2022年09月06日18時20分 / 提供:マイナビニュース
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理化学研究所(理研)、早稲田大学(早大)、シンガポール南洋理工大学の3者は、光エネルギーで再充電可能な電源ユニットを含む電子部品を搭載したサイボーグ昆虫を開発したことを発表した。
同成果は、理研 開拓研究本部 染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員(理研 創発物性科学研究センター(CEMS)創発ソフトシステム研究チーム専任研究員兼任)、同・染谷隆夫主任研究員(理研 CEMS 創発ソフトシステム研究チーム チームリーダー兼任)、早大大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻の梅津信二郎教授、シンガポール南洋理工大の佐藤裕崇准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のフレキシブルエレクトロニクスに関連する全般を扱う学術誌「npj Flexible Electronics」に掲載された。
都市型捜索救助、環境モニタリング、危険地域の検査などに対し、行動制御用の小さな集積回路を備えたサイボーグ昆虫が考えられている。サイボーグ昆虫の移動を無線で長時間制御し、環境データを取得するには、10mW以上を生成できる太陽電池などの環境発電装置が必要とされている。
太陽電池の出力は面積に比例するが、サイズが大きくなるとその重さと大きさから可動部の動きが制限され、昆虫の運動能力を損なってしまうため、昆虫の運動能力を維持したまま発電装置を取り付けて、10mW以上の出力を達成するのはこれまで困難だった。
そこで研究チームは今回、柔軟で超薄型の有機太陽電池モジュールをはじめとする電子デバイスを、昆虫の基本的な運動能力を損なわずに実装し、再充電と無線通信が可能なサイボーグ昆虫の作製をすることにしたという。
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今回の研究では、体長約6cmのマダガスカルゴキブリ(昆虫)が用いられた。電子デバイスのうち、無線移動制御モジュールとリチウムポリマー電池(LiPo)は柔らかいバックパックを介して、昆虫の胸部背側の曲面に沿って装備。厚さ4μmの超薄型有機太陽電池モジュールが腹部背側に備えられた。
LiPoなどを搭載したバックパックは、昆虫の正確な3Dモデルを基に設計され、弾性ポリマーが3Dプリントにて作製された。バックパックの昆虫と接する側は、胸部背側の曲面形状と一致する柱状構造に設計されたという。このような構造により、昆虫の個体間の形状の違いによらず、曲面に完全にフィットし、硬い電子デバイスを安定的に実装できたという。また、この接着は、繁殖環境において1カ月後でも維持されたともしている。
さらに、昆虫の腹部の観察が行われ、その自由度を確保するため、ポリマーフィルム(フィルム)上に作製された超薄型有機太陽電池を、接着剤領域と非接着剤領域を交互に配置する「飛び石構造」で昆虫の腹部背側へ貼り付ける方法を採用。この方法での取り付けの有効性が、昆虫の障害物の通過にかかる時間によって定量化されたほか、地面の上でひっくり返った状態から元の体勢に戻る起き上がり能力を評価する形で、同方法の有効性が検証された。その結果、腹部背側への十分に薄いフィルムと飛び石構造の組み合わせは、昆虫の運動性を保持することが示されたとする。
加えて、超薄型有機太陽電池モジュールの出力を調べたところ、昆虫腹部の曲面形状の有効面積を最大化することで、最大17.2mWの高出力を実現できることが判明したという。
実際に生きたサイボーグ昆虫を用いて、充電と無線移動制御の検証が行われたところ、バッテリーが完全に放電された状態から、疑似太陽光をサイボーグ昆虫上に30分間照射しバッテリーを充電。充電されたバッテリーからの電力を利用し、刺激オン・オフを制御する信号をサイボーグ昆虫に無線受信させ、約2分間にわたって昆虫尾葉に接続した刺激電極へ刺激信号を入力することで、右方向への移動制御を複数回試行し、無線制御が繰り返し成功したことが確認されたとする。
なお、腹部の変形は多くの昆虫で見られることから、この研究で提案された飛び石構造で超薄型の電子素子を取り付ける戦略は、ほかの昆虫種にも適用可能だと研究チームでは説明するほか、基本動作中の昆虫の胸部と腹部の変形を考慮すると、胸部に剛性または柔軟性のある要素を置き、腹部に超軟質デバイスを取り付けるハイブリッド電子システムは、サイボーグ昆虫に効果的な設計であるといえるとしている。今回の成果については、昆虫の寿命が続く限り、電池切れの心配なく長時間かつ長距離における活動が可能となり、サイボーグ昆虫の用途が拡大することが期待できるとしており、今後は、より薄型化された制御回路を用い、センサなど、ほかのコンポーネントと組み合わせることで、サイボーグ昆虫の機能をさらに拡大できることも考えられるとしている。