの7基はすでに現地へ向けて順次輸送できる段階に入っているという。そしてTFコイルは現地到着後、ITER機構によって組み立て・設置作業が行われることになるとしている。