2022年10月17日14時40分 / 提供:マイナビニュース
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東京工業大学(東工大)は10月14日、空間への注意に対する右脳優位性に「島皮質」(とうひしつ)という部位が関連していることを、脳波実験とfMRI実験から明らかにしたと発表した。
同成果は、東工大 リベラルアーツ研究教育院の大上淑美研究員、同・小谷泰則助教らの研究チームによるもの。詳細は、脳と行動の生理学的および心理的側面の間の相互関係に関する全般を扱う学術誌「Psychophysiology」に掲載された。
損傷した脳部位の反対の方向へ注意を向けられなくなる「半側空間無視」は、左脳よりも右脳に損傷を受けた場合に生じることが多いことが知られている。その理由としては、左空間への注意は右脳のみが対応するが、右空間への注意は左脳と右脳の両方で対応するからと考えられている。
このことは、右脳は損傷すると左右両方の空間認知に影響が生じることを意味しており、左脳よりも右脳がより重要である(優位性がある)といえるという。しかし、なぜ右脳が損傷した場合に多く障害が生じるのか、なぜ右脳が優位になるか、その理由についてはまだ不明な点が多いという。そこで研究チームは今回、空間的注意に関わる脳活動の違いを時間評価課題中の「刺激先行陰性電位(SPN)」(脳波実験)と脳の活動部位(fMRI実験)から検討することにしたとする。
空間的注意においては、島皮質が関与しており、左脳よりも右脳の島皮質が優位に働くということがわかっている。SPN脳波実験では頭皮上58個の高密度脳波電極から測定され、fMRI実験では血流動態から脳の活動部位が調べられることで、まず実験参加者による時間評価課題が行われた。
脳波試験では、視覚刺激も聴覚刺激も左側呈示された場合には右脳の活動が有意に増えていたが(右脳優位)、右側呈示では左脳の活動は増えていないことが確認されたほか、頭皮上電位分布では、左右どちら側に刺激を呈示した場合でも右脳の活動が増加していることが確認されたという。また、聴覚刺激と視覚刺激の2種類が行われたが、結果はどちらも同じだったという。
fMRI実験では、右側刺激時にのみ左前部島皮質が活性化し、右前部島皮質は左右両方の刺激で活性化していることが判明。左の前部島皮質は聴覚刺激または視覚刺激の右側呈示でのみ活動を示すのに対し、右の前部島皮質は全条件で活動が見られることが明らかにされた。
島皮質は、脳内で「顕著性ネットワーク」を構成し、この中心領域として活動することが知られている。同ネットワークは感情・認知・ほかの脳内ネットワークのコントロール・身体情報の知覚など、さまざまな機能と関係し、同ネットワークも右脳優位性を示すことがわかっている。
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注意機能が右脳優位になる理由は、顕著性ネットワークに属する島皮質が右脳優位性を示すためとされている。島皮質が右脳優位性を示す理由は、「フォンエコノモ神経」(VEN)の左右の脳での分布量の違いが原因と考えられるという。
VENは、主に島皮質と「前部帯状皮質」に存在することがわかっており、右脳には左脳よりも3割ほど多く存在するほか、VENはほかの神経細胞より信号を伝達する樹状突起が長く、そのため神経間の信号伝達を促進する高い伝導性を持っていると考えられており、右脳にVEN神経が多く存在するため、情報をより早く処理でき、結果として左脳よりも右脳の活動が高まることが考えられると研究チームでは説明する。
これらの結果から、入力される知覚刺激に対して、左脳よりも右脳での活動が増加し、その基となるのが顕著性ネットワーク中の島皮質であると考えられるとする。左脳に比べて、右脳にVENが最大3割程度多く存在するという事実は、今回行った脳波実験およびfMRI実験の結果と合致するとしている。
なお、今回の研究成果により、右脳損傷時に多く生じる半側空間無視に島皮質が関与していることが示されたことから研究チームでは、注意と島皮質の関与の詳細を基礎的な研究から明らかにできれば、半側空間無視という病態の緩和につながる治療法など、その応用を生み出せる可能性が出てくるとするほか、右脳は自尊心や他者の気持ち理解、社会性などにも関与していることがわかっていることから、研究をさらに進めることで、将来的には「なぜ人間にとって右脳が重要なのか」という謎の解明につながる可能性があるともしている。
また、今回、島皮質が右脳優位性になる理由として、VENが右脳により多く存在するということで説明ができたが、「なぜ右脳に多くのVENが存在するのか」については不明な点が残っているともしている。島皮質は迷走神経と呼ばれる神経の入力を受けており、迷走神経は心臓や内臓に張り巡らされているが、それは、左脳と比べて右脳は身体とより深くつながっている可能性を示唆しており、今後は、体性感覚刺激などの刺激を用いてfMRIや脳波の実験を行い、右脳優位性と島皮質の関係をさらに解き明かしていく予定としている。