2022年10月20日17時05分 / 提供:マイナビニュース
●
電気通信大学(電通大)は10月19日、硫化鉛を用いた「量子ドット太陽電池」を開発し、界面を制御することで同太陽電池として15.45%のエネルギー変換効率を達成したことを発表した。
同成果は、電通大大学院 情報理工学研究科の丁超博士研究員、同・沈青教授らの研究チームによるもの。詳細は、環境発電やエネルギーの変換・貯蔵などに使用される材料に関する全般を扱う学術誌「Advanced Energy Materials」に掲載された。
次世代の量子ドット太陽電池の有望材料である、溶液法で作製された硫化鉛コロイド量子ドットは、サイズの変化で光吸収領域の制御が可能なほか、高い吸収係数を有することや、多重励起子生成ができることなど、優れた特性を持つことが知られている。
典型的な硫化鉛量子ドット太陽電池は、厚さ数百nmのn型量子ドット層(光吸収層)が、電子輸送層と正孔輸送層の間に挟まれている。量子ドット中で光生成されたキャリアは、量子ドット光吸収層、電子輸送層、正孔輸送層、および2つの電極の間のあらゆる界面を含む輸送経路を通って移動する。これらの機能層と界面における欠陥によって光生成キャリアの無輻射再結合が発生するため、電極により電荷が抽出される前に電子と正孔の損失が起こってしまう。
一方、量子ドット光吸収層での電子(多数キャリア)と正孔(少数キャリア)の輸送速度の大きな違いにより、電子輸送層/量子ドットと量子ドット/正孔輸送層の界面において電荷蓄積が起こりやすくなる。これにより、デバイスの直列抵抗の増加と並列抵抗の低減が起こり、光電変換効率が低下してしまうとする。
しかしこれまでの大半の研究では、硫化鉛量子ドット太陽電池の単一界面に対してのみパッシベーション法が用いられていた。そのため、界面欠陥による無輻射再結合の抑制と、バランスのよい電子と正孔の抽出を同時に実現することは困難だったという。
そこで研究チームは今回、硫化鉛量子ドット太陽電池にある3つの界面(量子ドット/量子ドット、電子輸送層/量子ドット、量子ドット/正孔輸送層)のパッシベーションの相乗効果を利用できる新たな界面エンジニアリングを提案することにしたとする。
●
具体的には、量子ドット/量子ドット界面にペロブスカイト界面層を形成する新しいパッシベーション法により、量子ドット光吸収層での欠陥密度の低減と光励起キャリア寿命、さらに拡散長の増加が行われた。
量子ドットインク中に適量のホルムアミジンヨウ化水素酸塩を添加することにより、スピンコートで作製された量子ドット膜内の隣接する量子ドットの間にペロブスカイト層を形成。透過型電子顕微鏡像により、量子ドット表面にペロブスカイト単分子層が形成され、それによって量子ドットがほぼすべての(200)結晶面に沿って互いに架橋していることが確認された。
これにより、量子ドット膜の欠陥濃度が40%減少するとともに、キャリア移動度が向上し、量子ドット膜内の光生成キャリアの拡散距離が1.7倍に増加。その結果、量子ドットの光吸収層の厚さが11%増加し、デバイスの変換効率は13%以上になったという。今回の提案方法により、量子ドット表面に単層ペロブスカイトのシェルが簡便に形成され、量子ドット膜のキャリア移動度の増加と量子ドット界面欠陥の低減が確認された。
また、電子輸送層/量子ドット界面の保護膜として、厚さ約10nmのPMMA(アクリル樹脂)とフラーレンの誘導体のフェニルC61酪酸メチルエステルの混合層が導入され、電子輸送層のダメージを防ぐとともに、界面での欠陥密度を低減するなどの電子輸送層/量子ドット界面のパッシベーションが行われた。
さらに、バランスを取りながら電子と正孔を抽出し、量子ドット/正孔輸送層の界面での欠陥を低減するために、n/p型の両硫化鉛量子ドット層の間に、正孔輸送性を持つPMMAと酸化グラフェンの混合膜が導入された。これにより、正孔移動度が著しく向上し、量子ドット/正孔輸送層界面における正孔の抽出効率が高まり、電子と正孔の輸送と収集のバランスが向上したとする。
これらの結果、単一接合の硫化鉛量子ドット太陽電池として15.45%の変換効率が達成されたという。
今回の成果により、これまで硫化鉛量子ドット太陽電池の効率の向上を制限していた「低い曲線因子」の問題が解決されたこととなり、研究チームでは、将来の量子ドット太陽電池の産業化がさらに発展することが期待されるとしているほか、今回開発された相乗効果を持つ3つの界面のパッシベーション法とその発想については、量子ドット太陽電池の光電変換特性を向上させる新たなアイデアを提供するだけでなく、ほかのヘテロ接合太陽電池やLEDにも応用可能なことから、今後、高性能な光電変換デバイスへの展開も期待されるとしている。