2022年09月28日07時00分 / 提供:マイナビニュース
●佐々木蔵之介は「差し入れの王様」
4月クールのドラマ『やんごとなき一族』(フジテレビ系)のイジワルな姉・美保子役での怪演が大きな話題を呼んだ女優、松本若菜。SNSで「クセになる」と広まった“松本劇場”のコメディ芝居には松本発のアドリブも多かったという。その舞台演劇的なアドリブ力のルーツを聞くと、挙がったのは『吉本新喜劇』や『ごっつええ感じ』といったお笑い番組だった――。
そんな松本が演じるシングルマザーの佐知子が、主演の佐々木蔵之介演じる空吉と“大人の恋”を繰り広げるのが、ABCテレビのスペシャルドラマ『ミヤコが京都にやって来た! ~ふたりの夏~』(30日24:24~、10月1日24:05~・2日24:25~に3夜連続で放送)。2021年1月期に放送された連続ドラマの続編である今作は、風光明媚な京都を舞台に12年ぶりに再会した父・空吉(佐々木)と娘・ミヤコ(藤野涼子)2人のぎこちなくも愛おしい共同生活を丹念に描く。
今回は今作の見どころや共演した佐々木の印象、松本のアドリブ力のルーツや今後の展望について話を聞いた。
――昨年1月クールに放送された連ドラ版の『ミヤコが京都にやって来た!』は「東京ドラマアウォード2021ローカル・ドラマ賞」を受賞するほど高い評価を受けましたが、佐知子役で続投となる松本さんはどんなところが今作の魅力だと感じますか。
父と娘のうまくいかないちぐはぐな物語の中に娘が国際ロマンス詐欺に遭ってしまったりという今っぽさが織り交ぜられていて、それが趣のある京都の街並みとうまくマッチしているんですよね。空吉さんはサスペンダーやカラフルな靴下を身にまとっていて、ミヤコちゃんも前作では髪の下の部分をブルーに染めていて……見ている人もオシャレな気持ちになれるドラマだと思います。ドラマアウォードを受賞されたと聞いたときは、私も参加できた作品だったのでとてもうれしかったです。
――今回の続編で印象的だったシーンを教えてください。
佐知子には漆の世界で生きていきたいという夢があるのですが、私自身、昔から細かい作業が好きなので初めて漆塗りを体験できてワクワクしました。物語の中で、佐知子はその夢に試されます。伝統工芸を続ける過程では何度もふるいにかけられると知って、よく「神は乗り越えられない試練を与えない」と言うけどあながち嘘じゃないのかなと。諦めるのは簡単だけど、その何倍苦労しても続けることを選ぶ人たちがいて、その人たちがいるからこそ伝統が受け継がれている。そんな日本の伝統工芸の素晴らしさを感じられるのも見どころの1つだと思います。
――主演の佐々木蔵之介さんの印象や撮影の裏話を教えてください。
前回はご挨拶くらいしかできなかったのですが、今回は同じシーンが多くしっかりとお話しできる時間がありました。不安だった京都弁のセリフを教えてくれたり「台本にはこう書いてあるけど、この言い方のほうが京都の女性っぽいと思うんだよね」と提案もしてくれて、より一層佐知子像が濃いものになったと思います。あと、蔵之介さんしか知らないような四条のグルメもこっそり教えていただきました。誰にも言っちゃダメと言われているので、内緒なのですが(笑)。
――蔵之介さんは、差し入れにもこだわってると伺ったことがあります。
今回特に印象的だったのは、笹でくるんだ生麩の夏らしいおまんじゅうです。もちもちしていて、すっごくおいしくて、暑い夏の京都でするっと喉に入って……!「よし頑張ろう」と思わせてくれる差し入れを、和菓子を中心にたくさんいただきました。撮影現場は差し入れでめちゃくちゃテンションが変わるんです(笑)。蔵之介さんは差し入れの王様だなと思いました!
●ダウンタウンとの共演に「震えました(笑)」
――ここからは松本さんの最近のご活躍についてもお伺いします。4月クールのドラマ『やんごとなき一族』(フジテレビ)では、主人公の義理の姉・深山美保子役でのコメディエンヌとしての怪演が大きな話題を呼びました。その反響は松本さん自身も感じましたか。
ありがたいことに、SNSでもたくさんコメントをいただきまして……身近なところでは、マネージャーの娘さんがTikTokで私の動画を見ていると教えてくれて、姪っ子からも「皆で若ちゃんの早口のマネしてるよ」って。ドラマの公式InstagramやTikTokでも動画を公開していたのですが、いろいろなところでたくさんの人が見てくれているんだとビックリしました。松下洸平くんが名付けてくれた「松本劇場」というものを盛り上げられたらと思ってやっていたことを、逆に皆さんのほうから盛り上げて頂けて、思い入れがいっぱいある作品です。
――「松本劇場」というのは、松本さんの怪演ぶりを表現した言葉だと思うのですが、役者さんの名前がついた言葉と共に演技力の高さが世に広まっていくというのは滅多にない現象ですよね。最初は役名の「美保子劇場」というワードで呼ばれていたとか。
そうなんです。現場で「美保子劇場」と呼んでいたところを、松下くんが「いやもう松本劇場だよ!」と名前をつけてくれて。一緒のシーンでは「どうやって笑いをこらえるか……」と大変そうでしたが(笑)。
――松本劇場の代表作である「ドブネズミ チューチュー」や「いっちゃってる!」というワードは松本さんのアドリブだったということですが、ある種舞台演劇的なアドリブ力のルーツはどこにあるんでしょうか。
そうですね……そもそもお笑いが好きだったということが根底にあると思います。
――そうなんですか! お笑いというと。
私は鳥取県出身なのですが『吉本新喜劇』(MBS)も放送されていたので見ていましたし、ドリフや『ごっつええ感じ』(フジテレビ)、いわゆる“THE お笑い番組”を見て育ってきました。とはいえ、美保子のお話をいただいたときはこんな役になるなんてもちろん思ってもみなかったんです。1・2話をメインで担当されたチーフの田中亮監督と一緒に作り上げていくうちに、どんどん美保子像が膨らんでいって、最後にはモンスターになっちゃったって感じです(笑)。
――これまでで、一番好きだった芸人さんやお笑い番組はありますか。
えー! 難しいなぁ……! 今までで一番ですか? であればやはり『ごっつ』だと思います。先日ダウンタウンさんと番組でご一緒させていただいたときには、ちょっと震えました(笑)。
――(笑)。憧れの女優さんとの共演ではなく、ダウンタウンさんで“震えた”と。
また違うジャンルの震える対象でした。「初登場、松本若菜さんです」と呼び込まれて、「初めましてよろしくおねがいします。ダウンタウンさんとご一緒できるのが本当にうれしいです」と言ったのですが、きっとすごく嘘っぽく聞こえてしまっているんだろうな、本当なのに! ともどかしく感じてしまったくらいです。幼い頃からどういう動きをしたら人が笑ってくれるかとよく考えていましたし、学生生活を振り返ると友達とお腹を抱えてゲラゲラ笑っている思い出が多くて、もともとそういった冗談めいたものが好きだったんでしょうね。美保子の役でオーバー気味に演じるときや、プラスしてアドリブで何かできないかなというときに、ポンッと頭に浮かんだのは昔から私が見て来たお笑い番組。芸人さんの要素を少しでも吸収したいと思って見てきたものがドラマに活きたのかなと思っています。
――意外なところにルーツがあって驚きました。貴重なお話をありがとうございます。続いては『復讐の未亡人』(テレビ東京)も地上波放送としては8月に最終回を迎えたばかり。鈴木密(美月)役について教えてください。
2月に撮影が終わった作品なのですが、『復讐』が終わってすぐ『やんごと』だったので、人間味のないキャラクターから血が通いまくっている美保子というあまりにも真逆の役への切り替えが大変でした。密は静と動で言ったら静で、すべての表情を削ぎ落としたような役。監督ともたくさん話し合って、感情を隠して隠して動作も極力抑えて、ただ立っているときも理由のないときは腕を前にして組まないように手をぶらんとさせるというルールを決めたりしながら密像を作っていきました。地上波での放送が終わったことで密の復讐もやっと昇華できたのかなと。まだ原作は続いていますが、ようやく私もホッとしています。
――最後に、1月にデビュー15周年を迎えた松本さんですが、これからの「松本劇場」の展望を教えてください。
デビュー1年目のときから変わらず大事にしているのは「一歩一歩進んでいこう」ということ。私と周りのスタッフたち皆で年末にいろいろと話し合う機会があるのですが、とにかく一歩ずつ、1ミリでもいいから進んでいこうねと毎年確認しています。今年は一歩ずつではなくスキップや走って進めたような年になりましたが、歩幅が大きくても一歩一歩の重みは大事にしたい。丁寧に役を作ることが第一なので、きっとこれからもこの思いは変わらないと思います。
■松本若菜1984年2月25日生まれ、鳥取県出身。2007年に女優デビュー、2009年には映画『腐女子彼女。』で初主演、2022年には『復讐の未亡人』で連続ドラマ初主演を果たした。2017年、映画『愚行録』で第39回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。2010年5月より「とっとりふるさと大使」を務めている。2022年ドラマ『やんごとなき一族』の深山美保子役を熱演、“松本劇場”と呼ばれ話題に。代表作にドラマ『ミステリと言う勿れ』、『金魚妻』、映画『君が落とした青空』、『his』、『コーヒーが冷めないうちに』など。10月5日から日本テレビ系連続ドラマ『ファーストペンギン!』に出演する。