2022年11月04日14時15分 / 提供:マイナビニュース
●稲垣吾郎との芝居で湧き出てきた「想像してなかった感情」
数々のドラマや映画に引っ張りだこ、現在放送中のTBS系金曜ドラマ『クロサギ』での早瀬かの子役も注目を集めている女優の中村ゆり。映画『窓辺にて』(11月4日公開)では、稲垣吾郎演じる主人公の妻役を演じた。本作参加がどのような経験になったのか、また、女優業への思いや、年齢や経験を重ねて変化していきたという生き方について中村に話を聞いた。
『窓辺にて』は、『愛がなんだ』『街の上で』などの今泉力哉監督によるオリジナル作品で、創作と恋愛を軸に描く大人のラブストーリー。妻の浮気を知るも何も感じない自分に悩むフリーライター・市川茂巳を稲垣が演じ、茂巳の妻・紗衣を中村、高校生作家・久保留亜を玉城ティナが演じた。
今泉作品に初参加となった中村。「以前から今泉さんの映画を拝見していて、実は何度かお声がけいただいたこともあったのですがスケジュールが合わなくて。今泉さんの作品は若者の群像劇が多いですが、今回は大人の話で、自分の年齢的にも等身大だったので、この作品に参加できてよかったなと、うれしく思っています」と喜びを語る。
そして、今泉作品の魅力を「たくさんの人たちの感情を代弁できるぐらい繊細に物事を見て、繊細に人の気持ちに寄り添っている方だから書ける本だし、撮れる映画」と述べ、中村が演じた紗衣についても「不倫している役でよくないことをしているわけですが、今泉さんは彼女の孤独や寂しさ、弱さにもちゃんと寄り添ってくれている」と言う。
演じる際に意識したことを尋ねると、「今泉さんの作品に関してはあまり準備をしたらダメだと思っていて、その場で感じたことやその場で起きた現象をしっかりと受け止められるように、芝居をしないということを意識していました」と説明。
「今泉さんはこういう風に演じてほしいということをあまり言わない方で、何も言われなくて不安もありましたが、それも意図してのことだったと思います。自分が想像してなかった感情が湧き出てくるシーンがあり、具体的なお芝居の指導ではない、感情の流れの演出だったのだなと感じました」と振り返った。
紗衣との共通点を尋ねると、「彼女もキャリアウーマンで男性に頼らず生きているし、結婚はしていても第一優先は仕事みたいなスタンスはすごく理解できます」と共感。
茂巳と紗衣の関係について「もっと紗衣さんも自分の気持ちを話せていたら違う形になっていたのかなと。仕事にアグレッシブで、自分でいろんなことを開拓していく女性なのに、恋愛の面では自分の気持ちを正直に言えない。そういうところもなんとなく共感しました」と話した。
主演の稲垣については、「きっととてもシャイな方で、現場でも寡黙でしたが、お芝居で向き合ったときにすべての感情をキャッチして、きちんと感情でお芝居してくださる方だったので、すごく助けられました」と述べ、「だからこそ、こうしようと思っていない感情が生まれる場面がありました。2人で話をするシーンで、自分が泣くと思ってなかったのですが、感情として湧き上がってきたものがあり、それは稲垣さんにいただいた感情でした」と振り返る。
そんな稲垣との共演で刺激も受けたという。「稲垣さんもコメディタッチのものなど、もっとわかりやすく演じてほしいと言われたら応えると思いますが、今回のようなエモーショナルなこともきちんとできる方。それは人の気持ちを理解しないとできないと思うので、人間力の積み重ねだと思います。演技って少なからず、その人の背景が説得力になると思っていて、そういうことを雑にしない役者になりたいなと感じました」
そして改めて本作出演がどのような経験になったか尋ねると、「今泉さんという才能とご一緒できたことは本当にうれしいです」と答え、「私の気持ちを代弁してくれてありがとうという気持ちが何個もありました。私と同じ気持ちじゃん! ということが今泉さんの作品は多く、今回の映画も私にとってそういうフレーズがいくつもあって、揺さぶられる瞬間がある映画だなと思います」としみじみ。「悩んでいるなら体を動かしたほうが気分転換になると言われてランニングしている間もずっと考え続けて、より自分が悩んでいることに気づくというセリフとか、わかる! って思いました(笑)」と話した。
●目の前の仕事に一生懸命「いつも震えるような気持ちで現場に」
中村はもともと、1998年にYURIMARIとして歌手としてデビュー。その後、活動休止期間を経て、2003年に映画「最も危険な刑事まつり『続 名探偵刑事』」で女優デビューした。
来年で女優生活20年となるが、「こうしてお仕事を続けさせてもらえているのは、自分が頑張った一つの証しでもあるから、そこは認めてあげようという気持ちもありますが、どの年も足りないところだらけで、反省したり勉強し直したりの繰り返しで、やっていることは実は変わっていません。でも、お仕事が絶えずあるということが、一つ一つの作品に一生懸命挑んで、真面目にお仕事と向き合ってきたことではあるのかなと思っています」と語る。
最初から女優志望ではなかったわけだが、女優業を初めてから初めて、仕事が「好き」だという気持ちになったという。
「私は元アイドルで、それが成功という形ではなかった。ちゃんと仕事もさせていただきましたが、自分の中ではダメだったなという気持ちのほうが大きくて、それは本気で頑張れてなかったからで、自分が本当に好きなことでもなかったのだと思います。女優のお仕事をさせていただくようになってから初めて好きだという気持ちが芽生えました」
そして、「好きだという気持ちや、映画の世界に入り込める充実感を感じたときに、これを頑張らないと自分は何もなくなってしまう。これしかない!」と覚悟を決めて向き合うように。「ほかにやりたいことは何も思い浮かばなかったので、本当にムキになったし、必死になりました。そして、自分が揺れ動かされる人たちにたくさん出会えて、周りの方に女優にしていただいたなと。いただいたチャンスに絶対応えたいとムキになってきた20年という感じです」と語った。
経験を重ねても「いつも震えるような気持ちで現場に行きます」と明かす中村。「自分にとって勉強になる方と出会える喜びはすごくありますが、お芝居は今でもすごくプレッシャーを感じ、楽しいと思えることは少ないかもしれません」と吐露する。
それでも、「私たちの仕事にしかない幸福感も確かにある」と言い、「お客さんが喜んでくださるとか。特に演劇をやるとそういうことを感じますし、自分がお客さんに感動させられることもあり、瞬間瞬間の感動がある特別なお仕事だなと思います」とやりがいを語った。
仕事との向き合い方は年々変わっているそうで、「毎年いろんなことを学んで、自分の中で考え方が変わっていきますが、周りも自分も大切にすることが大事だなと。また、その時々の感情に振り回されないというのをすごく意識するようになりました」と、最近意識していることを教えてくれた。
現在40歳。年齢と経験を重ねて後輩たちへの思いも変わってきているそうで、「年下の人が増えてきて、自分も若い頃に感じた孤独感や不安感をフォローしてあげる立場の年齢になってきたので、そうしてあげられる人間でありたいなと。若い頃は勝ち取らなきゃという気持ちが強かったですが、年齢が上って変わってきました。そのほうがいい関係が築けますし、作品全体もよくなるので」と語る。
続けて、「人とコミュニケーションをとることで自分も救われることがあるなと。年を取って図々しくなって、おしゃべりが好きになってきたというのもあるかもしれません(笑)」と冗談交じりに話した。
今後の目標を尋ねると、「若い頃は目標を決めてやっていましたが、理想通りになったことがほぼないので、今は毎日を真面目に誠実に生きて、結果的にお仕事も続けられていたらいいなと思います」と回答。
「人生って、こういう風にしようと思ってもならないことが多いし、思いがけないことが突然やってくるので、過度に期待をせず、かといって怠けたらダメなので、目の前のことに一生懸命頑張る。そうやって、たまにうれしいことが起きたら素直に喜べばいいですし」と年齢を重ねてたどり着いた生き方を説明し、「どんなことが起きても対処できるように自分の心を成長させることが大事なのかなと思います」と穏やかな笑顔で話した。
■中村ゆり
1982年3月15日生まれ、大阪府出身。2003年から女優として活動を始め、『パッチギ! LOVE&PEACE』(07)で全国映連賞女優賞、おおさかシネマフィスティバル新人賞を受賞。主な映画出演作に『そして父になる』(13)、『ディアーディアー』(15)、『海よりもまだ深く』(16)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(17)、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)、『Fukushima50』(20)、『DIVOC-12 海にそらごと』(21)、『愛のまなざし』(21)など。公開待機作に『母性』(11月23日公開)、『嘘八百 なにわ夢の陣』(2023年1月6日公開)、『仕掛人・藤枝梅安 第一作』(2023年2月3日公開)がある。